新年度、「自分の居場所」を見つめ直すあなたへ贈る書籍5選。
Culture 2026.04.04
狂気的なエリート会社員を描き、2度目の映画化も進行中の『アメリカン・サイコ』で知られるブレット・イーストン・エリスが13年ぶりに長編『いくつもの鋭い破片』を発表。この作品をはじめ、過去と現在、都市と異郷を行き来しながら、「ここではないどこか」と「自分の居場所」を探す人々の姿を描く6冊を紹介。
01.『いくつもの鋭い破片』
上下巻各¥3,630
80年代のロサンゼルス、裕福な若者の享楽と不穏な影。
文:山崎まどか コラムニスト・翻訳者
誰にも、自分の青春を象徴する特別な年というものがある。この物語の語り部であるブレット・エリスという名の少年にとって、それは1981年だった。彼はロサンゼルスの裕福な子どもたちが通うハイスクールの最上級生で、その学年に神のように君臨する特別な生徒たちのグループにいた。学園のクイーンのスーザンとその恋人でアメフト部のトム、そして彼の恋人で有名映画プロデューサーの娘のデビー。
ブレットの描く学園生活は、さながらパステルのポロシャツを着てトップサイダーを履いた美少年たちとセクシーな美少女が放課後のモールやプールサイドのパーティで戯れる楽園のようだ。しかし彼らを神話化するには作者が必要だ。この小説を書いたのはブレット・イーストン・エリスだが、裕福なティーンたちを物語(ナラティブ)の主人公にしたのは作者にそっくりな経歴を持つ語り部のブレットである。彼は自らが作り上げたこのナラティブに観察者兼主要登場人物として"参入"することによって、自らを守っている。
クローゼット・ゲイで文化系のブレットは本来ならば学園の勝ち組になれない存在だが、自らが操る物語の中でならば華やかなグループの一員でいられる。60年代の上流階級の婦人たちのサークルに取り入ったトルーマン・カポーティや、ドラマ「ゴシップガール」を思わせる設定である。
しかし彼がロサンゼルスの10代の生活の上に描いた完璧な夢は、卒業前に無惨に崩れる運命だった。彼らの人生にひたひたと犯罪の影が忍び寄ってくる。そして破滅が美しき転校生の姿を借りてやって来る。果たして彼はブレットの考えているとおり、少女たちを切り刻む連続殺人犯なのだろうか? それともこれは自らが作り上げた世界から追放される恐怖に苛まれた少年の妄想か。
懐かしい固有名詞に彩られた80年代の描写から、青春の終わりを告げる曲としてウルトラボックス「ヴィエナ」が選ばれている。切ない幕切れに似合う最高の選曲だ。
コラムニスト・翻訳者
著書『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社刊)をはじめ、乙女カルチャー、映画、音楽などについて寄稿。訳書も多く手がけ、近刊はサリー・ルーニー著『美しい世界はどこに』(早川書房刊)など。
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02.『大工日記』

中村季節著 素粒社刊 ¥1,980
30代半ばで大工の世界に飛び込んだ女性の奮闘の記録。
海外で夢破れた36歳の女性が家業である大工の世界に飛び込んだ。両親ともに大工なのに違う人生を歩きたくて18歳で家を出た。アメリカを放浪したりカナダでシェフの修業をしたり職を転々としたが、身近なはずの大工の仕事は何も知らなかった。見習いとして汗を流す。現場には外国人労働者も多い。初めて見る父と母の姿。ここではないどこかに憧れ、何者かになりたいと願い、何者にもなれずにいる人に刺さる言葉が満載の奮闘記。
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03.『私的応答』

井戸川射子著 講談社刊 ¥2,200
阪神・淡路大震災から31年、母娘三代の喪失と記憶の物語。
神戸の方言によるモノローグで銅子と母親、銅子の娘の厚美、母娘三代の記憶が語られていく。銅子には銀史の上にもうひとり金也という兄がいたが、死産だったと母親に聞かされて育った。1995年、阪神・淡路大震災が起こる。昭和から令和へと移ろう時代の中でそれぞれの喪失の痛みが断片的に浮かび上がる。起こった出来事は同じでも、私だけの想いがある。日常という営みの途方もなさを独特の文体で描き出す芥川賞作家の最新小説。
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04.『ポルトガル限界集落日記』

浅井晶子著 集英社刊 ¥1,870
ポルトガルの限界集落に移住した、翻訳家の異文化体験エッセイ。
大都会のベルリンに20年以上暮らしていた翻訳者の著者が、田舎暮らしに憧れるドイツ人の夫とポルトガルの限界集落に移住した。いちばん近い人家は1km先。山奥の一軒家での暮らしは一向に終わらない家の修繕で始まった。アジア食材店もクール便もないから、納豆もワインもオリーブオイルも手作り。ユルすぎるポルトガル時間に悩まされながらのスローライフは楽ではないが、お金に換算できない素朴な豊かさを教えてくれる。
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05.『Threads of Beauty 1995 -2025 時をまとい、風をまとう。』

高木由利子著 青幻舎刊 ¥12,100
人と衣服の関係性を見つめ続けた写真家の「格好良さ」の原点。
ディオールとのコラボレーションも記憶に新しい写真家・高木由利子は1995年から30年にわたり日常的に民族衣装を着ている人たちを撮影してきた。12カ国を旅しながら「顔も、表情も、服と一緒になっている人」を探して撮った1000枚を越える写真から厳選。生活と一体となり、人生や歴史まで物語る衣服の美しさに惹き込まれる。装うことに対する真摯な哲学を映し出す写真集。
*「フィガロジャポン」2026年5月号より抜粋
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text: Harumi Taki





