収穫期の小諸へ。日本ワインが生まれる現場を訪ねた、フィガロワインクラブのイベントをレポート!
島崎大が手がけた2016年と、西畑徹平が手がけた2022年。ソラリス 東山カベルネ・ソーヴィニヨンを、造り手の解説とともに飲み比べる特別な体験が実現した。収穫期の畑、信州の食、小諸の生産者との交流まで盛りだくさんなツアー。フィガロワインクラブが訪ねた、マンズワイン小諸ワイナリーでの一日をレポート。

ブドウを味わい、畑で造り手の話を聞く。

9月19日、フィガロワインクラブが訪れたのは、長野県のマンズワイン小諸ワイナリー。自社畑12ha、契約農家の畑を含めて17haから、年間約4万5000〜6万本を生産する。ワインジャーナリストの石井もと子が監修する、日本ワインの土地と造り手を訪ねるシリーズの第1回だ。
収穫が始まり、畑でも醸造場でも仕事が続く季節。「普段は取材でも避けている時期ですが、活気のあるワイナリーと、まだ実がついているブドウを見ていただけるまたとない機会」と石井。小諸の生産者たちがこの日のために顔を揃えてくれた。

マンズワイン代表取締役社長、島崎大の案内で、さまざまなブドウを見比べる。葉や房の形、果皮の色も品種ごとに異なり、「こんなにたくさんのブドウをいちどに見るのは初めて」と驚く参加者たち。「食べてみてください」と島崎に促され、おずおずとひと粒を口に運ぶ場面も。

マンズワインが開発した「レインカット栽培法」は、雨による病害を抑え、果実が十分に熟すまで収穫を待つことを可能にした。中国地方や九州を含む全国の畑で採用され、雨の多い日本の垣根栽培を支える、画期的な発明だ。

マンズワインは2010年から有機栽培を始め、小諸と上田を合わせた畑の約35%が有機JAS認証を取得している。「認証取得そのものが目的ではなく、より質のよい果実を収穫するための有機栽培管理です」と島崎。使える農薬が限られるからこそ、畑を細かく観察し、病気の兆候に早く対処する。
「日本のシャトー」を目指した庭園と、「龍眼」の原木。

創設当初から、ワインと土地の文化を楽しめる「日本のシャトー」を目指してきた小諸ワイナリー。専属の庭師が手入れする万酔園も、その構想のひとつだ。日本で育てたブドウのワインを、日本の景色や美意識とともに楽しむというコンセプトに基づいている。

ここでの見どころは、樹齢100年を超える「龍眼」の原木。善光寺ブドウとも呼ばれるこの品種を、マンズワインは醸造用ブドウとして研究し、苗を契約農家に供給して広めてきた。1973年に開設された小諸ワイナリーも、もともとはこの龍眼をワインにすることが目的のひとつだった。2026年には国際ブドウ・ワイン機構(OIV)の品種リストに登録され、日本のワイン用ブドウとして改めて注目を集めている。

庭園の地下には、1970年代の試醸ワインも保管されるヴィンテージセラーがある。畑での試みをワインにし、熟成後まで確かめる。小諸で続けてきた栽培と醸造の研究を伝えるセラーである。
日本の食文化から始まったワイン造り。

マンズワインの親会社は、醤油で知られるキッコーマン。なぜ醤油メーカーがワイン造りを始めたのか。「家庭や飲食店で楽しく飲んでもらう。そのためのワインを造るという思いで始めたワイナリーのひとつ」と石井がトークショーの口火を切る。島崎は「食文化の国際交流」という創業の理念を紹介し、龍眼から欧州系品種への転換や、ボルドー留学で学んだ栽培と醸造について語った。

千曲川 龍眼 2024は、爽やかな酸を持つすっきりとした辛口。千曲川 シャルドネ ビオロジック 2023には、伸びやかな酸味と充実した果実味がある。「大手でも試験的な取り組みはあっても、有機を名乗れるワインを造るところは少ない。マンズワインはその先駆けだと思います」と石井。

信州の秋を楽しむランチは、ソラリスのスパークリングワインで乾杯。糖分を補うドザージュを行わない、辛口の味わいだ。魚介の前菜には辛口の泡、信州牛のローストビーフにはソラリス ユヴェンタ2023を合わせたい。メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドした、若いうちから楽しめるソラリスのセカンドワイン。

2016年と2022年、受け継がれるソラリスをテイスティング。

この日のハイライトは、島崎が醸造を担った2016年と、現・栽培・醸造責任者の西畑徹平による2022年のソラリス 東山カベルネ・ソーヴィニヨンの比較試飲。「造り手の個性が出るのか、それとも東山の個性の方が強いのか」と石井が問いかけ、試飲が始まる。上田市塩田平にある東山は、小諸より温暖で、晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンを十分に熟させるために選ばれた土地だという。

2016年は、果実の生育期に雨が少なく、ワイン用として理想的な小粒のブドウが育った。収穫期には雨が増えたが、レインカットで果実を守り、収穫を待った。「最終的に東山にするかどうかは、最後の最後に決める年もあります」と島崎。この年も約2年間の熟成を経て、東山として送り出すことを決めたという。
2022年は、春の気温の変動で萌芽にばらつきが生じ、開花期の病害も収量に影響した。一方、10月中旬以降は天候が回復し、糖度が上昇。「収量が減ったが、質の高い果実が得られた」と西畑。凝縮感とフレッシュさを生かすため、ポンプを使わないルモンタージュなど、ワインへの負担を減らす工夫を取り入れた。
瓶熟成が進んだ2016年は、アタックから力強く、骨格も輪郭も明瞭。まだ硬さもあり、黒系果実にミントやリコリスが香る。縦に伸びるような奥行きが印象的だ。一方、2022年はフレッシュさと凝縮した果実味を備え、若いながらも柔らかく、口中に広がる。
ふたりに共通するのは、徹底した選果。機械で除梗した後も、人の手で果梗の小片まで取り除く。西畑は、自分が育てたブドウを捨てることにはためらいもあるとしながら、質の悪い果実が全体に影響することを考え、島崎から受け継いだ厳しさで選別すると語った。

西畑は、職務を引き継ぐ時に島崎から伝えられた言葉を振り返る。「自分が好きなワインではなく、マンズワインのソラリスを造ることが大切だ」。気候の変化に対応しながら、受け継いだワイン造りを次の世代へ渡していく。「一貫性のあるワイン造りは、我々にとって必要なこと」。
3つのワイナリーが語る、小諸の土地と未来。

「小諸という産地をさらに理解するために、ふたつのワイナリーの醸造家に来ていただきました」。石井が紹介したのは、ジオヒルズワイナリーの冨岡隼人と、テール・ド・シエルの桒原(くわばら)一斗。ふたりを交え、マンズワインを含む3社のソーヴィニヨン・ブランを飲み比べる。
ジオヒルズワイナリーの畑がある御牧ヶ原は、千曲川左岸の標高約800mの台地。風が吹き抜ける畑のブドウを、夜中から明け方に収穫し、低温のまま仕込む。右岸にあるテール・ド・シエルはさらに標高が高く、浅間山由来の土壌と霧が特徴。桒原は酵母を添加せず、発酵を自然に任せる。「直線距離は近くても、標高差があるために個性のあるワインになる」と石井。
冨岡は、小学生や高校生が栽培、収穫、仕込みからラベル制作や販売まで携わる活動も紹介。この日味わったムニエの赤も、子どもたちと造ったワインだ。
桒原が大切にするのは、そばや野菜の畑も共存する農村の景色。フジバカマの開花やアサギマダラの飛来が、ピノ・ノワールの収穫期を知らせるという。石井は「一面をブドウ畑にするのではなく、生態系を保ちながら、多様性のある産地をつくろうとしている」と解説。


雨から果実を守るレインカットも、有機栽培も、徹底した選果も、よりよいブドウを育て、ソラリスの品質を守るため。その工夫を畑で見て、造り手の言葉を聞き、ワインで確かめた。同じ小諸でも標高や土壌によって異なる個性を味わい、日本の風土でワインを造ることへの理解を深め、それぞれが帰途に着いた。
- photography: Mari Hamada
- text: Hiromi Tani