LAで愛され続ける老舗デリカテッセン「カンターズ」の24時間。
人気のピザ屋やアパレルショップ、昔ながらの映画館やニューススタンドなどが混在するフェアファックス通りは、ロサンゼルスで古くから続くユダヤコミュニティの中心地としても知られる。1931年創業、50年代にこの通りに移転したCanter’s Deli(カンターズデリ)はデリカテッセン、ベーカリー、レストラン、バーを併合したランドマーク的存在の店だ。

数年前まで24時間営業を続けてきたこの店も、現在は土曜とオンラインテイクアウトを除き、朝6時から深夜23時半までの営業に。それでも「いつも開いている場所」としての記憶は、24時間体制のレストランが稀なロサンゼルスで、店の空気にもレガシーにも色濃く残っている。メニューはかわらないけれど、時間帯ごとに異なる表情がカンターズらしいと感じるのだ。
毎朝5時には焼き上がるハラーブレッドやベーグル、菓子パンやケーキが並ぶおいしい香りに包まれる早朝の店内。ロックス(スモークサーモン)にクリームチーズ、ケイパーや薄切り玉ねぎをのせたベーグルがユダヤデリらしい定番の朝食。卵やパンケーキなども24時間注文可能。自家製のピクルスも朝からテーブルに登場する。昼が近づけば、12センチほどの高さに重ねられたパストラミやコーンビーフのサンドウィッチが主役となり、中でもザワークラフトとロシアンドレッシングを合わせてホットサンドに仕立てた「ルーベン」はいまも昔もいちばん人気。


そして夜が更ければバーやライブ帰りの若者や仕事を終えた人々が、広く居心地良い空間とあたたかい食事を求めて流れ込んでくる。コンサートを終えたテイラー・スウィフトやボノが来店したのもそんな理由からだ。
店内奥のバー「Kibitz Room(キビッツ・ルーム)」では不定期にライブが行われ、デリに家族で通っていたハイム三姉妹も幼い頃からここで演奏していたというエピソードもLAならでは。
壁には、店の歴史を物語る古い写真が並び、数え切れないほどの著名人の足跡が飾られている。たとえば「オバマブース」には大統領時代に予告なしで突然店を尋ねた時の写真、「ガンズ・アンド・ローゼズ ブース」には学生時代にレストランでバイトをしていて、いまでも常連のスラッシュの写真など。イラストレーターや脚本家が残していった手描きの作品もある。

三代にわたる家族経営を担うひとり、ジャッキー・カンターは「ユダヤデリとは地元の人々が憩いを求めていつでも集まれる場所」と話す。
彼女が「ユダヤのペニシリン」と呼ぶマッツォボールスープは、クラッカーのようなマッツォを粉にした団子入りのチキンスープだ。風邪を引く、なんだか調子が悪い時に常連客が求めてやってくるスープは、カンターズで注文するとソフトボールくらいに大きな団子と「これでひとり分?」と思うほどあふれんばかりに注がれて驚く一方で、なるほど、これで心身ともに癒やされるのかと納得する。

VIPも地元の常連客も旅人も分け隔てなく温かく迎えるのがデリたるもの、というのだ。数十年勤務のスタッフも多いという老舗は、伝統的なユダヤ系のデリカテッセンでありながら、LAの多様性を大きな懐で体現してきた。目まぐるしく変わりゆくLAで、これからも「いつも行ける場所」として存在し続けてくれることを願いたい。
カンターズ
Canter’s Deli
419 N Fairfax Ave, Los Angeles, CA 90036
(+1)323-651-2030
https://cantersdeli.com/
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- photography: Chinami Inaishi
●1ドル=156円(2026年5月現在)