【エルメスの名作ウォッチ】ケープコッド、ナンタケット、アルソー……手に入れるべき5つのコレクションを徹底解剖!
伝統と馬具作りの歴史に裏打ちされたエルメスの名品たち。それはウォッチも然り。エレガンスと技術力が香るアイコニックなデザインにも関わらず、よく見るとかなり自由。どうやらエルメスのウォッチはフランスのエスプリと茶目っ気が潜んでいるらしい。
そこで今回は、エルメスが誇る5つのコレクションを、編集部が実際に着け比べ。それぞれ、一体どんな人に似合うのか? 時計初心者も交えて、妄想と夢が混ざるウォッチトーク、スタート。

■ 座談会メンバー
【スタイリスト】MASAMI TANAKA
ハンサムと大人のフェミニンの程よいバランスを得意とするスタイリスト。フィガロジャポンで長年ウォッチ&ジュエリーの新作記事に携わっており、造詣が深い。長く愛されるベーシックなデザインが好き。
【若手エディター】IZUMI
今年32歳。「若手」と呼ぶには少々無理が出てきたものの、本人はまだその肩書に縋っている。厄年を迎え、厄払いの一環としてウォッチの購入を検討中。ウォッチについては、「定番モデルなら知っている」程度の完全なる初心者。骨格は自己診断でナチュラル。骨張って肉厚な手元に、運命の、そして一生の一本は見つかるのか(懐事情は無視)。
【エディター・ウォッチ担当】TERUMI
ファッションとカルチャーを中心に編集者歴25年。ウォッチ&ジュエリーを担当するも、マイウォッチ選びは彷徨っている状態。ドレスウォッチも気になれば、メンズライクな大きめフェイスも好き。大きな買い物だからこそ失敗したくない……もう誰か自分に似合うものを指定してくれ、と内心思っている。
エルメスの時計って、なぜ全部違う顔をしているの?
エディター・ウォッチ担当TERUMI(以下、T):さて。今回はみんな大好き、エルメスのウォッチを深掘りしたいと思います。
若手エディターIZUMI(以下、I):エルメスといえば、スカーフ、バッグ、ジュエリー……も名品の宝庫ですよね。
スタイリストMASAMI(以下、M):ウォッチもかなりどれにすべきか悩む名作ばかりです。今回見るのは「ケープコッド」、「ナンタケット」、「Hウォッチ」、「アルソー」、「スリム ドゥ エルメス」と、5つのコレクション。
I: 並べると、それぞれの個性が浮かび上がりますね。
M:そこがエルメスのおもしろさ。ひとつの「顔」を延々と繰り返すというより、馬具だったり、船だったり、旅だったり。それぞれに違う物語が込められている。
I:ウォッチの話なのに、「時間を知る」から遠ざかっている物語のようですね(笑)。
T:その物語にこそ沼があるのです(笑)。
01. 船の鎖から生まれた「ケープコッド」

I: 名前からして、もう休暇の香りがします。
M: アメリカ東海岸の避暑地、ケープコッド。名前だけで白シャツの袖をまくりたくなるね(笑)。
I: 私の脳内では、すでに海風が吹いています。もう秋口だけど、秋のバカンスもいいものですものね……。
T:休暇への逃亡計画は置いておいて。 でも、デザインの着想源は意外と力強いんだよね。ケースは、エルメスを象徴する「シェーヌ・ダンクル」の鎖のリンクを半分に切って、向かい合わせた形なのです。
I: エルメスでのシグネチャーですね。
M: その発想は力強いのに、完成形はこんなに端正。そこがいい。真面目そうな顔をして、発想は結構やんちゃ。
I: 先生からの信頼は厚い一方で、放課後もしっかりと楽しんでいるタイプ?
T: 前にも話したやつだ(白T&デニムを格上げする一生ものウォッチ記事参照)。

I: そして私、この二重巻きがやっぱり好きです。ウォッチとブレスレットの中間みたい。
M: ドゥブルトゥールになるだけで、急にファッションとしての存在感が増すよね。白シャツでもTシャツでもいけるし、ジャケットにももちろん合う。
T: 「ちゃんとしているのに、ちゃんとしすぎない」。毎日着けるには、そこが強い。
I: つまり、優等生だけど面白みもある。
M: 恋愛相手としても、そのくらいがいいよね。
T: 時計の話ね!
◆知っておきたい時計ワード
【シェーヌ・ダンクル】 船の錨をつなぐ鎖をモチーフにした、エルメスを象徴するデザインモチーフ。
【ドゥブルトゥール】 長いストラップを手首に二重に巻きつける着け方。
【ヴォー・バレニア】 エルメスが用いる仔牛革。きめが細かく、しなやかな質感。
02. 「ナンタケット」は、動くほど美しいアクティブ派

T: 続いて「ナンタケット」。「ケープコッド」と同じく、アメリカ東海岸の島の名前が由来です。
I: こちらもリゾート!
M: いい仕事をするためにはいい休暇が必要なのです(笑)。
T: 今回はPMサイズ、ステンレススティールのケースとブレスレットを合わせたモデル。
I: 「ケープコッド」から一転、ぐっとシャープですね。
M: 手を動かした時にブレスレットに綺麗に光が映って動きますね。街を歩いたり、バッグを持ったり、紙を耳にかけた時と、日常的な仕草に魅力が宿るウォッチだね。

I: さりげなく仕事ができる人のムードが漂いますね。
T: たしかに。メールの返信もスマートで早そう。「私、仕事できますから!」と肩に力が入っていなくて、気楽に自転車にも乗るようなノンシャランなイメージ。
T: メタルだから、レザーより気軽に使いたい人にもいいですね。スポーティだけど、ラグジュアリー感はきちんと残る。
M: 華奢すぎないところも好き。フェミニンな服に合わせても甘くならない。
I: 可愛いワンピースの日に、時計だけキリッとさせたいかも。
M: それ、いい!
03. 知性と品性を醸す「H ウォッチ」

T: 3本目は「H ウォッチ」。エルメスの“H”をケースそのものに落とし込んだコレクションです。
I: 最初に名前を聞いた時点でもう可愛い。
M: “Heure=時間”と“H”を掛けた言葉遊びもフランスらしいよね。
T: 今回はピンクゴールドのケースにダイヤモンド、ブルー・ネイビーのスウィフトカーフスキンのストラップという華やかなモデルです。
I: おお。着用するとより上品でジュエリーをつけているようなムード。

M: このネイビーのベルトの色合いが絶妙にシック。黒ほど強くないけれど、マチュアに引き締まる。ピンクゴールドの柔らかい甘さとのバランスがいいね。
I: 可愛いだけで終わらない。
T:「Hウォッチ」自体が結構茶目っ気のあるデザインだから、素材でかなり印象が変わるんですよね。
M: 個性的だけど、奇をてらっている感じではない。
I: 風格がありますよね。
◆知っておきたい時計ワード
【PG】 ピンクゴールドの略表記。
【ヴォー・スウィフト】 エルメスが用いる仔牛革の一種。ハリがありつつしなやかで、発色が美しいのが特徴。
04. 「アルソー」に漂う、静かなる洗練

T: お次は「アルソー」。ここでようやく、エルメスの原点である馬具の世界が色濃く登場します。アルソーはフランス語でアーチ。乗馬の際に足をかける鎧(あぶみ)がモチーフなのです。
I: 1837年創業の馬具工房がルーツのエルメスらしい着想源!
M:特徴的なのはケースから伸びるラグ。馬具から着想した曲線が取り入れられています。
I: こうして見ると、丸い時計でも他のラウンドウォッチとは圧倒的に違うムードが漂っていますね。
M: 繊細さが行き届いた、ミニマルな曲線が惚れ惚れするほど美しい。インデックスは軽やかに疾走する馬をイメージして斜体になっているのも特徴。

T: ベゼルを囲むダイヤモンドも効いていますね。ダイヤモンドが付いていないモデルもあるけれど、結構印象が違って、どちらにするか迷う……。
M:エルメス初のウォッチが「アルソー」って知ってた? 1978年生まれです。
I: なんと! エルメスウォッチの歴史はここから始まったのですね。上品で、擬人化したら食事中もスマートフォンなんてテーブルに置かない素敵なお姉様。
T: 所作まで妄想し始めた。
M: 笑、でも、確かに「アルソー」にはそういう“静けさ”が似合うよね。ジャケットにも、柔らかいニットにもいい。時計だけを主役にするというより、着る人まで品よく見せてくれる感じ。
I: 私もこれを着ければ、所作まで美しく……?
T: ウォッチにそこまで背負わせないでください。
◆知っておきたい時計ワード
【ラグ】 ストラップを留めるため、ケース側面から突き出た小さな突起部分。
05. 「スリム ドゥ エルメス」で実感する、余白の美学

T: 最後は「スリム ドゥ エルメス」。ここまでの4本からまた少し雰囲気が変わります。
I: 名前のとおり、薄い。
M: そして静か。
T: 装飾を極力削ぎ落として、ケースと文字盤、針、それぞれのバランスで見せるウォッチですね。今回のモデルは39.5mmのステンレススティールケースに、グラファイトカラーのアリゲーターストラップ。

M: 最大の魅力を放っているのは「アルソー」と同じく、インデックスじゃない?
T:グラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワが「スリム ドゥ エルメス」のためにデザインしたものだそう。
I: ミニマルでグラフィカル、エルメスのデザイン美学の集大成!という感じ。
M: 可愛らしくもあり、視認性もあって実用的なところもさすがの一言。シンプルな服が好きな人ほど似合いそう。モノトーンとか、上質な白シャツとか。時計を装飾品として足すというより、その人の美意識の続きを手元に置く感じ。
I: 一見可愛らしさもあるけれど、実は大人の遊び心的なウォッチなのかもしれないですね。
結局、どれが自分に合う?
I: 5本見終わりましたが……すみません。最初より迷っています。
T: 正常です。
M: むしろ、ひとつに決めなくていいんじゃない?
I: 出た、またこのロジック……(笑)。
M: 今日は「ケープコッド」みたいに自由でいたい日もあれば、「アルソー」のように静かでいたい日もある。服を選ぶのと同じで、時計も「今日はどうありたいか」で選べばいいんだよ、メイクみたいに。
T: 気取らない自由さなら「ケープコッド」。軽快に動くなら「ナンタケット」。甘さと知性なら「H ウォッチ」。静かなクラシックなら「アルソー」。ミニマルな美しさなら「スリム ドゥ エルメス」。
I: ということは、「私はこういう人間です」と決めなくてもいい、と?
M: もちろん。その日の気分で変わるほうが普通でしょう。
I: なんだか、時計選びというより人生相談になってきました。
T: エルメスの時計を5本並べた結果、「人間はひとつのキャラに決めなくていい」というところに(笑)。
M: でも、それってすごくエルメスらしいかもね。バッグやスカーフをその日の装いで選ぶように、時計だって気分で選んでいい。 さて、今日の自分なら、どの一本にいく?
エルメスジャポン
03-3569-3300
https://www.hermes.com/jp/ja/
- photography: Miki Takahira text: Izumi Akamatsu
- edit: フィガロジャポン編集部