ノルマンディー地方の夏の青空を背景に、SUZUKIにまたがり髪を後ろになびかせるふたりの男の子。7月に入ったパリの街頭で、フランソワ・オゾン監督の新作『Été 85(Summer of 85)』のポスターが目につくようになった。左側は『テルマ&ルイーズ』に登場した憎めない小悪党ブラッド・ピットと『君の名前で僕を呼んで』の繊細なティモシー・シャラメがミックスされたようなバンジャマン・ヴォワザン。彼の右後ろは、亡きリヴァー・フェニックス系のフェリックス・ルフェーヴルだ。彼らはフランス人にもまだあまり知られていない若手俳優である。フランスでは7月14日に公開が始まった。外出制限令解除の後、映画館が再開されたのはまだ最近のことなので、あまり映画がマスコミの話題となることはなかったが、この『Été 85』は大勢の足を映画館へと再び向かわせる力がありそう。日本での上映は期待できるのだろうか……。

左がダヴィッド役のバンジャマン・ヴォワザン、右がアレクシス役のフェリックス・ルフェーヴル。
その昔、ふたりのタイプの異なる主人公による映画『アナザー・カントリー』(1984年)を観た人たちは、「あなたはジャド派? それともガイ派?」と聞き合ったものだ。『Été 85』についても、外見の違いだけでなく、演じるキャラクターの違いから、「あなたはアレクシス派? それともダヴィッド派?」と聞き合うことになるのかもしれない。16歳のアレクシスと18歳のダヴィッドが出会ってから6週間の間に起きた物語。ストーリーはここでは語れないけれど、異性にせよ同性相手にせよ愛の別れを経験した誰もの心を揺るがす作品だ。1982年に発表されたエイダン・チェンバーズの小説『Dance on My Grave(おれの墓で踊れ)』がベースとなっている。
映画の舞台は、いまから35年前のノルマンディー地方の夏。エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』の雰囲気を思い出す人もいるだろう。こちらもノルマンディー地方が舞台で、公開は1983年であるから、『Été 85』は時代考証がよくできているといえるが、それに加えてフィルムで撮影されたことも大きなポイントだ。携帯電話もインターネットもない時代の青春ラブストーリー。1985年、ちなみにオゾン監督は18歳だった。
もしこの作品を見る機会が訪れるのなら、ロッド・スチュワートの「セイリング」の歌詞を知ってから映画館に行くのがいいだろう。1985年の歌ではなく、その10年も前の歌がなぜこの作品で重要な位置を占めるのかが理解しやすくなる。メルヴィル・プポーが『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』に続いてオゾン作品に出演。今回は教師役で、いい味を出している。今年のカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションに与えられた「カンヌ2020」のラベルを得た作品のひとつだ。
réalisation : MARIKO OMURA