痛みの先に灯るもの――私と世界を繋ぐ今月の5冊をセレクト。

Culture 2026.03.16

過去と現在をまたぎながら、自由を求める少女バードの魂の軌跡を描く『BIRD』は、因習や暴力に翻弄されながらも、自分の居場所を求めてもがく姿が胸に迫る。深い問いと希望を携え、ページをめくるたび新しい世界が開く5冊をご紹介。


01.『BIRD』

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コートニー・コリンズ著 満園真木訳 小学館刊 ¥2,750

時空を超えて繰り返される、少女の苦悩の先にある希望。

文:温水ゆかり ライター

婚礼の場から逃げ出し、巡礼者の列に交じって聖山を目指す14歳9カ月の少女。ガソリンスタンドで強盗をはたらき、警官に肩を撃たれて病院のベッドに横たわる同年齢の少女。

前者の舞台はヒマラヤ連峰をのぞむどこかの村(時制は過去)。後者の舞台はオーストラリア大陸の北の端ダーウィン(時制は現在)。過去と現在を往還して細部が明らかになっていくこの物語は、"一体、何を解き明かそうとしているの!?"という謎の磁力で読む者を離さない。

ヒマラヤのバードはダーウィンのバードの前世である。前世の彼女は花嫁として売られようとしていた。バードは幼なじみの親友テシと一緒に逃げ出す。テシは鳥葬師、バードはその名も鳥。ふたりは因習と切れる自由な世界を希求した。しかしふたりははぐれ、男たちにさらわれたバードは居場所を与えられるも、そこもまた檻だと感じる。

絵に才能があるダーウィンのバードは5人の少女を描き続けている。彼女たちの名前は知っている。でもどこにいるのかわからない。居場所は少年院のニュース映像で知れる。彼女たちと再会するため、バードは水鉄砲で強盗の真似事をし、少年院送りを企む。

輪廻転生は人を惹きつけてやまない"物語"だ。自分には感知できない領域でも、私は誰かがそう感得することを否定しようとは思わない。

粘つく視線でバードを値踏みした姉の夫、荷馬車の上でともに恐怖に震えた仲間たち、流せなかった乙女の涙、薪小屋の壁画。ヒマラヤでのさまざまな細部が時を超え、ボーイフレンドのTや実母のゲスな恋人、路上のグラフィティなどになって、ダーウィンの現在で反復される。

では反復するだけなのか。『方丈記』を思い出す。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。バードはヒマラヤの薪小屋に少女5人の絵ではなく、バードも加えた6人の絵を遺した。シスターフッドという魂の安寧の場を夢見た連帯画。それが現実や未来になるラストに、心が踊る。

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温水ゆかり|Yukari Nukumizu
ライター
宮崎県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社に勤務した後、フリーのライターに。長年、各紙誌にてインタビュー欄やブック欄を手がけ、現在は女性週刊誌で毎週短評を担当、ネット媒体で年4回書評を担当する。

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02.『バウムガートナー』

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ポール・オースター著 柴田元幸訳 新潮社刊 ¥2,530

ポール・オースターの遺作は、決して失われることのない愛の物語。

喪失を描いてきた作家が最後の小説で描いたのは最愛の人の死だった。70歳の大学教授バウムガートナーは、妻を亡くしたことを受け入れられずにいる。妻が遺した原稿を読んでは、遠くない自分の最期を夢想する日々。人生の終わりに思い出すことができるのは何だろう。アメリカ史を振り返るような前作の大長編『4321』とは対照的。妻の死を悼む初老の男に訪れる恩寵のような一瞬を描いた本作は、切なくも忘れがたい余韻を残す。

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03.『はくしむるち』

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豊永浩平著 講談社刊 ¥1,980

巨大な暴力に満ちたこの世界に、新たな地図を拓く青春小説。

沖縄に生まれ育ち、ウルトラマンに憧れた「きみ」は小中学校とエスカレートするいじめを生き抜き、ある計画を実行していく。沖縄のいまを生きる少年少女と、80年前の沖縄戦に従軍した少年兵たちが時空を交錯する。デビュー作『月ぬ走いや、馬ぬ走い』で群像新人文学賞と野間文芸新人賞を受賞。沖縄出身の新鋭の最新作。日常に蔓延する暴力と戦争の痛みを越えて、圧倒的な筆力でその先へと読者を連れ去る鮮烈な青春小説。

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04.『光と糸』

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ハン・ガン著 斎藤真理子訳 河出書房新社刊 ¥2,200

ノーベル文学賞受賞作家の光射すまでの心の軌跡を辿る。

ハン・ガンの3作目の小説『菜食主義者』は暴力を拒否するために肉食を拒み、ついには自分が植物になったと信じ、水以外何も口にしない主人公を描いていた。その原点は1980年、クーデターを起こした学生や市民が軍部に虐殺された光州事件だった。9歳で直面した人間の暴力性に対する深い問いが彼女を作家にした。そして問いはいまも続いている。ノーベル賞受賞記念講演「光と糸」全文とエッセイ、詩と日記、写真で綴る心の軌跡。

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05.『すきが いっぱい』

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谷川俊太郎、西 加奈子著 世界文化社刊 ¥1,870

谷川俊太郎と西加奈子による、子どもたちに贈る詩の往復書簡。

詩人・谷川俊太郎と作家・西加奈子が交互に詩を贈り合った"詩の往復書簡"。保育雑誌で2022年に始まった連載は、24年11月に谷川が亡くなる直前まで続いた。挿画とあとがきも西が担当。谷川の最後の詩「すき」と、西がその返事として書き下ろした「すきがいっぱい」が重なって、本のタイトルになった。言葉に初めて触れる子どもたちが声に出して楽しむことをテーマに紡いだ26編のあどけない詩のやりとりは、大人たちの心にも響く。

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*「フィガロジャポン」2026年4月号より抜粋

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text: Harumi Taki

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