パリ・オペラ座を支える舞台監督と衣装担当が語る「私にとってのガルニエ宮」。

Paris 2025.06.10

今年、創立150周年を迎えたオペラ座ガルニエ宮。この劇場で活躍するエトワールや舞台監督、衣装、コーラス、楽員、舞台美術家にインタビュー。彼らにとってのオペラ座とは?

Les Régisseurs
[ 舞台監督 ]

舞台裏の頭脳派オールラウンダー。

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バスティアン・ル・ラヴァレック
Bastien Le Ravallec

バイオリニストになるための修業を経て、舞台に立つより裏方が好きなことを実感。ソルボンヌ大学で音楽学を学んだ後、フィルハーモニー・ドゥ・パリのオーケストラのプロダクション担当を経て2023年にオペラ座に参加。

【仕事について】
ダンスステージマネージャーをしています。この仕事はまさしく"なんでも屋"。主にダンサーたちのアートプランニングを管理し、エトワールからソリスト、セミソリスト、コール・ドゥ・バレエにいたるまで154人のダンサー全員のデータを扱います。ひとつの企画にダンスステージマネージャーは、ふたり付きます。

【私にとってのガルニエ宮】
まさかここで働くなんて思ってもみなかった夢の場所。グアドループ(カリブ海の島)生まれなので、オペラ座はとても遠い存在でした。

【好きな場所】
舞台裏、特にコントロールルーム。舞台の上も裏も見渡せる場所です。

【継承について】
即実務、即実践の日々。オーケストラ出身のミュージシャンなのでダンスの知識は皆無でした。リハーサルでは、アントルシャ(バレエの技のひとつ)とは何かなど、即座に覚える必要がありました。

【印象的な出来事】
公演中、タイトルロールを踊っていたソリストの代役を急に立てる事態になった時。とても緊張しました!

【最高の思い出】
『ジゼル』を担当した時。古典ですが、とても美しい作品です。

【オペラ座の迷信】
舞台では縄のことを「corde(コルド)」とは言いません。必ず「guinde(ガンド)」と言います。

【プレミア公演の日のマイルール】
ヤバいと思うことばかりで、何かに感謝したり考える余裕すらありません。

【直近の作品】
ミカエル・カールソン作、アレクサンダー・エクマン振り付けの『Play』


モイラ・ドゥラットル
Moïra Delattre

ソルボンヌ大学で舞台芸術学士の学位を取得後、国立舞台芸術技術学校へ。その後、いくつかのオペラハウスで臨時職員として働き、2009年にオペラ座に参加。

【仕事について】
ステージマネージャーを担当。オペラやダンスの世界では舞台監督ともいいます。ステージマネージャーは楽譜を見ながら舞台の進行管理をし、全体を見るプロダクションマネージャーの補佐をします。プロダクションマネージャーは、プランニングから衣装合わせにいたるまで目を配りますが、私たちステージマネージャーは出演者から裏方まで全員と連携します。上演時には幕の開け閉め、照明、場面転換の指示を出します。

【私にとってのガルニエ宮】
課外授業でパトリック・デュポンのダンスを観て以来、ここで働きたいとずっと思っていました。その時は天井桟敷の席から観ていたのですが、幕間に舞台裏を覗きに行ったんです。活気に満ちた様子を見て、ここで働きたいという気持ちが固まりました。

【好きな場所】
コントロールルームと呼ばれる舞台監督ルーム。舞台がとても近く、出演者の息遣いまで聞こえるような唯一無二の場所です。

【継承について】
この仕事への愛にあふれています。人に伝える喜び、学ぶ楽しみ。チームワークあってこその仕事です!

【印象的な出来事】
ナタリーが出演していた『夢遊病の女』の公演の際、途中で観客に「彼女はもう歌えない、公演を中止します」と伝えなければならず、舞台を中断した時は大変でした。

【最高の思い出】
オリンピックの演出も手がけたトマ・ジョリーによる『ロミオとジュリエット』を担当したこと。演出家は横柄な態度は一切なく、全員に温かく接してくれました。ソリストのエルザ・ドライシヒとバンジャマンも最高に素晴らしかったです。

【オペラ座の迷信】
よくない迷信は過去のものなので気にしません。

【プレミア公演の日のマイルール】
イタリア人のように、「In bocca al lupo(狼の口の中へ=グッドラックと同義語)」と言い、「Crepi il lupo(狼が死にますように)」と答えます。

【直近の作品】
2月28日から、ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』をワジディ・ムアワッドの演出で上演しました。

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Les Costumières
[ 衣装 ]

舞台に花を添える名脇役。

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スザンヌ・ダンゲル
Suzanne Dangel

ドイツ出身。シュトゥットガルトにある劇場で経験を積み、南部ウルムにある縫製会社で3年間、マイスターとして勤務。1992年よりオペラ座勤務。

【仕事について】
衣装責任者を務めています。新しい企画があると、コスチュームのデザインを担当するデザイナーとの共同作業になります。私が生地を選び、サンプルを作り、提案をします。ドレス製作、テーラード、小物など各アトリエと調整しなくてはなりません。フィッティングの手配をし、かつらやメイク担当とも連絡を取ります。プレミア公演までずっとコスチュームに寄り添っています。

【私にとってのガルニエ宮】
毎日、裏の中庭を通る時、ここで働ける自分がいかに恵まれているかを実感します。最高の環境です。

【好きな場所】
何千ものティアラが並ぶ装飾アトリエ。

【継承について】
必要不可欠なもの。アトリエの中でこっそりと口伝されます。

【印象的な出来事】
2年前、1978年にロンドンで初演されたケネス・マクミラン振り付けのバレエ『マイヤーリング』の再演に携わりました。すべての衣装を初演時にできるだけ忠実に再現しなければなりませんでした。200着以上あったので、とにかく大変でした。

【最高の思い出】
2019年に世界で初演となった『ボディ&ソウル』です。振付家のクリスタル・パイトは、バレエ団がやや困難な状況に陥っている最中、すべてを管理し、ダンサーのモチベーションを上げ、みんなをトレーニングしてくれました。

【オペラ座の迷信】
緑のものは使わない!

【プレミア公演の日のマイルール】
「トイトイトイ!(悪魔祓いのおまじないの言葉、グッドラックと同義語)」と言われてもお礼は伝えず、代わりに肩越しにツバを吐きます。

【直近の作品】
2月8日から上演されたジョン・クランコ演出によるチャイコフスキーの『オネーギン』を担当しました。


エミリー・ブリュッソン
Émilie Brusson

ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでコスチュームの学士号を取得。2024年9月にパリ・オペラ座アカデミーに参加。

【仕事について】
パリ・オペラ座アカデミーの職人部門に所属しています。コスチューム担当が2名、かつらとメイク担当が2名います。アカデミーでは1年かけて、歌手、ダンサー、伴奏、演出家など若手アーティストの養成を行っています。

【私にとってのガルニエ宮】
ダンス経験のある少女なら誰でも憧れる場所。

【好きな場所】
チュチュの海が広がる木張りの部屋、ル・セントラル・コスチューム。

【継承について】
コスチューム担当になるための研修はありません。先輩のスザンヌを見て学びます。みなにどう声をかけるか、歌手やダンサーなど身体が道具である彼らと、フィッティングの際にどう向き合うべきかを学んでいます。

【印象的な出来事】
初めてフィッティングに臨んだのが『カルメン』の時。ドレスがしっくりこないとソリストが泣き出しました。その時、自分の発言には細心の注意を払わなければならないこと、そして相手の心理を読み取ることが大事なんだと実感しました。

【最高の思い出】
『マイヤーリング』を初めて観たのはロンドンの劇場の天井桟敷からでした。2回目はガルニエ宮の1階席の4列目からでした。その時に観たマクミランの振り付けにぞっこんになりました!

【オペラ座の迷信】
緑のものを使うのは禁止!

【プレミア公演の日のマイルール】
舞台を間近で観たいので、小ネズミのようにどこかに忍び込みます。

【直近の作品】
ピエール・ラコットの振り付けによる『パキータ』を担当しました。

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アールドゥヴィーヴルへの招待
2025年、創刊35周年を迎えたフィガロジャポン。モード、カルチャー、ライフスタイルを軸に、 豊かに自由に人生を謳歌するパリジェンヌたちの 知恵と工夫を伝え続けてきました。 その結晶ともいえるフランスの美学を、さまざまな視点からお届けします。

*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋

photography: Laura Stevens (Madame Figaro)  text: Lætitia Cénac (Madame Figaro)

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