パリ・オペラ座バレエ団のダンサーを養成する使命を守る、名門バレエ学校の現在。
パリ9区のガルニエ宮から郊外のナンテールへ。場所は変われど、世界最高峰と称えられるパリ・オペラ座バレエ団のダンサーを養成する使命を学校は1713年の創設以来、いまも守り続けている。
L’École de Danse

バレエ学校の生徒たちは、いまでもオペラ座のプチ・ラ(子ネズミ)と呼ばれることがある。学校がパリの西の郊外ナンテールに引っ越すまで、生徒たちが学ぶのはガルニエ宮の裏側の屋根裏のフロアを占めるスタジオだった。レッスンでたてる音や廊下を移動する音が、ネズミが屋根裏を這い回る音を思わせたことからこう呼ばれるようになったらしい。午前中に一般学習の授業があり、午後はダンスのレッスン。かつては現在のように未成年の深夜労働についての法が厳しくなく、劇場が同じ建物内にある便利さもあり、生徒たちの中には週に5~6回オペラやバレエの公演で夜に舞台を務める者も。いま、その昔の生徒たちのダンススタジオはジムとなり、授業を受けていた教室は小さなスタジオとして、ダンサーたちが外部のガラのための稽古を行っている。

伝統を正確に伝える、最高の環境を未来のエトワールに!
ナンテールに学校が移ったのは1987年。ジョゼ・マルティネス芸術監督がローザンヌのコンクールでスカラシップを獲得し、オペラ座のバレエ学校で1年学ぶ機会を得たのがこの年のことで、この際に引っ越しを体験したそうだ。来年40周年を迎える採光に留意された建物は、3つのパートで構成されている。ひとつはダンス用、ひとつは学業用、そしてもうひとつは寄宿舎。おかげで生徒たちは通学時間がゼロとなり、地方出身の子も入学しやすくなった。この新しい建物は文化省を相手に交渉を続けた前学校長のクロード・ベッシーの悲願の実りである。彼女は72年から32年間の長きにわたり生徒たちの育成に励み、この間大勢の素晴らしいダンサーが学校から輩出された。2004年に彼女を後継し、使命の遂行に務めているのは元エトワールのエリザベット・プラテルだ。彼女はベッシー校長が引き継ぎに当たって希望した「オペラ座の伝統を正確に伝えること」を守る一方、スポーツドクター、栄養士、キネ(理学療法士)などを学校に集めて生徒たちの日常の身体管理への配慮も決して怠らない。
バレエ学校は12歳以下の第6ディヴィジョンから18歳以下の第1ディヴィジョンまでの6年制だ。ポジションの習得に始まり、カンパニーのレパートリーのバリエーションを踊れるまでのカリキュラムが用意されている。シーズン末に行われる進級試験で上の学年に上がっていくが、もし第1ディヴィジョンを終えても入団試験に受からなかった場合は、最終学年を2回繰り返す生徒もいる。エトワールのロクサーヌ・ストヤノフ、ヴァランティーヌ・コラサントらがその例で、これは実のところ芸術面も含め力を付ける良いチャンスなのかもしれない。なおカンパニー入団には国家資格の中学卒業証書が必要とされる。第1ディヴィジョンの男女合計23名の運命の分かれ道となる来シーズンに向けた内部入団試験が行われたのは6月末。その結果は入団か、第1ディヴィジョンをやり直すか、ジュニアバレエ団か、はたまた契約団員か……?

エリザベット・プラテル
Elisabeth Platel
『ジゼル』を踊って1981年にエトワールに。2004年から20代目の学校長を務める。13年に外部の生徒にフレンチスタイルを指導する夏の講習会を設けた。
[ 公開授業 ]
学年別に授業を見せる、デモンストレーション。
毎日習うクラシックバレエの基本、それにパ・ド・ドゥ、コンテンポラリー、マイム、キャラクターダンスなど日々ナンテールで学んでいることを、生徒たちが学年別に教師とともにガルニエ宮で披露する『デモンストレーション』。毎年12月に午前が年少3学年、午後が上級3学年という2公演を3回行っている。生徒たちの家族、バレエを習う子ども、バレエの指導者たちで常に満席となる公演だ。来シーズンは12月5日、19日、20日に開催される。
[ 学校公演 ]
生徒のための創作も! 6年間の学びを発表。
4月、最終学年の生徒たちのビッグイベントである学校公演が行われる。芸術面を見せるだけでなく、ヘアメイク、コスチューム、リハーサルなどに加え、ストレスの管理や突然代役でステージに立つといった公演にまつわるあらゆることを経験し、入団後のプロダンサーの仕事を知る機会となる。6年の学びの成果を披露できるプログラムは今シーズン、クラシックの技巧が満載された『祭りの夜』、思春期世代に向けてジョン・ノイマイヤーが創作した『ヨンダリング』、そして元エトワールのクレールマリ・オスタがゲストにかつてのパートナー、マチュー・ガニオを招いて創作した『星の王子さま』の3作。これは衣装、舞台装置、さらに音楽も新作という贅沢な作品だった。
- editorial direction & text: Mariko Omura
- editing: Eri Arimoto
*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋