パリの景観保護が裏目に? 40度超の猛暑で浮上する冷房不足と政治論争。

Paris

街の気温は40度超え。
その時、パリジャンは?

熱波の合間の7月21日、気温は最低14度、最高26度。日差しは強いが日影は涼しく、朝晩は肌寒いほど。これが本来のパリの夏なのだが、今年は既に5度の熱波に見舞われる異例の事態となった。

FRANCE TVの7月12日の天気予報より。フランスの大半が真っ赤な熱波アラートに染まっている。

最高34度に達した最初の熱波は早くも5月末にやってきた。2週間続いた6月の第2波では、2日間にわたって気温が40度を超えた。気温が下がってひと息ついたのも束の間、1週間後には第3波が到来し、再び35度超えが2週間。これまではヴァカンス時期に1〜2週間、30度程度の暑さを我慢すればやり過ごせたのだが、8月にはさらに2度の熱波が到来。パリジャンたちは来年の夏に向けて早くも不安の声をあげている。

昼間は鎧戸を閉めて熱をシャットアウト。アルミ製の窓用サンシェードが人気商品となり、白い遮熱ペイントを施した窓も目につく。暑いアパルトマンを抜け出して夜の公園で眠る人。映画館やホテルに避難する人。オリンピック競技であれほど批判されたセーヌ川やサンマルタン運河での水浴も人気を博している。

セーヌ川では7月4日から8月30日まで市内3カ所に遊泳場が出現し、大人気に。サンマルタン運河も熱波第2波に合わせ、前倒しで6月17日から遊泳を解禁した。こちらは橋の上から飛び込んで怪我をする若者が50人以上も。

そんなパリで浮上しているのがクーラー問題だ。Parisecologie.com(パリエコロジー・ドットコム)の統計によれば、パリの一般住宅での冷房普及率は一軒家で31%、集合住宅では20%。集合住宅では室外機設置のために管理組合の許可が必要だが、美観の問題でなかなか下りない。これは職場でも同様で、オフィスビルなら空調が効いているけれど、古い建物の一室に居を構える中小企業にはクーラーのないオフィスも少なくない。

そんな中、第2波の真っ只中に極右政党の国民連合が提案したのは“Plan Clim”、冷房大計画だ。「学校、病院、介護老人ホームにクーラーを導入する」というもので、これだけ見れば文句のつけようがないのだが、温暖化への長期的対策を無視して冷房普及を唯一の解決策とすることにエコロジー移行大臣が反発。エコロジー政党や不服従のフランス党などを巻き込んで冷房論争が始まった。来年春の大統領選挙を控え、猛暑対策や冷房の是非はまさに政治問題になったのだ。

強い日差しが照りつける昼間はどのアパルトマンも鎧戸を閉めている。
まるで工事中の店舗のように白い遮熱ペイントを施した窓。

第3波の到来を前に、スーパーマーケットのリドルが打ったポータブル型クーラーの入荷キャンペーンに買い物客が殺到する姿も大きく報道された。政府が病院のために3万台の冷房機を注文したせいもあるのか、クーラーの品薄は続いている。

先日、franceinfo局の時事検証番組「Vrai ou Faux(本当かフェイクか)」は“オスマン建築を壊すべき?”というテーマを取り上げた。オスマン建築の屋根は亜鉛製で、真夏の太陽のもとでは最高80度まで加熱されてしまい、最上階に住む人たちは、時に47度にまで上がる室内で暑さに喘いでいるという。だがこの屋根はユネスコの無形文化遺産に指定され、フランス歴史的建造物管理建築家(ABF)の規制下にあって別素材に葺き替えることも叶わない。冷房の室外機も外観を損なうために設置できず、外壁に断熱材を加える工事もままならないのがオスマン建築なのだ。地球温暖化など想像もしなかった19世紀に出来上がった美しきパリの景観は、熱波に耐えて生き残ることができるのだろうか。

franceinfoの番組「Vrai ou Faux」より。テーマは「猛暑、オスマン建築は壊すべき?」。屋根の温度は最高80度にも!

Masae Takata
「フィガロジャポン」のパリ支局長。熱波に重なったメンズとオートクチュールのファッションウィークでは、水のボトルと扇子、ポータブルファンがジャーナリストの必須アイテムに。

  • photography & text: Masae Takata (Paris Office)

*「フィガロジャポン」2026年10月号より抜粋