いまパリのおしゃれ地区では、
プチカフェがブーム。
「カフェの喧噪は、深々と深呼吸するように私を生き返らせる」
作家レーモン・クノーの言葉だ。パリの人々の日常にはいつも身近にカフェがある。寛いだり、会話を楽しんだり。自由に過ごせる居心地のよさこそ、カフェの在り方だ。文化人が集うカフェ・ドゥ・フロールや、ラウンジブームを牽引したオテル・コスト……。いつだってカフェは、時代を反映しながら「時の顔」を作ってきた。

フォルミカの椅子、壁に掲げられた鏡など、オーナーのエグランティーヌ自らヴィンテージの家具やインテリア雑貨を買い付けてきたというル・プッチ。クッションも手作り。彼女のサロンに招かれたように、穏やかな時間が広がる。
そんなパリのあちこちで、最近よく見かけるようになったのが小さなカフェ。共通するのは、ユニークな経歴を持った30代の若い店主であること。ルスティックやテン・ベルズをはじめ、外国人の経営も増えている。バックグラウンドは各人各様だが、おいしいカフェとコンフォートな時間を提供したいという熱い想いは同じだ。
でも、なぜ“プチ”カフェなのか? その理由は、従来は飲食店ではなかった物件にあえて注目しているから。靴職人の工房や服のアトリエ、そして倉庫まで。7人も入れば定員オーバーになってしまうスペースだからこそ、経営者自らが内装を手がけてしまうことも。手作り感あふれる家具が並ぶブート・カフェのオーナーが言う。
「フランスのカフェは実はおいしくないと最近みんなが気付き始めた。だから豆や淹れ方にこだわった本格的な味を求めて人が集まるんだよ。店の拡大? まったく考えていないよ。だってこのミニュスキュル(微小)なカフェにこそ愛情があるからね(笑)」


ニューヨーク出身のフィル、パリジェンヌのエルザが手がけるブート・カフェは、靴職人のアトリエ跡にある。テイクアウトも人気。窓には、ナンシー・シナトラの名曲をもじって“This coffee is made for walking”と書かれている。


左:カフェらしからぬドリーミーな内装が大人気。リリー・オブ・ザ・ヴァレーのポリーヌ。 右:テン・ベルズの仲良しなアリスとアンナ。ふたりとも英国人で、ローズベーカリーのパティシエをしていた人物。
オーナーの家に訪れたみたい。
ゆっくり読書をしたり、パソコンに向き合ったり。それぞれが好きなスタイルで過ごせる快適さ。それは古きよき時代からフランスで大切に継承されてきたカフェ本来の在り方であり、パリの文化そのもの。そして忘れてならないのは、人々が交流し合う場所であるということ。これらの小さなカフェでは、そのアットホームな温かみが強調されている。狭いスペースだからこそ、客同士や店のスタッフとの会話も自然に弾むのだ。そしてその空間に、オーナーたちの個性をひとふり。それぞれが思い描くコージーな店内で、豆から厳選したお気に入りの1杯を飲んでもらい、手作りのスイーツを提供する。あたかも自宅に招いたようなスタンスで、客たちを受け入れてくれる。
「自然に足が向いて、毎日通いたくなるような店が理想だわ」
テン・ベルズのオーナーの言葉が甦る。狭さはそのままにテイクアウトを開始したり、窓越しに注文を取ったりする店も急増中。小さなカフェは、街の風景まで変えている。


左:ルスティックのオーナー、シャナもコーヒーを愛してやまない英国人。 右:ル・プッチのエグランティーヌ。店内には彼女が集めたヴィンテージの家具が配置されている。
photos : AYUMI SHINO, réalisation : HIROKO SUZUKI
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