「本と出会う場へ」。作家・瀬尾まいこが誘う、書店のおもしろさ。
Culture 2025.10.12
「だから書店通いはやめられない」
文/瀬尾まいこ
私たちは生きている中で何人の人と出会えるだろうか。いくつの体験をして、どれだけ心を揺らすことができるだろう。
がんばって120歳まで生きたとしても、限度はある。そんな世界をいとも簡単にいくらでも広げてしまえるのが本だ。
時代も国境も飛び越え、魔法の世界にだって連れていってくれる。わくわくさせるだけでなく、私たちを慰め寄り添い、ときにスカッとさせハラハラもさせる。本はお守りにも友達にもなりうる存在でもある。
こうして改めて書き出してみると、本の力ってすごいですよね。そして、そんな本との出会いの場となるのが書店です。ネットでも本は手に入りますが、やっぱり書店に足を踏み入れないと、本との出会いはないような気がします。
私は買う本を決めずに、書店に行くことがほとんどです。
温かで的確な言葉がちりばめられたPOPに、工夫された素敵な展開。
そこで、「お、こんな本があるんだ」「うわーこれ読んでみたい」などと引っ張られ、ほしくなって購入というのがパターン。書店員さんおすすめの本は、外れがない気がします。最近はミステリーやホラー作品の展開がおもしろく、そのおかげで怖い本をたくさん読みました。
そして、お店だけでなく、書店員さん自身が魅力的な方が多いのです。
書店には、毎朝大量に本が詰まった重い段ボールが運ばれてきて、開店までに陳列するというハードなお仕事もあるのですが、開封作業は、「クリスマスプレゼントを開けるときのわくわくする気持ちと一緒」と書店員さんはおっしゃいます。通販で買った水の開封ですら面倒で、1週間近く置きっぱなしにしている私とは大違いです。
書店員さんは宝物のように本を並べられているんですよね。
私自身、書店スタッフとして(マイエプロン・マイ名札を保有しております)、POP作りや陳列やシュリンク(ビニルカバーを付ける作業)をさせていただいたことがあるのですが、書店員さんはどの作業も楽しそうに、愛をこめてされるんです。だから、本は物であるのに、背景や思いやいろんなものがそこに見えるのだろうなと思います。
おもしろいのが、本や人間と同じく、書店ごとに、雰囲気が違うところ。いろいろ回ってみてください。おしゃれでシックな書店で本のジャケ買いをするのもいいし、モール内の書店でわいわいと買い物も楽しいし、町の懐かしい空気の書店で昔読んだ本に触れるのもロマンティック。
本をきらめかせて、お客様に触れてもらうため、工夫と試行錯誤と愛情がたっぷり詰まった書店は、無料のテーマパークみたいなものです。そして、本が寄り添ってくれるものになりうるように、書店は心休まる場所でもあります。
書店に行けばきっとあなたの何かに触れるものに出会えるはず。ぜひ、どんなときでも書店にどうぞ。
1974年、大阪府生まれ。2002年に作家デビュー。05年、『幸福な食卓』(講談社文庫)で吉川英治文学新人賞受賞。19年、『そして、バトンは渡された』(文春文庫)が本屋大賞に。エッセイ『そんなときは書店にどうぞ』(水鈴社刊)では、書店と書店員への愛を綴る。
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋