ニューヨーカーは列に並ぶことが得意ではないーーそう思っていたのだけれど。
彼らは地下鉄が混んでいれば、次の便を待つし、カフェで長蛇の列ができていれば、別の店へ向かう。限られた時間を効率よく使うのが、得意なニューヨーク市民にとって、長時間じっと待つことは無駄の極み?
しかし、そんな彼らですら並んでいるものがあるという。
それが、ブルックリンの人気ベーカリー、「radio bakery」(ラジオベーカリー)の二号店だ。

2023年にグリーンポイントに開業して以来、熱狂的なファンを獲得。ユニークなクロワッサンとフォッカッチャが看板メニューだが、同店の共同オーナーで、ペイストリーシェフである、ケリー・メイシンが打ち出した、バニラビーンズの粒が入ったカスタードをクロワッサン生地につめ、カリッと焼き上げた「バニラカスタードクロワッサン」は、特に人気を博した。また多くのメニューがすぐ売り切れてしまうことでも有名だ。
3月上旬にプロスペクト・ハイツにオープンした新店舗には、瞬く間に話題となり、インターネット上では「何時に行けば、どれくらい並び、何が買えるのか?」が熱く議論されている。
「朝イチに行ったのに、お目当てのパンはすでに売り切れだった」、「昼の焼き上がりを狙うと比較的空いている」、「1時間半も並ぶほどの、価値ある味なのか?」などなど...。オンラインで「比較的空いている」と言われていた、11時台に訪れると、並んでいたのはわずか、10人ほど。待つこと10分、スムーズに店内へ。
店内奥には、ペイストリーを実際に調理しているスペースがあり、カウンターから見える。賑やかで、活気ある制作現場を肌で感じることができるのが嬉しい。ところが、目の前の客が次々とクロワッサンをオーダーするも、「本日は完売」の一言に肩を落としている。やはり人気メニューのクロワッサンはすべて売り切れだった。
しかし、その瞬間、奥から焼きたてのサンドイッチが運び込まれてきた。「Sweet Pea」(スイートピー)(14ドル)はマメとミント、フェタチーズがフォッカッチャに挟まれたサンドイッチ。一口かじると、カリッとした食感、モチモチしたフェタ、ほのかな甘みと塩気のバランスに思わず頬が緩む。これは確かに、美味しい!普段列をなさない、ニューヨーカーが並ぶのも納得だ。

www.radiobakery.nyc

長谷川安曇
東京出身、2004年からニューヨーク在住。フリーのライターとして活動しながら、映像制作にも携わり、キャンペーンやミュージックビデオのプロデュースとフィルムメーカーとしても活動する。www.azumihasegawa.com