家の掃除はハウスキーパーにお願いするのが、カリフォルニア都市部の一般家庭。会社勤めをしていた30歳になったばかりの頃、同僚たちの花金の誘いを断り「週末の来客に備えて今日は帰宅して掃除をしなきゃ」と言うと、「仕事を持つ女は30代になったら自分で掃除をしてはだめ! ハウスキーパーを雇って経済を回すのが責任なのよ」とレクチャーされた。改めてまわりに聞くと、単身でも夫婦ふたり暮らしでもファミリーでも、毎週もしくは隔週でハウスキーパーを雇っている人が多く、学生でさえルームメイトたちでお金を出し合って掃除はプロに依頼していることがわかった。
家の掃除は金銭的代償と引き換えであるという家庭で育つ子どもが、片付けや掃除が苦手なのはわかりやすい。かつて子どもが通っていた学校での保護者会でのこと。教室や机の片付けができない生徒が多すぎるとの教師のコメントに対し、私が「子どもに教室や学校の掃除をさせては?」と提案したところ、ほかの親から「子どもは掃除をするために私立学校に通わせているのではない」と猛反対された記憶もある。
どうやらアメリカ人の掃除に対する考え方は、「しなくていいならしたくない、する必要があるならなるべく楽に」が通説のよう。私が床の雑巾掛けをすると、「なぜそこまでするの!」と驚かれるほどだ。だからか、アメリカにはなるべく自己負担を軽くし、時短で楽して抜群の効果を発揮する洗剤が多いと思う。たとえば、使うことをはばかられるような環境にやさしくない強力なもの。そして、あまりしたくない掃除を楽しいものにしてくれる愉快なネーミングの洗剤だ。
まず、頼もしい名前でアメリカで長年愛されている「バーキーパーズフレンド」(=バーテンダーの友)。まさにバーや飲食店をピカピカにしておきたいプロが手放せないクレンザーとして知られている。イチゴとルバーブのパイでもおなじみ、野菜のルバーブを料理した後の鍋がピカピカになっていたことから、1882年に化学者が開発した商品。漂白剤や塩素は入っておらず、ルバーブに含まれるシュウ酸などが主成分なので安全に自然に還元される。強い効果があるので使用の際は手袋が必須だが、キッチンや風呂などの水回りだけでなく、スニーカーまでピッカピカにするロングセラーだ。
100年以上も前から真鍮の手すりやカウンター、カトラリーなどをピカピカに磨き上げておきたいバーの経営者やバーテンダーたちに重宝されてたクレンザーは、いまや家庭用としても浸透。水回りにも万能だ。「バーキーパーズフレンド ソフトクレンザー」2.99ドル
キッチンで仲良しになってみたいのが「アングリーママ」。電子レンジの内部が汚れたり、匂いがついてしまったら、水とビネガーを加えた「アングリーママ」にご登場いただくと、頭から湯気を出して怒りだしながら、庫内をスッキリしてくれる。
電子レンジの汚れや匂いが気になる時は、「アングリーママ」の出番。水と酢を入れて、電子レンジの中でクルクルと回ってもらうと頭から湯気を出して「こんな汚れ、ダメっ!」と憤慨しながらきれいにしてくれる。重曹を入れて冷蔵庫の消臭を担当する「寒いママ」とペアで販売されている(9.99ドル) https://magnitudo.net
そして、大手P&Gの「ミスタークリーン」は、ツルっとした頭の「ミスタークリーン」が有無を言わせず頼もしい洗剤シリーズ。なかでも、「クリーンフリーク」(=掃除フリーク)というスプレー式の液体洗剤は、シャワーやトイレなどいつでもサッときれいにしてしまいたい場所で使うのが定番だ。香りは、(意外にもナチュラルな?)レモンとラベンダーの2種類だが、けっこうキツい。
シュシュとした後は、サッと拭くだけでバスタブがピカピカになるミスター・クリーンシリーズの「クリーンフリーク・ディープクリーンミスト」は4.99ドル。自然派系のエコ洗剤に慣れていると、洗浄力の強さにやや戸惑うほどの効果を発揮!
ミスタークリーンが自ら公言、「掃除をなるべく楽に、時短できる商品を作ってるよ」
このほかにも「Oh, Yuk!(うへっ!)」という排水口洗剤や、「掃除の友」という掃除道具用ベルト(シザーバッグや工具ベルトの掃除版)など、ユニークな商品名にクスッと笑える掃除グッズにはありとあらゆるものがある。
ちなみに、ときめき片付けメソッドで知られる、ロサンゼルス在住の近藤麻理恵さん=「コンマリ」が動詞として使われるようになったアメリカでは、パンデミックで在宅時間が長くなり、生活について考える機会が多く、あえて掃除にポジティブに向き合ったり、片付けや掃除をする人も増えたようだ。昨年のSCジョンソン社の調査では、パンデミック中に清掃習慣が改善された人が6割、さらにミレニアルやZ世代は「掃除を楽しんでいる」と答えた人が8割で高い年齢層の2倍という驚くべき統計が出ている。意識と習慣が変わりつつあるアメリカの掃除、道具や洗剤もこれからさらに楽しいものが増えそうだ。
Photography & text: Chinami Inaishi
稲石千奈美
在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。
この記事の元URL: https://madamefigaro.jp/series/yukai/210928-la-cleaner.html