ニューヨークといえば摩天楼と華やかな街並みで知られているが、遊園地やテーマパークとなると話は別だ。この街に存在する代表的なアミューズメントパークといえば、ブルックリンのコニーアイランドのみ。それも春夏の期間限定で営業しており、市内にはテーマパークを設ける広大なスペースもほとんどない。さらに、厳しい冬に、屋外で長時間並ぶのは、現実的とはいえない。そんな中、新たな体験型テーマパークとして、注目を集めているのが、現在「The Shed」で開催中の『Luna Luna: Forgotten Fantasy』だ。

ジャン=ミシェル・バスキアやキース・ヘリングの作品も登場

この展示は、20世紀の著名アーティストが手がけたカラフルで賑やかなアトラクションを一堂に集めたもの。実際に乗り物に乗ることはできないが、アンドレ・ヘラーが企画し、アートとエンターテインメントが融合した内容となっている。特に、ジャン=ミシェル・バスキアの観覧車、キース・ヘリングのメリーゴーラウンド、さらにはデイヴィッド・ホックニー、サルバドール・ダリ、ロイ・リキテンスタインらによる没入型パビリオンなど、豪華なアーティスト陣が集結している。
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忘れ去られたアートが蘇る物語
世界初のアート遊園地『Luna Luna』は、1987年にアーティストのアンドレ・ヘラーによってドイツ・ハンブルクで誕生した。前述した20世紀を代表するアーティストがデザインしたアトラクションが実際に稼働する、革新的な試みだった。しかし資金難や政治的な問題により、計画されていたツアーは中止されプロジェクトは忘れ去られてしまう。30年以上の間、「Luna Luna」のアート作品はテキサスの倉庫に眠り続けていた。

ニューヨークタイムズ紙によると、プロジェクト再起動のきっかけは、2019年にクリエイティブディレクターのマイケル・ゴールドバーグが「Luna Luna」の存在を知ったこと。壮大な構想に衝撃を受けたゴールドバーグは、いままでナイキやブルックリン美術館などのプロジェクトに携わってきたが、これほど大規模なアートとエンターテインメントが融合した企画は聞いたことがなかった。彼が周囲のアート関係者やコレクターに問い合わせても、その存在について知っている人はほとんどいなかった。それが逆に彼の興味を引き、「これは歴史的なプロジェクトであり、復活させる価値がある」と確信した。彼は試しに、かつての創設者であるアンドレ・ヘラーに連絡を取ると、ヘラー自身もこのプロジェクトを再び動かすことを考えていたという。
ドレイクの関与とプロジェクトの大規模展開
そこでゴールドバーグは、世界的に有名なラッパーであり、文化的な影響力を持つドレイクと彼のチーム 「DreamCrew」 にこのプロジェクトを打診。同グループはドレイクとアデル・ヌールが設立したマルチメディア企業で、文化や音楽に基づく物語を追求し、トレンドを大規模に発信することを目指している。彼らは、同企画を現代の視点で再構築し、より大きなスケールで世界中の人々に届ける計画を立てた。

そこで1億ドル規模の投資が行われることが決定し、修復の専門家と連携し、大規模な巡回展が計画されることになった。2023年12月、ロサンゼルスでの再公開を皮切りに注目を集め、現在ニューヨークの「The Shed」での展示が実現した。あまりの人気のため、当初は2月中旬までの予定だったが、3月までの延期が決まった。
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ニューヨーク展示の見どころ
ニューヨーク版では、「Sleep No More」を共同で手がけた、名高いショーディレクターのフェリックス・バレットと、ミュージックディレクターのマティス・ウィズが演出を担当。サウンドトラックには1987年のオリジナル楽曲(マイルス・デイヴィスやフィリップ・グラス)を現代のアーティストがアレンジしたものが融合されている。アンドレ3000の楽曲も加わっており、プエルトリコのパフォーマンスデュオ「Poncilí Creación」によるキャラクターが館内を巡り、訪問者とインタラクティブな体験を提供しているそう。長い時間を経て、蘇った幻の遊園地ツアーをぜひ体感したい。
https://lunaluna.com/