ドロテ・ジルベールと案内する、オペラ座ガルニエ宮の知られざる一面。【パリの永遠の名所を歩く】

Paris 2025.04.27

Le Palais Garnier
オペラ座ガルニエ宮〈9区|オペラ〉

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過去のダンサーたちの魂が宿るフォアイエにて。この部屋とステージを繋いだ50mをダンサーたちはデフィレで行進する。なお、ドガの絵画に描かれているのは、火事で消失したペルティエ通りのオペラ座のフォワイエ・ドゥ・ラ・ダンスだ。

Dorothée Gilbert トゥールーズ出身。7歳でバレエを始め、1995年パリ・オペラ座付属バレエ学校に入学。2000年に17歳でパリ・オペラ座バレエ団に入団し、07年『くるみ割り人形』の初主演でエトワールに任命される。25年9月25日にオペラ座の定年規定の42歳を迎える。26年秋に公開される映画『オペラ座の怪人』に出演予定。

「ガルニエ宮は世界一美しい仕事場。でも、第二の家族がいる場所だからメゾンとも呼べる」

今年150周年を祝うシャルル・ガルニエが建築した建物について、こう語るエトワールのドロテ・ジルベールは25年近く通い、その歴史の一部とともに生きているのだ。お気に入りの場所はフォワイエ・ドゥ・ラ・ダンス。舞台の裏手にあり、シャンデリアが壁の鏡に煌めくゴールドの空間で、舞台に出る前のダンサーたちがウォーミングアップをする。

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上:シャンデリアと天井画に圧倒されるグラン・フォワイエ。横断アーチの中央の彫刻はローマ神話の男神に扮したガルニエだ。 左下:廊下の両端の丸い小サロンを見上げるのもドロテの楽しみ。西側の天井にはこうもり、東側には伝説の火トカゲが。 右下:左右に翼を広げるような大階段。建築家は観客同士が見て、見られる劇場空間としての役割をここにもたらした。

「私がジゼルやタチアナといった演じる役柄へと入りこむ場所がここよ。とても美しい空間なので、舞台に出る前にインスピレーションが得られるの。オペラ・バスティーユでは得られないことね。過去の女性ダンサーたちの肖像画が掲げられていて、ダンスの歴史がある。素晴らしい舞台で観客を感動させた大勢のダンサーたちの魂が根付いている、って感じられるの」

19世紀末のオペラ座には、ドガの絵画にも黒服の男として描かれているように裕福な会員がいた。彼らが女性ダンサーと交流を図る場という役割を果たしていたのが、このフォワイエ・ドゥ・ラ・ダンスなのだ。それもいまや昔。デフィレでは仕切りを外して舞台と繋がり、ダンサーたちはこの壮麗な空間から歩みを始める。学校の生徒と団員合わせて350人近くがぎっしりとここに集められて、行進の出の順番を待つのだ。

「全員が一緒になる機会って滅多にないので、これはとてもよい時間なのよ。エトワールになって初めてここから歩き出した時は緊張で震えたわ(笑)。でもティアラをかぶり、ひとりで舞台を歩いて、挨拶して......この瞬間、エトワールになったことを実感したのを覚えてる。オペラ座内での自分の位置を誰もが意識せざるを得ないのがデフィレね」

客席の椅子のデザインもガルニエが監修。会員用だった席にはいまも“ABONNE(会員)”の文字が読み取れる。
建築に際してシャルル・ガルニエが重点を置いたひとつは、会員が専用入口から劇場に向かう時に見上げる大天井までの眺めが最高に壮麗であることだった。
観客を幻惑する340個の電球が灯るブロンズとクリスタルのシャンデリア。重さ8.65t を支えるケーブルが原因で、1896 年に事故が起きたことも。
劇場内、金箔の豪奢な植物の装飾の中に野獣の顔を見つけてみよう。
グラン・フォワイエの手前の廊下に、イタリア職人によるモザイクの穹窿天井。その両端の4貴石をあしらったゴールドの装飾「ル・パヴァージュ」も見逃さないように。
パリ・オペラ座の起源である王立音楽アカデミー創設年1669 年が掲げられている幕の上部。ガルニエ宮創立時の天井画を残しつつ、その上に重ねられたマルク・シャガールの天井画は今年60周年を祝う。
ガルニエ宮では音楽の神アポロンの竪琴が随所に見られる。
大階段の麓の両脇に潜むのは、女性像が持つ燭台のためのガス管を隠したブロンズのサラマンダー。火を消す力があるとされる伝説の動物だ。
ナポレオン3世が催した新オペラ座の建築コンクールに、装飾の詳細も含むトータルな設計図を1カ月で準備して優勝したシャルル・ガルニエ(1825~98)。

ドロテがガルニエ宮を観客として訪問したのはいまから30年前のこと。王子様とお姫様が住むシャトーみたい!と彼女を感嘆させた素晴らしさはいまも不変だ。

「観客席に座ることも時にはあるのよ。特別なことを体験できる、って中に入るや予感させられる素晴らしい雰囲気! シャガールの天井、装飾など見るものがたくさんあって……カーテンが上がる前、赤い座席に座った時からもうスペクタクルが始まってるのね」

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使い込まれた木製巻き上げ機と太いロープが時代を物語る地下室で。ドラマティックバレリーナの誉れ高いドロテだが、オフステージでは常に笑顔満開。

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舞台から10m下の貯水湖。建築時に工事を遅らせる原因となった地下水をガルニエは逆手にとり、湿地帯の土地に立つ建物を安定させるための均衡として湖を設けた。 

楽屋やリハーサルスタジオのある裏側も含めて、ガルニエ宮はとにかく広い。ドロテは地下でその昔は舞台装置の変換を担っていた巻き上げ機が並ぶ作業室にも美しさと歴史を見いだし、また小説『オペラ座の怪人』に登場する伝説的存在の貯水湖にも興味津々である。これはフィクションではなく、建築上の必要から設けられた実在の人工湖。広さは1000平米以上あり、鯉が住み、また消防隊員が潜水のトレーニングに活用している。劇場の知らないところを全部見てみたいの!と意欲的なドロテ。地下室の壁に10910年のパリ大洪水で浸水した時の水位が記されていることを教わって、大興奮していた。

シャルル・ガルニエが機械装置も含めて建築の大傑作を生み出したのが、いまから150年も前のこととは信じるのが難しい。彼は公演鑑賞だけではなく、人々が着飾って歩いたり、休憩したくなるように大階段やグラン・フォワイエをゴージャスに設計した。このナポレオン3世様式と形容される壮麗な劇場には、いまも建築当初と同じように朝から大勢の見学者が集まってくる。この上なく魅惑的な場所で自分を撮影するために、ドレスアップしている女性見学客も少なくない。ガルニエ宮、永遠なれ!

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着工から13年後、1875年1月15日に落成された新オペラ座。建築家の名を取り、ガルニエ宮と呼ばれるようになった。

Le Palais Garnier
オペラ座ガルニエ宮〈9区|オペラ〉
Place de l’Opéra 75009 ★GoogleMap
01-40-01-22-63
Ⓜ︎OPÉRA

劇場見学
営)10:00~17:00 ※昼公演時は10:00~13:00
休)1/1、5/1
料)15ユーロ、ガイド付き23ユーロ
https://www.operadeparis.fr/

大村真理子
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター。出版社で女性誌編集部のデスクを務めた後に渡仏し、フリーエディターとして活動。フィガロジャポンのパリ支局長在任中、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)を著す。

*「フィガロジャポン」2025年5月号より抜粋

●1ユーロ=約162円(2025年4月現在)
●日本から電話をかける場合、フランスの国番号33の後、市外局番の最初の0を取ります。フランス国内では掲載表記どおりかけてください。
●各紹介アドレスのデータ部分のは地下鉄の駅を示しています。
●掲載店の営業時間、定休日、商品・料理・サービスの価格、掲載施設の開館時間やイベントの開催時期などは、取材時から変更になる可能性もあります。ご了承ください。

photography: Mohamed Khalil text: Mariko Omura

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