アンダー30万円で叶える、大人の本気ウォッチ。妥協なき8本を徹底トーク。
安くはない買い物だからこそ、日々ハードに使うのは少し気が引けてしまう——そんなウォッチとの距離感は、きっと誰もが一度は感じたことがあるはず。気負わず身につけられて、ビジネスシーンにもしっくり馴染み、自分らしいスタイルに寄り添ってくれる一本を、今回はアンダー30万円という予算で徹底検証する。

■ 座談会メンバー
【スタイリスト】MASAMI TANAKA
ハンサムと大人のフェミニンの程よいバランスを得意とするスタイリスト。フィガロジャポンで長年ウォッチ&ジュエリーの新作記事に携わっており、造詣が深い。長く愛されるベーシックなデザインが好きで、自身の愛用ウォッチは「タンク ルイ カルティエ」。
【若手エディター】IZUMI
今年32歳。「若手」と呼ぶには少々無理が出てきたものの、本人はまだその肩書に縋っている。厄年を迎え、厄払いの一環としてウォッチの購入を検討中。ウォッチについては、「定番モデルなら知っている」程度の完全なる初心者。骨格は自己診断でナチュラル。骨張って肉厚な手元に、運命の、そして一生の一本は見つかるのか(懐事情は無視)。
【エディター・ウォッチ担当】TERUMI
ファッションとカルチャーを中心に編集者歴25年。ウォッチ&ジュエリーを担当するも、マイウォッチ選びは彷徨っている状態。ドレスウォッチも気になれば、メンズライクな大きめフェイスも好き。大きな買い物だからこそ失敗したくない……もう誰か自分に似合うものを指定してくれ、と内心思っている。
「エントリープライス」で終わらない、30万円以下の実力
エディター・ウォッチ担当TERUMI(以下、T):さて、今日のテーマは「30万円以下」で選ぶ、大人のリアルウォッチです。
若手エディターIZUMI(以下、I):これまでなかなかのハイプライスウォッチを見てきたので、30万円以下と聞くだけで一気に親近感が。時計の世界ではこの価格帯が、いわゆる「エントリー」なんですかね。
スタイリストMASAMI(以下、M):ウォッチ初心者さんも挑戦しやすい価格帯だよね。でも、きちんとブランドが長年培ってきた技術やデザインの蓄積はきちんと反映されていてむしろなぜこの価格帯で実現しているの?と思うほど。ウォッチをよく知っている人ほど、この価格帯の一本をさらっと取り入れていたりもする。
T: カジュアルでポップなタイプではなくて、ビジネスシーンでも活躍するエントリープライスのウォッチは誰もが知りたいんじゃないでしょうかね。……というか、自分が知りたい。
M:それどこの?って聞かれたくない?
I:聞かれたいです、そしてドヤ顔で言いたい。
T:ではまず、知るところから始めましょう。
ロンジン|自信を纏う「コンクエスト」と、麗しの「ドルチェヴィータ」
T:まず腕にのせてみたいのがシンプルなロンジン。最初は「コンクエスト」から。
I:第一印象、おっしゃる通りすごくシンプルで端正ですね。
T:「コンクエスト」は1954年に誕生した、ロンジンを代表するエブリデイウォッチ。70年以上前に誕生し、スポーティなエレガンスの伝統を継承しているのが特徴なんだそう。
I:エレガントだけど、スタイリッシュさもありますね。
M:そこが上手い。スポーティなのに、武骨になりすぎない。ジャケットの日に着けても、「今日は運動します」感が出ない(笑)。
T:そうそう。オンにもオフにも、スッと入ってくれる。カラーはいろいろあるんだけど、今回選んだのはこのコンビです。素敵でしょ。

M:ケースの厚みとベゼルのカットもきれい。コンビって華美な印象だったけれど、品よく収まりの良いバランス。
I:確かに。ゴールドが入っているのに、全然ギラギラして見えない。この「イエローPVD」って、普通のゴールドとは何が違うんですか?
T:PVDは、「物理蒸着」というコーティング技術。金属を薄い膜のように定着させる方法で、メッキより傷や色落ちに強いのが特徴なの。ステンレスのすっきりした印象を残しながら、ゴールドの華やかさを足せるというわけ。
I:なるほど。“盛る”というより、ゴールドを“効かせる”感じですね。
M:そうそう。アクセサリー感覚で見ても、かなり使いやすい。
T:見た目だけじゃなく、フォールディングクラスプやトリプルセーフティといった留め具の仕様までしっかりしてる。日常使いへの配慮が行き届いているの。
I:“地味に効く”が積み重なって、結局いちばん手に取る時計になるのかも。一本目のセレクトにも良さそうです。
T:かなり優秀だと思う。
I:……でも、ロンジンと聞いたらもうひとつ気になる名前が。「ドルチェヴィータ」。名前からして、ずるくないですか?
M:もう響きだけで人生を楽しんでる(笑)。
T:ふふ(笑)。「ドルチェヴィータ」は、ロンジンを象徴する縦長のケースが特徴。今回はメイプルレッドと名付けられたボルドーレッドのレザーストラップを合わせた、クラシックな一本を選びました。

I:これはまた、コンクエストとは空気が全然違いますね。急に色っぽい。
M:ね。ローマ数字のフォント、この縦長のフォルム、それにボルドーのレザー。クラシックなんだけど、艶っぽいんだよね〜。
T:同じブランドでも、ここまでキャラクターが違うのがおもしろいところ。
M:だから、一本目に「コンクエスト」で頼れる相棒を迎えて、二本目に「ドルチェヴィータ」でちょっと色気を足す、なんて流れも素敵だと思う。
I:一本目を選んでいるはずなのに、もう二本目の話になってる(笑)。
M:時計って、だいたいそういうもの(笑)。
◆覚えておきたい、ウォッチ初心者のための用語辞典
【PVD】金属を薄い膜状に定着させるコーティング技術。メッキよりはがれにくくや色落ちに強い。
【フォールディングクラスプ】ブレスレットを折りたたむように開閉する留め具。着脱しやすく、腕から落としにくい。
【トリプルセーフティ】留め具がうっかり外れないよう配慮された、安全性の高い開閉構造。
タグ・ホイヤー|「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 ソーラーグラフ」足したいメンズライクな質感
I:続いて、ロンジンちゃんとは対照的なテイストのコチラを試したいです。
T:タグ・ホイヤーくんね。
I:はい、敬称には“さん”とか“くん”をつけたくなるなかなかにスポーティなイメージ。ロンジンで甘さを味わったあと、一度セイボリーな一本に触れたくなって(笑)。
M:今回あるのはこの2本。どちらも「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 ソーラーグラフ」なんだけど、色味でだいぶ印象が違うよね。サイズはともに38mmで女性の手元にもなじみやすい大きさ。
T:ではまずは王道的な一本を。白い文字盤に黒のベゼル、赤いフランジがきいた「ソーラーグラフ」。ステンレスブレスレットでこちらもアンダー30万円。

M:スポーツ好きの人、特に男性との会話のきっかけにもなりそう。「それ、フォーミュラ1ですよね」って言われたら、一気に距離が縮まるよね。
I:トークピースってやつですね。

T:もう一本は、今年、2026年に登場したばかりの新色。ベージュのTHポリライトケースに、揃いのラバーストラップを合わせた「フォーミュラ1」のパステルカラー(WBY1164.FT8114)。軽量で、こちらは¥286,000。
M:さっきの白黒赤と印象ががらっと変わって、ワントーンでやわらかい雰囲気だね。チャイラテを飲みたくなる(笑)。
I:同じシリーズでほぼ同じフォルム、なのに、素材違いとカラートーンの違いでこんなに印象が変わるんですね。
T:全然タイプの違う兄弟みたいだよね。けど、どちらもソーラー駆動だから、電池交換いらずなのは嬉しいポイント。ちなみに、ほかにも限定の色違いがあるよ。それぞれ、かなり印象が違って面白い。
I:タグ・ホイヤーって、スポーティでメンズライクなイメージが強かったから、こんなニュアンスカラーもあるんだと驚きです。可愛い〜。
◆覚えておきたい、ウォッチ初心者のための用語辞典
【ソーラーグラフ】太陽光でも人工光でも発電できるソーラー式ムーブメント。フル充電なら暗所でも約10ヶ月駆動する。
【THポリライト】タグ・ホイヤー独自の軽量素材。ケースに使うことで着け心地が軽くなる。
【フランジ】文字盤とベゼルの間にある、目盛りなどが刻まれた縁の部分。
シチズン|「ザ・シチズン」に見る、日本品質の隠れた実力
T:続いてはシチズン。今回持ってきたのは、「ザ・シチズン」の「AQ4080-52A」です。
I:「シチズン」ではなく、「ザ・シチズン」。名前からして、ちょっと特別感がありますね。
T:そうなの。「ザ・シチズン」は、ウォッチとしての本質を追求したシリーズ。この一本はケース径37.2mmで、年差±5秒という高精度のエコ・ドライブを搭載しています。

I:年差±5秒……って、年間で5秒しかずれないということですよね?
M:そう考えると、かなりすごいよね。しかも光で発電するエコ・ドライブだから、定期的な電池交換も不要。毎日使う時計として、ものすごく優秀。
I:なんだか、仕事ができる人みたいな時計ですね。何も言わずに全部やっておいてくれる(笑)。
M:まさに(笑)。しかも、ただ優等生なだけじゃないのよ。ケースの角の面取りだったり、ザラツ研磨の光り方だったり、細部がすごくきれい。
I:なるほど。キラキラさせるというより、面そのものを美しく見せる感じですね。
T:そう。派手に主張するわけじゃないけど、オーラを纏ってる感じ。こういうところに日本の時計づくりらしさを感じるよね。
M:分かる人には分かる、という色気だ。
T:しかもパーペチュアルカレンダーや時差設定機能まで備えていて、この価格。かなり好感度が高いです。
I:時計のほうが、私よりカレンダーを把握することになりますね。
M:こちらがバタバタしていても、手元だけはきっちりして見える(笑)。
T:そうそう。ズボラな我々を、時計が社会人として成立させてくれる(笑)。ただ、そこまで時計に人格を盛ってもらうなら、着ける側も多少はちゃんとしないとね……。
I:せやな……(小声)。
◆覚えておきたい、ウォッチ初心者のための用語辞典
【ザラツ研磨】金属を歪みなく平らに磨き上げる、職人技による研磨技法。
【パーペチュアルカレンダー】うるう年や月の大小を自動判別し、日付がずれないカレンダー機能。
【エコ・ドライブ/ソーラー】光を電力に変換して動く、電池交換が不要な駆動方式。
【クォーツ/自動巻き】クォーツは電池の力で、自動巻きは腕の動きでゼンマイを巻き上げて動く方式。
セイコー|「セイコー エクセリーヌ」に宿る、ジュエリーウォッチの華やぎ
T:3つ目は、セイコーの「セイコー エクセリーヌ」。さっきまでの2本とは、ちょっと気分を変えてみましょう。
I:わ、これは可愛い! まずトノー型のケースの形に目がいきます。
M:そうそう。小ぶりなのにちゃんと存在感があるし、この形って手元がすごくきれいに見えるんだよね。
T:そして「セイコー エクセリーヌ」は、セイコーが展開する女性向けのドレスウォッチライン。今回のモデルは、マザーオブパールの文字盤にダイヤモンドインデックスをあしらった、なかなかのかわい子ちゃんです。

I:マザーオブパールって、光の当たり方で表情が変わるのがいいですよね。ずっと同じ白じゃない。
M:そこがいいのよ。しかもダイヤモンドが入っているから華やかではあるんだけど、「私、ジュエリーウォッチです!」って前に出すぎない。
T:ゴールドも入っているし、マザーオブパールにダイヤモンドまで使ってるけれど、全体としてはすごく品がいいんだよね。
M:私はこれ、時計というよりジュエリーを選ぶ感覚で見ちゃうな。リングとかブレスレットを選ぶときのテンション。
I:わかります。時刻を見る道具というより、「今日、手元に何を足そうかな」の選択肢に近い。
M:そう。それでいて¥117,700というのが、本当にありがたい(笑)。
I:ここまで見てきた中では、価格も可愛くなりました。
T:しかもソーラーだから、見た目は繊細でも、日常ではちゃんと付き合いやすい。ジュエリー感がありながら、時計として気負わず使えるバランスもいいよね。
I:こういうデザインって、すでにベーシックな時計を一本持っている人の“次”にも良さそう。
T:そうなの。最初の一本には何にでも合わせやすいシンプルなものを選んだから、「次はちょっと遊びたい」という人にもおすすめ。
M:逆に私は、あえてこれを最初の一本にするのも好きだけどね。
I:お、その心は?
M:「最初の時計だから無難なものを」って考えなくてもいいと思うから。毎日黒いジャケットを着る人だって、手元だけこんなフェミニンな時計だったら素敵じゃない?
I:ああ、それは可愛い。服がメンズライクな人ほど似合う、みたいなこともあるかも。
M:そうなのよ。フェミニンな時計って、フェミニンな服にしか合わないと思われがちだけど、実は逆。白シャツにスラックスとか、デニムに大きめのジャケットとか、ちょっと辛口なスタイルに合わせたときのほうが、この甘さが効いたりする。
T:全身を同じテイストでまとめない、っていうのは大人の楽しみ方だよね。
M:しかもこれなら、オフィスでも全然浮かないと思う。ダイヤモンドが入っていても華美になりすぎないし、仕事の場では時計として、夜になったらジュエリーとして見えてくる。
I:昼と夜で役割が変わるんですね。得した気分。
T:そう考えると、ジュエリーウォッチって意外と実用的なのかも。
M:時計もアクセサリーも両方欲しい、という欲張りな人には、とても賢い選択です。
I:しかもアンダー12万円。これは「今日は見るだけ」が危険なタイプですね……。
◆覚えておきたい、ウォッチ初心者のための用語辞典
【トノー型】樽のように側面がカーブした四角いケース形状。
ハミルトン|名作「ベンチュラ」と、夏を纏う遊び心
T:最後はハミルトン。締めにふさわしく、ちょっとキャラの立った一本を。エルヴィス・プレスリーが愛用したことでも知られる名作「ベンチュラ」です。
I:これはもう、遠くからでも分かりますね。この三角形のケース、アイコニック。
M:一度見たら忘れないよね。時計って丸か四角、くらいの気持ちでいると、「三角もありますけど?」って急に入ってくる(笑)。
T:しかも、ただ奇抜な形をしているわけじゃないの。ベンチュラが発表されたのは1957年。世界初の量産電池式ウォッチとして誕生した、時計史の上でも重要なモデルです。
I:見た目だけじゃなく、登場したときから攻めていたんですね。
T:そう。当時としてはムーブメントもデザインも革新的だった。だから70年近く経っても、「ハミルトンといえばベンチュラ」と言われるくらい強い個性が残っているんでしょうね。

M:おもしろいのが、これだけ個性的なのに、意外といろんな服に合うこと。白Tシャツでもいいし、シャツでもジャケットでもいい。むしろ形がここまで潔いので、シンプルだったりベーシックな装いと合わせると引き立つ。
I:黒文字盤ならかなりクールですけど、夏に登場したハイビスカスカラーも気になります。あれは一気に陽気ですね。
T:新作には、ハイビスカスをイメージしたターコイズブルーとピンクの2色が登場したね。同じベンチュラのフォルムだけど、ご機嫌で柔らかい質感。

I:形はまったく同じなのに、急にバカンスの予定がありそう(笑)。
M:分かる(笑)。でも、このピンクも可愛いだけで終わらないのがベンチュラだよね。そもそものケースがシャープだから、甘さが中和される。
I:定番の黒なら「潔さ」、新色なら「遊び心」。同じモデルでも、選ぶ色でその人の性格まで違って見えそう。
M:ベンチュラは特にそうかもね。「私はこれが好き」がちゃんと伝わる時計だから。
T:時計って面積は小さいのに、その人の趣味がけっこう露骨に出るからおもしろいよね。
I:バッグほどわかりやすくはない。でも、気づく人には気づかれる感じします。
M:だからベンチュラみたいな一本は楽しいのよ。
30万円以下だからこそ、気軽に「本気」を選べる
I:こうして4ブランド見てみると、「手に取りやすい価格だから選びました」という感じは、まったくしません。
M:そうそう。「とりあえずの一本」なんかじゃない。好きになって選んで、長く付き合える理由がこんなにある。
T:ブランドが長く培ってきた技術やデザインを気負わず楽しめるのが今回ご紹介してきたラインナップ。むしろ、自分が何を好きなのかが試されるところでもあると思う。
M:そう。ロンジンの「コンクエスト」や「ザ・シチズン」みたいな端正な一本を選ぶのもいいし、「タグ・ホイヤー」的にメンズっぽい質感を持ってくるのも正解。逆に「ドルチェヴィータ」や「エクセリーヌ」でぐっと華やかに振るのもいい。「ベンチュラ」みたいに、アイコニックなストーリーと「私はこれが好きです」という個性で選ぶのもアリ。
T:自分にとって何が心地いいか。そこを考えて選べるのが楽しいんだよね。
M:「30万円以下」は、妥協のラインはなく、むしろ自由になれるラインなのかもね。
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- photography: Miki Takahira text: Izumi Akamatsu