「生」と「喪失」を描く、ジャンルを超えた最新映画3選。
Culture 2025.06.27
01. クールな映画表現がユーモアと克己心を増幅。
『フォーチュンクッキー』

米カリフォルニア州の街フリーモントで、ドニヤはクッキー生地に"幸運のくじ"を包んで焼く銘菓「フォーチュンクッキー」工場に勤める。故郷アフガニスタンでは米軍基地の通訳だった。タリバンに追われ、どうやら辛くも米軍機に同乗できた経緯が現在の不眠をもたらしている様子。だが、不調がそのトラウマゆえとは決して認めないクールなしなやかさこそが、ドニヤをチャーミングにする。喜怒哀楽を秘めたポーカーフェイスの魅惑に、初期ジャームッシュの作風を連想させるロンドン育ちのイラン系新鋭監督の才気も迸る。「中庸」を徳とする中国系の社長の肝入りでくじの文面書きに起用されたドニヤが、その余波を受けて奥ゆかしい出逢いを経験する旅路のハプニングは、特に必見!
●監督・共同脚本/ババク・ジャラリ
●2023年、アメリカ映画 ●91分
●配給/ミモザフィルムズ
●6月27日より、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
https://mimosafilms.com/fortunecookie/
---fadeinpager---
02. 米中西部の清らかな自然が招くスリラー奇譚。
『ストレンジ・ダーリン』

ひと気ない原野や山道を裸足で逃げる女、凶器片手に追う男。トビー・フーパーやデヴィッド・フィンチャーが必中の矢を放ったシリアルキラーものの亜流? なんて高を括っていると、その定石を巧妙にひっくり返す展開に口あんぐりとなるだろう。6章立てのチャプターの時制を魔法陣みたいに組み直すことで、最後まで逆転劇の興趣を高める構成・演出の策士ぶり。のみならずアンニュイな音楽の効果も合わせ、人間の心臓部に潜むエロスやタナトス(死の欲動)に触れる心持ちも。緋色が似合うヒロインのウィラ・フィッツジェラルドが特異な燐光を纏うのも見逃せない。ネタバレ厳禁をギリのところで避けるべく読解のヒントを抽象化するほかないが、女性主導の"遊戯性"がカギ。
●監督・脚本/J・T・モルナー
●2023年、アメリカ映画 ●97分
●配給/KADOKAWA
●7月11日より、新宿バルト9ほか全国にて順次公開
https://movies.kadokawa.co.jp/strangedarling/
---fadeinpager---
03. 救命劇の迫真、ミステリアスな倫理劇の余韻。
『アスファルト・シティ』

ニューヨーク州ハーレムの消防局救急救命隊の若手隊員として、医学部受験との両立を図る学究肌のクロスは、現場肌の古参ラットとコンビを組まされる。犯罪者や麻薬中毒者を助けるのはナンセンス、という冷笑主義が無力感ともども隊内ではびこる中、救命への危険な舵取りに持てる力を注ぐ苦労人ラット=ショーン・ペンに、いきなり社会の底辺を垣間見たクロスが徐々に惹かれてゆく。そんなバディムービー仕立ての、赤剝けするほど今日的なアクションドラマだ。黒人女性の独力出産の現場にふたりが駆けつけるシーンは凄惨だが、ただのリアリズムではない。母と赤子、双方の生死のキワが救う側の精神の危機をも照らす。限界状況での人の選択を問い、倫理観に訴える凄みがある。
●監督/ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
●2023年、イギリス・アメリカ映画 ●125分
●配給/キノフィルムズ
●6月27日より、新宿ピカデリーほか全国にて順次公開
https://ac-movie.jp/
*「フィガロジャポン」2025年8月号より抜粋
text: Takashi Goto