「ケイ・コレクション・パリ」新メニュー開発試食会に独占潜入レポート。

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虎ノ門ヒルズの最上階49階に仏ミシュラン3ツ星の小林圭シェフによるレストラン「ケイ・コレクション・パリ」が誕生して2年。今年4月、運営会社が虎屋傘下のメゾン ケイへ移り、KEI グループ直営店として新たな物語が始まった。「大人の遊び場」というコンセプトはそのままに、9月から新しいメニューが披露され始めた。8月、パリから帰国して新メニューの開発をスタッフとともに行う小林シェフに密着。試食会の模様、小林シェフのこだわりをレポートする。

8月頭、レストラン「ケイ・コレクション・パリ」で、9月の新メニュー提供に向け試作と試食が行われた。厨房では現場を取り仕切る大久保智尚シェフ以下、8人の料理人が忙しなく動き回っている。カウンター席には小林シェフ、虎屋18代目の黒川光晴社長をはじめ、サービス担当をふくめ総勢20人を超えるメンバーが参加した。

料理人が店のメニューに載せたいと思う料理を直接小林シェフにプレゼンする貴重な場。最終的な料理の総数は、アミューズ、前菜、メイン、デザートまで20皿に上った。試食会前に小林シェフに新体制について話を聞いた。

レストランは、スタッフとお客様の感性が交差する劇場。

―新体制での新しい現場のシェフを紹介してください。

現場を仕切るのは、大久保智尚シェフです。彼はフランスでの修業、そしてオーナーシェフとしての経験もあるので、現場のディレクションを共有しやすい。9月から新しいメニューも登場しますが、「ケイ・コレクション・パリ」が2年間やってきたメニューを全部作れるようになって欲しいと自分から彼にリクエストしました。それがベースにあってから、新しい要素を入れていくという考えでやってください、と。これまでの2年間で培ったことは、この店の歴史です。それがあるから進化できるのです。自分がいる8月中に試食をして、9月以降に出すメニューが決まっていきます。

「ケイ・コレクション・パリ」は世界展開を考えている店だからこそ、日本人が世界に出ていくためには日本の良さを発信していかないと世界から受け入れられない、と彼に伝えています。まずは食材が大事。どう発展させるのか、和の要素が多めでもいいし、フレンチに寄ったっていい、食材と向き合ったときにおいしさを引き出すためにはどうすればいいんだろうと考える店だと説明しました。

―今後、どのような店にしていきたいですか?

夜景が素晴らしいからこの店に来るんじゃなく、成熟した大人の居場所にしたい。ここはカウンターを使ってその良さをアピールする劇場のような空間。普通に「ケイ・コレ行こうよ」、みたいな風になって欲しい。

―その劇場の演者は誰だとお考えですか?

スタッフとお客様の両方です。お客様がいなかったらリハーサルになる(笑)。その日の最高の食材と向き合い、ポテンシャルを引き出したひと皿を中心に人が集って、感性が交差して新しいインスピレーションが生まれる。そういう大人の遊び場に発展させていきたいです。

スタッフが試食会で自作の料理をシェフにプレゼン。

緊張感が漂う中、小林シェフや黒川社長を囲み、試食会がスタート。まずはアミューズから順々にテイスティングが行われる。「お願いします」と、緊張しながら厨房のスタッフのひとりがカウンターにアミューズの皿を差し出し、サービスのスタッフが小林シェフの前に皿を置いた。

前菜の黄色いとうもろこしの冷製のスープが登場した。

「一番おいしいところがすりながしだと思うけど、これだけ要素が入りすぎてしまうと……。フォアグラの香りが入りすぎてしまうと、味がいろんな方向に行ってしまう。主役はとうもろこし。とうもろこしをいかにおいしく食べさせるかだから。もう少し食感も欲しい。やっぱり、クルスティヨン(サクサク、パリパリとする食感)のようなアクセントを足さないと。海外のお客様には特に必要。自分たちは日本から世界を目指しているわけだから」

小林シェフは、スタッフに対して海外を目指す自分たちの目標をはっきり掲げる。

次に提案されたのは、前菜のフォアグラ最中。スパイスと旬のシャインマスカットをフォアグラと合わせたとスタッフは説明する。

すると小林シェフが立ち上がり、スタッフを自身が座っていた客席に座らせた。

「まず見栄えの方。ソースか何かで気持ちナッペする(ソースなどをかけること)とか。宝石を作るような感じで。客席に座って、お客様目線で料理を見た方がいいね」

厨房と客席では照明の明るさが異なることを説明して、実際に座らせて料理がどう見えるのかをスタッフに体験させる。

次に指摘したのは味だ。

「食べたときに最後にフォアグラの味が残るので、フォアグラの独特の香りや味が強く出過ぎてしまわないように気をつけて」

カウンターに置かれたのは、真ん中に赤いジャムが乗せられた前菜のフォアグラの皿だ。真ん中がルバーブのコンフィチュールで、虎屋の小倉あんを使ったという。

「これデザートじゃないよね。甘すぎる。もっと料理の方に持っていかないと、最初に食べ疲れる」

小林シェフは日本料理とフランス料理の違いを説明する。

「日本の前菜は甘すぎるってフランス人はよく言う。和食では最後に水菓子としてメロンとか果物を食べるでしょ。なぜかといったらそれは、料理で砂糖をたくさん摂っているから。だからこそ、メロンくらいで締める。いまでこそシュクレ・サレ(甘くしょっぱい)も広まっているけど、フレンチのデザートがなぜあれほど甘いかは理由がある。元々、フレンチは最初の前菜からメインまでほぼ砂糖が入っていない料理。入っていたとしても、肉のソースにほんの少しだけとか。だからこそ、最後のデザートでしっかりと甘さを楽しむ。でも、この料理は要素的に甘すぎると思うから、もっと料理の方に寄せて」

ほかにも、小林シェフは見た目やテクスチャーの大切さも説明する。

「もっと華が欲しい。花を使うという意味ではなくて、欲しいのは華麗さ。運ばれてきたときに、ああ、宝石が来た、と思えるようなもの。49階のこの店の窓から見える夜景に勝てるくらいの宝石を持ってこないと」

次に登場したのは、小さなダイス状にカットした金色のジュレが飾る前菜。パテ・アン・クルート(肉のペーストをパイ生地に包んで焼いた肉料理)の要素を最中にしてみようという意欲作だ。パイ皮と鴨で作ったテリーヌとの間を繋ぐのにフォアグラのテリーヌを少しだけ入れて、鴨の上にはデーツなどのコンフィチュールを乗せて、その上にコンソメのジュレを乗せた。

「アクセントをもう少し入れた方がいいね。パテ・アン・クルートではあるんだけど、カリッとした食感を足した方がいい。それからキャトル・エピス(4種のスパイス)の代わりにポワブル(こしょう)をもう一回しっかり効かせた方がいい」

この日の試食会で披露されたのは20皿にも上るが、小林シェフがOKを出したものはひと皿もなく、やり直しあるいは没となった。その後、何度か練り直しやチャレンジを経て、いくつかのメニューが9月から提供されることになった。その中から一部を紹介しよう。

最中 フォアグラ シャインマスカット¥2,200 

前菜「最中 フォアグラ シャインマスカット」は、パリッとした最中に包まれた濃厚なフォアグラと、レーズンや生姜、カルダモンなどを合わせたペースト状のコンディモン(調味料)の上を、大粒のシャインマスカットが飾る。ねっとりとしたフォアグラとスパイスが香るコンディモン、そしてシャインマスカットの爽やかな甘みが渾然一体となって調和する。

青首鴨のロースト 丸茄子田楽¥8,000

いちじくの葉でスモークして香りづけをし、ローストした青首鴨に、パリの「レストラン ケイ」のレシピによる、レバーとチョコレートのタプナードソースを合わせたメイン「青首鴨のロースト 丸茄子田楽」。強い旨みを持つジビエを芳醇なソースで味わう秋のひと皿だ。付け合わせの丸茄子の田楽は、素揚げした丸茄子に、ジュ・ド・ヴォライユや赤・白2種の味噌、チョコレートなどを合わせた味噌を塗り、焼き上げて田楽仕立てに。とろりとした熱々の丸茄子とリッチな田楽味噌が絶妙にマッチする。

クレームダンジュ¥1,800

天使の羽のようなメレンゲが飾るデザート「クレームダンジュ(天使のクリームという意味)」。シェーブル(山羊)のフロマージュブランに、蜂蜜とヨーグルトのソルベが重ねられている。甘酸っぱいフリュイルージュのソースがアクセント。

今後も新しいメニューが追加されていくそう。この試食会で小林シェフは、日本から世界を目指すという「ケイ・コレクション・パリ」の目標や、フランス料理の大切なディテールをスタッフにしっかり示していた。小林シェフや大久保シェフ、そしてスタッフが感性と技術を発揮して季節の最高の素材をどのように表現していくのか、興味は尽きない。

問い合わせ先

ケイ・コレクション・パリ
https://www.kei-collection.com/

  • text: Kaoruko Yasuda