香取慎吾、最新作『Circus Funk』が解き明かす音楽というエンタメの正体。
Culture 2025.05.29
香取慎吾が3枚目のアルバム『Circus Funk』を5月28日にリリースする。表題曲のタイトル「Circus Funk」をテーマに、さまざまな豪華アーティストとともに作り上げた楽曲への思いやリスナーの想像を超える制作秘話について、たっぷりと語ってくれた。
SHINGO KATORI/1977年、神奈川県生まれ。歌手、俳優、アーティストとして活動。近年の出演作に、ドラマ「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった」など。現在、バラエティ番組「ななにー 地下ABEMA」(ABEMA・毎週日曜20:00〜)やラジオ「ShinTsuyo POWER SPLASH」(bay-fm・毎週日曜19:00〜)にレギュラー出演している。
アルバムのテーマと曲順を決めてから曲を作り始める。
──3枚目の最新アルバム『Circus Funk』は、去年の11月にデジタル配信され、5月28日にCDが発売されます。前作の2枚目から約2年半は音楽制作にとって、どんな時間でしたか?
今回のアルバム自体は、いざ作り始めてから半年くらいでできたんです。毎回テーマから先に決めるんですけど、気づいたら"サーカスファンク"って言葉が浮かんできて。タイトルが見えてくるとライブの演出も見えてきて。「じゃあ、こういう曲が必要だな」という感じで作っていくんです。
──"サーカスファンク"というテーマが頭に降りてきた理由は?
いま思えばコロナ禍の影響が大きかったと思います。グループじゃなくなって、ひとりで歌い始めてからすぐコロナ禍に入って、それこそ「エンタメは必要ないんじゃないか」っていう議論もニュースで見たりして。これまで30年近く積み上げてきた経験値が通用しない、まったく新しい時代に入った気がしましたね。ライブができない、できるようになってもみんながマスクをしていて表情も読めない。それが本当に怖かった。30年以上やってきた僕でさえそう思っていたから、そのあたりで何かを新しく始めたばかりの人たちは、もっとどうしていいかわからず戸惑ったと思う。
──自粛ムードの中、どう楽しみ、どう自分の機嫌を取ればいいかわからなくなっていた時代だったと思います。
でもそういう経験があったからこそ、新しい時代になったいま、「みんなで騒ぎたいな」って思えたんですよね。大人しく座っていなくてもいい。立ってもいい。声を出してもいい。そうなった時に、「あ、この非日常的な賑やかさってサーカスだな」って思ったんでしょうね。あと、その前のアルバムでジャズをやったから、「次はファンクかな? でも、ファンクってなんだろう? あんまり知らないけど楽しそうな雰囲気があるな」くらいの気分で(笑)。そこから「Circus Funk」というテーマが決まりました。
──その大きな着想を軸に、ライブの構想や演出、フィーチャリングアーティストとのコラボレーションにつながっていったということですね。
そうですね。「Circus Funk」だったら、「ライブで、ステージでどんな演出ができるか? サーカス小屋のイメージ? オープニングはどうする?」を考えて、この場面にはこんな曲がほしいなとか、どんどん構想が広がっていって。
──通常は曲を作ってから演出を考える印象があるのですが、それとは逆のアプローチで驚きました。
最近知ったんですけど、みんなそういうアルバムの作り方をしないみたいですね。音楽を作りながら、同時にライブの構成や演出、セットリストまで全部自分で決めているミュージシャンって、あまりいないらしくて。僕の場合、テーマをもとに、こういうステージセットにこう照明がこう当たって......なんて演出の細かいところまで全部決めて、それに必要な音楽を考える。僕にとっては普通のことですが、実は珍しいと聞きました。
──フィーチャリングアーティストが多彩である理由がわかりました。まるで"Circus Funk"というテントの下に様々なジャンルのクリエイターが集ったような構成ですね。
絵を描く時、サブスクで音楽を聴いている最中に「この人、誰?」ってなる瞬間があるんですよ。そこでたとえば「昨日思い描いていたライブの4曲目くらいのテンションにこの声、めちゃくちゃ合うな」と思ったら、すぐに僕の制作スタッフに伝えて、2日後にはそのアーティストと会ってる、みたいな(笑)。
在日ファンクがいるのも、僕自身ファンクっていう音楽が実はよくわかってないからで、お会いした時に「ファンクは任せます」って伝えました(笑)。他のアーティストにも、「僕もファンクはわかってないけど、なんか踊れて楽しかったらいいから!」って言いましたね。ただ僕が好きなメンバーを自然に集めた感じだったけど、実際はファンク色がちゃんとありました。KROIも「僕ら、ファンクなんでぜひ」って言ってくれて、「すごいじゃん、今回のアルバムにぴったりだ!」って言ったら、「え、それで呼んでくれたんじゃないんですか?」って(笑)。僕は曲を聴いて「いいな」と思ったら、そのアーティストの曲、ミュージックビデオを全部調べます。でも、曲が「ファンクだから」という理由より、「カッコいいから」を重要視して声をかけてるんです。
──この豪華で多彩なフィーチャリングアーティストは、どのようにオファーしたんですか?
僕、誰かと一緒に作る際、直接会いに行くのが好きなんです。だから、本人やスタッフの方に「いまどこにいますか?」と聞いて、よっぽどダメな状況じゃなかったら、「いま行くね」って行っちゃいます(笑)。何か作る時っていろいろな人が間にいて、伝えるだけで時間がかかったり、予定を調整したりして、結局時間が合わなくて話が進まないことってあって、そうなる前にまずは会いたい。ほんの一瞬でもいいから直接会って、今回一緒に曲を作りたいという話がしたくて。
──フットワーク、軽いですね。
都内にいるなら会えるだろうと(笑)。その初動のフットワークはすごく大事にしています。興味があるかを聞くだけでも、やっぱり会って話すと伝わり方が違うと思いますから。僕も「いいものを作りたい」という気持ちだけで動いているから、自分が体を動かして解決できるなら、いくらでも動かします。
──直接会った方が、自分の気持ちも人柄も相手に伝わります。
そうだと思います。フィーチャリングアーティストの皆さんの音のレコーディングにも、ほとんど顔を出します。音源をやりとりするより、スタジオに行ってその場で「ここ、もうちょっとこうしてみて」「ここどう思う?」とアレンジを相談できる。みんなで一緒に作る方が、無駄がないし伝わりやすいし楽しい。いままで僕はこうやってアルバムを作ってきました。
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感性をリスペクトし合う関係から生まれた名曲たち。
──アーティストの皆さんとはどのように曲を作っていったのですか?
僕のイメージやテーマを伝えながら、話し合って一緒に作っていきました。緑黄色社会が制作した「夢々Ticket」では、僕の中に物語がまずありました。
"さえない日々を過ごしている学生の子が主人公。夢を見つけられない毎日をやりすごす中で、ある時、足元に落ちているチケットを拾って、ライブに行ってみる。ライブの最後まで曲を聴いた時に「自分もステージに立ちたい」と強く思う。そんな夢を思い描きながら、ステージにいるアーティストに手を振る。手を振り返してくれたのは、未来の自分だった"......みたいなストーリーを僕が伝えて。
──先ほど、アルバムのテーマを決めて、ステージをイメージして、それに合う曲を作る話に通じますが、ビジュアルが先行しています。
まさに。「たとえば、ミュージックビデオで言うと、風がバーッと吹いて、足元にチケットがひらひらと一枚落ちて......」と映像的な感覚を共有して、制作をお願いします。
──すごく興味深い楽曲制作ですね。
もちろん僕の頭の中にある曲順も伝えます。「これはライブの1曲目になる予定」とか「この曲の前には、緑黄色社会のこんな曲が来るから聴いてみて」って。
──え、他のアーティストの曲を聴いてもらうこともあるんですか!?
はい。だいたいアーティストに「聴いていいんですか?」って驚かれるけど、「なんでダメなの?」って僕は逆に驚いて。制作途中だったりするから、確かに人に聴かせてはいけないという気持ちもわかるけど、「同じアルバムをみんなで作っているのに、なんで聴いちゃいけないの?」と僕は思うんです。
──なるほど。
なので、そう言われたら「ライバルだと思ってるの? 聴きたくないなら聴かなくてもいいけど」と言うと、「ちょっとだけ聴いてみたいですね」ってなります(笑)。そこで聴いてもらうと「この音の流れで、こういう楽器でこんな感じを出しているんですね。なら、こっちはこっち感じでいこう」と、一枚のアルバムの中で曲同士の自然な流れが生まれていく。それがすごくおもしろい。
──香取さんが直接繋ぐから、できることだと思います。
フェスで初めて会う人も多かったけど、どこか初めてじゃない空気があって。ファミリー感が生まれていたというか、ピリッとした感じが全然なくて、自然に居心地のいい空間になっていたと思います。
──香取さんは作詞にも参加されていますが、こちらも皆さんと話し合いながら? 思い出に残っている制作エピソードがあれば教えてください。
そうですね。「SURVIVE」の歌詞は、LEO(バンド・ALIのボーカル)とけっこう悩んで書いていました。最終的にスタジオにある小さい部屋で、机を突き合わせペンを片手に、「ここどうかな?」って話しながら完成させました。強さのあるこの曲の歌詞としての言葉と香取慎吾が発する言葉のバランスを、細かく調整していた記憶があります。そんななかで、冒頭の「幕開けのメロディー 花束は空に」を見つけた瞬間は、ふたりで「この曲は完成した、イケる」と思いました。
──ふたりの波長がリンクしてより強い一曲に。
あと、乃紫の「一億人の恋人」というタイトルと歌詞を読んだ時、天才に出会えたと思いました。僕からは推し活の曲を作りたいと伝えていて、しばらくして送られてきたのですが、歌詞の「ステージの上で僕はダイヤの海を見た 一億人の愛を背負ってる」を見て、「この子はすごい、もうお手上げだぞ」と(笑)。確かにこれまで僕は、本当にずっとダイヤの海を見てきたんですよ。東京ドームでも国立競技場でも、いろいろなところでダイヤの海を見てきたんだけど、僕が見てきたものが「ダイヤの海」だと初めて気づかされたんです。僕がしか見ていないものを、こうも表現してしまうなんて本当にすごすぎる。僕は推し活のテーマを伝えただけで、歌詞はそのまま使っています。
──言語化されたことで、自分の過去と答え合わせができたような?
そんな感覚がありました。もちろん、音楽はいろいろな作り方があるので、こういうのがベストという話ではないですけど。乃紫に後で聞いたら、香取慎吾を徹底的に調べ尽くしたと言っていました。いままでどう生きてきて、どういうアイドルをやってきたのか。あと、推し活をテーマにしていたので、ファンの皆さんのことも調べたみたい。ファンが見る香取慎吾像を調べ尽くして作ってくれて。もしかしたらファン一億人を検索した可能性あるよ、これは(笑)。
──本作には、オリジナル曲のほか、サザンオールスターズの「愛の言霊」や中森明菜さんの「TATTOO」のカバーも収録されています。この二曲は香取さんにとって特別な曲なのでしょうか?
「TATTOO」はずっと好きな曲で、いつか何かの形で関わりたい、カバーしたいと思っていました。『Circus Funk』を構想している時に、イントロや曲が持つ雰囲気がCircus Funkのステージにすごく合っていると思い、「いまだな」と。贅沢にも、中森さんご本人に「一緒に歌っていただけませんか?」と声をかけさせていただいたら、快く引き受けてくださって。
──すごいですね。
「愛の言霊〜Spiritual Message〜」は、昭和や平成の名曲をリアレンジして新しい気持ちで聴かせてくれるNight Tempoと一緒にやりたいという思いからスタートしました。いろいろな名曲を聴き直していた時に「愛の言霊」を久しぶりに聴いて、「やっぱりめちゃくちゃカッコいいな」と。僕が初主演を務めたドラマ『透明人間』の主題歌でもあって、特に思い入れが強い曲なんです。Night Tempoに「『愛の言霊』を一緒にやりませんか?」と声をかけたら、「偉大な曲すぎて怖いです」と言われたのですが(笑)、ふたりでリスペクトを込めて、新しい「愛の言霊」を生み出そうと意気込んで。
──当時ドラマを観ていた身からすると、「時を経て香取さんが歌う『愛の言霊』を聴けるなんて!」とうれしくなりました。
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すべての人を楽しませる全身全霊の"初ツアー"を開催。
──昨年11月に本アルバムをリリースして、12月には2日間のフェスを開催されました。このスピード感にも驚きました。狙いがあったんですか?
あれはですね......場所も僕も、その2日間がたまたま空いてたんです(笑)。
──えっ(笑)。
もともと、いつかフェスを開いてみたかったんです。フェスについてよく知らなかったんですが、以前「氣志團万博」にソロとして、また稲垣(吾郎)さん、草彅(剛)さんとの3人で出演させてもらったことがあって、聴きに来てくださった皆さんが僕たちを受け入れてくれるような、すごく温かい場所だったんです。なので、ちょうど2日間空いていてすごくいいタイミングだと思って......。でも、実際にやってみたら自分ひとりのライブ演出とは全然違って、すごく大変だった(笑)。
──主にどこが大変でしたか?
僕は演出をする時に、曲と曲の繋ぎを0.5秒や0.8秒にこだわって綺麗な間の詰め方をしています。ただ、今回はフェスと言ってもステージはひとつで、在日ファンクもALIもKROIもSOIL&PIMP SESSIONSも、アーティストたちは自分たちの楽器を持ってきているから、1曲ごとに機材を入れ替えなきゃいけない。そうなると、曲を終えたアーティストとトークをして、裏でセッティングを変えるといった段取りが必要になるんです。いつもの僕の感覚だと「そんな間延びするのはダメだよ」と伝えたけど、制作スタッフに「でもそれしか方法がありません」と言われて、「まあ、確かに」って(笑)。
──(笑)。かなり新しい経験だったんですね。
はい。結果ちゃんとできたから、「やりたいことってできないことはないんだ」と自信にもなりました。出演してくれたアーティストたちも新しい経験をしてくれたと思います。たとえば、KROIと歌う時の演出で一緒に花道(メインステージと客席の中に作ったサブステージをつなぐ道)に行こうと提案したんです。そうしたら彼らは「基本、僕たちバンドはケーブルにつながれてるから、歩いたことない」というので、「じゃあ、行こう」と。本番では、メンバーのみんなが「こんな景色なんだ」って喜んでくれました。
LEOには、「歌いながら踊ってみて、Aメロのタイミングでそれぞれステージの両端に歩いて行って、またこのタイミングでセンターに戻ってきて......」と伝えたら、「ちょっと待ってください。踊りながらタイミングを合わせて移動するんですか!?」みたいな感じで驚くから、「できないことなでしょ」と言ってやってもらったり。ChevonのギターのKtjmくんとベースの(オオノ)タツヤくんには、「弾きながら、このタイミングで端まで行って。僕が後からついていくから」とお願いすると「弾きながら動く!?」という反応で。みんなでひとつの新しいステージを作っていく、楽しいライブになりました(笑)。
──演出の打ち合わせも楽しそうです。そして、5月31日から本アルバムを引っさげ、新たに「SHINGO KATORI 1st LIVE TOUR Circus Funk 2025」が始まります。どういうツアーにしたいと考えていますか?
僕は、自分のライブに来てくださった方から「すごく楽しかったです」と感想をいただくと、「そうですよね、僕も観に行きたかった」と答えるんです。冗談じゃなくて、本気で(笑)。自分も行きたい、観たいと思えるライブが、やっぱり最高だと思っているし、とにかく来てくださる方に楽しんでほしいと思って、作っています。
今回はなぜ「ファーストライブツアー」なのかというと、わざと言っています。2023年に「BLACK RABBIT」というライブでツアーのように全国を回っているのですが、なぜか周りの大人たちは「ツアーではなく『追加公演』です」と(笑)。当時はライブの本番中でも「なんでツアーって言っちゃいけないんだ」みたいなトークもしてたし、「文句を言いながらも、またここで発表があります。追加公演が決まりました」みたいな感じで、追加公演のツアーをしたんですね(笑)。そんなこともあって、今回は"初めての全国ツアー"と言っていいということなので、タイトルに「ファーストライブツアー」とつけました。
──(笑)。
"ファースト"はいちどきりなので、すごく大切にしたいですね。正直、こんなに大きい会場で、ひとりでツアーをできる日が来るなんて思っていないですから。信じられないんですよ。やりたいとは思っていたけど、実際はとんでもなく難しいこと。
シャツ ¥14,400、パンツ ¥185,900、ジャケット ¥311,300/以上全てディーゼル
ちょっと思い出話になりますが、僕は小学生の頃に東京ドームでマイケル・ジャクソンのライブを観た時から、彼が好きで、自分が歌手になって、どんどん大きい会場に立てるようになって、初めて東京ドームに立ったときに、「マイケル、やっとここまで来たよ」って、ステージに手をついて言ったんですよね。そしてグループ活動の最後に歌った時は、「マイケル、一回ステージ降ります」ってステージに手をついて言って。そのくらいステージは特別なもので、その時も一回降りただけで、"もう歌わない"という感覚はなかった。僕自身は変わらないし、時期が来たらやるだろうなって。ステージに立つからには、みんなに楽しいんで欲しいですし、今回はサーカスをテーマに、あっという間に時間が過ぎちゃって、「こんな楽しい時間があるんだったら、明日もちょっとがんばってみようかな」なんて思ってもらえたら、僕は本当にうれしいですね。
『Circus Funk』
2025年5月28日(水)発売
初回生産限定盤(CD+Blu-ray+ブックレット+グッズ)¥9,900
通常盤(CD only)¥3,300
SHINGO KATORI 1st LIVE TOUR Circus Funk 2025
5月31日(土)東京・国立代々木競技場第一体育館(14:00開場/15:00開演)
6月1日(日)東京・国立代々木競技場第一体育館(12:00開場/13:00開演)
以降、全国にて公演
料)12500円(全席指定)
https://circusfunk2025.com/
問い合わせ先:
ディーゼル ジャパン
0120-55-1978(フリーダイヤル)
https://www.diesel.co.jp/ja/
photograpy: Mirei Sakaki styling: Kayo Hosomi hair & make:Tatsuya Ishibashi interview & text: Hisamoto Chikaraishi