名優リュディヴィーヌ・サニエが語る、「女性を描く映画作家」フランソワ・オゾンと最新作『秋が来るとき』。
Culture 2025.05.29
横浜ブルク13を中心に開催された横浜フランス映画祭 2025。来日したフランス映画人たちとのティーチイン、公開インタビューなどが行われる中、フィガロジャポンはフランソワ・オゾン監督の最新作『秋が来るとき』の上映後、トークショーを開催した。
自然豊かなブルゴーニュで穏やかな老後を過ごすミシェル。休暇で孫と帰省した娘ヴァレリーがキノコ中毒で病院に運ばれたことをきっかけに、登場人物たちの過去が紐解かれていく......。
登壇したのは、ミシェルに複雑な思いを抱く娘ヴァレリーを演じたフランスを代表する俳優リュデイヴィーヌ・サニエ、そしてカンヌ国際映画祭への取材歴約30年、オゾン監督をデビュー当時からインタビューし続けてきた映画ジャーナリストの立田敦子だ。
――フランソワ・オゾン監督の作品には、『焼け石に水』(2000年)、『8人の女たち』(02年)、『スイミング・プール』(03年)に出演してから、21年ぶりですね。
3作ともに仕事をしてから、私とオゾン監督はお互い違う道を歩んできました。いま振り返ると、やはり時間は必要だったのかなと思っています......ここだけの話、「ちょっとひと息つきたい」と思ったんです(笑)。私の人生を進む必要がありましたし、彼も同じように自分のキャリアを進めていくことが必要だった。時間が経って、お互いに「恋しい」と思うような、そういう気持ちになれるのを待っていた感じでしょうか。企画のオファーはあったんですが、私がやりたくても彼がちょっと違うなとか、彼が一緒にやりたくても私のほうは違うなって、すれ違いがあったんですよね。 それで交流自体が途絶えていた時期もありました。

――20年以上もブランクがあったにもかかわらず、今回出演しようと決めた理由は何でしょうか。久しぶりにオゾン監督と食事をした時、オファーがあったと聞きました。
突然ランチに誘われました。素直にうれしかったですね。でもその時、全く仕事の話はしませんでした。「古い友だちと再会できてうれしかった」って、帰って夫に話していました。そしたらその日の夜、私のエージェントから「フランソワ・オゾン監督から、あなたにピッタリの役があると連絡がありました」と電話があったんです。
――オゾン監督の作品の大きなテーマが「女性についての物語」だと思います。『8人の女たち』でもそうでしたし、今作も80歳の主人公、その晩年を描いた作品です。『秋が来るとき』というタイトルも人生の晩年を意味していると思うんですが、「人生の終わりを迎えた時、どんな生き方を貫くのか」という成熟したオゾン監督ならではの主題だとも思いました。
全く同感で、オゾン監督は「女性を描く映画作家」だと思います。ある女性を描き出す時に、複雑な内面もユーモラスな部分も、非常に巧みにカメラに収めることができる監督です。しかもその女性の年齢は関係ないのです。映画界では、ある年代にさしかかるとスクリーンから遠ざかるということが起こりがちですが、オゾン監督は自ら進んでシニア世代の女優たちに声をかける。非常に先進的なエスプリを持った監督だと思います。だいたい「80歳の女性主人公」なんていうと、孫たちに菓子を作ってくれるようなチャーミングなおばあちゃんでオープンマインドで......そんなステレオタイプなキャラクターを思い浮かべませんか? でもオゾン監督はそうじゃない。80年を生きてきた過去があって、矛盾もあれば失敗もあれば成功もしてきた。そんな人間性を持った、ひとりの女性として撮ろう、という意気込みを感じました。

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――女性を描写するにあたって、オゾン監督は「女性の複雑性」というものに注目していると思います。今回あなたが演じたヴァレリーも、母親の過去を許せないという立場をとります。観客からすると、それはちょっと厳しすぎるんじゃないか、と感じるようなシーンもありました。
実はシナリオを読んだ時に大笑いしちゃったんです。あまりにヴァレリーが嫌な女性だったので(笑)。嫌な、あるいは腹黒い人物を演じることは、私にとってすごく快感です。ただし、共感はあまりないんですが、演じるに当たって彼女の過去を想像して、理解しようと思いました。小さい村で彼女は幼い頃、どういう目で周囲から見られてきたか。おそらく、すごく苦労したと思うんですね。差別されたり、からかわれたり、子どもの時のそういう感情がずっと残っている。それが彼女の心の中に傷として残っていたんじゃないでしょうか。
――脚本を読んだり、監督から話を聞いた時、このキャラクターや他の人間との関係性についてどのように解釈しましたか?
今回の作品について監督から聞いた話なんですが、オゾン監督がまだ子どもの時、彼の親戚の年配の女性が家族の食事会でキノコ料理を振る舞ってくれたとか。でも、8歳頃のオゾン監督はキノコ嫌いで食べなかったんですね。そうしたら、彼以外の家族全員が病院に運び込まれるほどの食中毒になってしまった! 「ひょっとしたらおばちゃんは、家族のみんなを毒殺しようとしてたんじゃないかな」と、子どもながらニヤリとしたと。
演じながら私も、ご覧になった皆さんと同じことを思ったんです。「ミシェルおばあちゃん、本当は娘を毒殺したかったの?」「劇中で起きる事件、ヴァンサンは故意にやったのか?」。監督からもらったシナリオには何が起こったのか、それに対する答えは書かれていなかったんです。「フランソワ、あなたの見方を教えてほしい」って言ったら、「僕の考えてることなんかそんな大切じゃないんだよ。君がどう思ってるかが大切なんだ」と言われました。だから観客の皆さんにも、監督は同じようにストーリーを自由に解釈してほしい、と願っていると思いますよ。

『秋が来るとき』
●監督・脚本/フランソワ・オゾン
●出演/エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタンほか
●2024年、フランス映画 ●103分
●配給/ロングライド、マーチ
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2025年5月30日(金)新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開