ファッションへの愛があふれ出す。おしゃれ猛者たちの私的トレンド談議。
Fashion 2025.06.28
構築的なフォルムや重厚なテクスチャー、装飾的ディテールが際立った2025-26年秋冬コレクション。クラシックを再解釈した表現が個性と感性を鮮やかに引き立て、装いに新たな可能性をもたらすシーズンに。
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Talk About 2025 AW Collection
2025 AW コレクション対談
おしゃれ猛者たちの私的トレンド談議。
注目ブランドのデビューショーから今シーズンの全体ムード、ベストアイテムまで、おしゃれのプロたちが秋冬トレンドを徹底解説。真面目なトークも勢い余って脱線ばかり、思わぬ本音も飛び出して。ファッションへの愛があふれ出す、私的でリアルなセッションをお楽しみあれ。
フィガロジャポンをはじめ、数多くのモード誌でエディターとして活躍する。マニッシュで決まりすぎていないスタイルが好き。
元フィガロジャポン編集長。現在はファッションジャーナリスト&エディトリアルディレクターとして活動する。先シーズンに続きトレンドリポートを編集。
@kaorinokarami
フィガロジャポン副編集長。ミラノファッションウィークの取材担当。最近-5kgの減量に成功し、服が似合う体型を手に入れた。おしゃれが楽しくてしょうがないお年頃。
塚本香(以下、塚本) デザイナー交代劇に揺れたシーズン、ラストもファーストもそれぞれに話題でした。最後と噂されていたジョナサン・アンダーソンのロエベはショーではなくプレゼンテーション形式でした。
飯田珠緒(以下、飯田) 正式発表前でしたが、会場に入った瞬間、集大成なんだなあと思いました。まるで展覧会を見ているような気分で、彼がやってきたアートやクラフトとファッションの繋ぎ方がいかに現代的か、ただインスピレーションをもらうだけでなくその先の深いところでリンクしていることがひしひしと伝わってきました。
森田華代(以下、森田) アート作品と洋服との組み合わせも素晴らしかったし、会場も演出もすべてが計算されていました。これが最後なのかなという匂わせ感もうまかった(笑)。
塚本 ジル サンダーのルーシー&ルーク・メイヤーもショーの翌日に退任が発表されました。ジョナサンの後任かと思っていたのですが。
田代佐智子(以下、田代) 彼らの打ち出すジル サンダーの世界観がとても好きだったので、涙、涙です。いい意味で神経質さがなく、尖りすぎてなくて、モダンなのに温もりが感じられる。彼らの持つヘルシーさに心癒やされていたので、ふたりがどこに行くのか、すごく気になります。
塚本 去就のニュースはまだまだ続きそうですが、今季のパリではなんといっても新デザイナー3人のデビューが注目でした。まずは、ハイダー・アッカーマンのトム フォード。最初は意外に思えたのですが、結果は素晴らしかった! トム フォードの官能性をこの時代にアップデートしたコレクションはただただ美しかった。
森田 ハイダーが自分のブランドをやっていた頃から彼の現代的なセンスが好きでしたが、今回のトム フォードは本当にきれいでした。クワイエットラグジュアリーとは違う文脈で大人が着る贅沢な服。素材、パターン、縫製、色、すべて完璧でした。
飯田 ファーストルックを見た途端、なんてきれいなシルエットなんだろうと。レザーのシャツやメンズのスーツも素敵でした。うっとりしてリシーの会場に並ぶ全ルックを写真に撮っちゃいました(笑)。
田代 ヘアメイクも含めて女性像がモダンなんですね。
飯田 そう、モダンで無駄を削ぎ落としつつ、色気はしっかりあるところがトム フォードらしい。
森田 サラ・バートンのジバンシィもよかったです。クチュール的な美しさというか。
飯田 もともとそういうメゾンだから、変にストリートに寄せるとかしないで、この路線でいってほしいです。
塚本 アトリエはジバンシィの魂、と彼女も言っていたし、オートクチュールもそのうち復活するんでしょうね。
田代 ドリス愛の強いみなさんですが、ジュリアン・クロスナーのドリスヴァン ノッテンはどうでしたか?
飯田 オペラ座というショー会場ともマッチして、ショーはとてもきれいでした。ドリス・ヴァン・ノッテンの後継者は難しいでしょうが、彼は長年デザインチームでドリスと一緒に仕事をしてきた人だから、今後に期待を抱かせるデビューだったと思います。
>>ドリス・ヴァン・ノッテン - 2025年 秋冬コレクション
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塚本 では、初コレの総括が終わったところで、本題のトレンドについて。過渡期なのかトレンドが見えにくかったともいえますが、ずっと続いていた日常着やリアルクローズとは違う、新しいフェミニニティを求める流れを感じました。
森田 これまでのストリート感覚からクラシックをベースにしたエレガントなムードへシフトチェンジしている気がします。レディライクなミュウミュウ、メゾンの原点に立ち返ったサラ・バートンのジバンシィなどが象徴的なのではないでしょうか。
飯田 ネオエレガンスというか、夢のある特別な服が増えてきて、撮影したいルックがたくさんありました。
森田 フェミニニティのひとつの表現として、身体と衣服の関係性を見つめ直すというムードもありました。ピーター・ミュリエもアライアのショーリリースでそう語ってました。
塚本 また違う視点の女らしさですよね。トレンドよりやはり個々のクリエイションが主張する時代なのかしら?
森田 そうも言えますが、才能を感じさせるデザイナーたちのコレクションには共通の空気があります。
飯田 これも女らしさへのアプローチだと思うのですが、80年代とは違うエレガントなパワーショルダーにも注目しています。アンソニー・ヴァカレロのサンローランはずっと好きですが、今シーズンもそういう時代のムードをしっかり表現していたと思います。パワーショルダーで、でも女らしい、ミニマルだけどつまらない服じゃなくて夢がある。
塚本 サンローランといえば、ショーの後半に登場したロングスカートにブルゾンのスタイルが私のベストルック。実物は見てないけれど、写真だけで心を射抜かれました。
飯田 私もあのルックは大好き。ボリュームのあるスカートにあのブルゾンを合わせるというバランス感覚はさすが! しかもスカートのウエストがちょっとだけ下がってるんです。あのシルエットには唸りました。
塚本 個人的に盛り上がってしまいましたが、冷静に、ミラノはどうでした?
田代 ミラノは生地や縫製などのファッション産業がベースになっているから、トレンドへのアプローチもパリとは違うと思うのですが、クワイエットラグジュアリー期から女性像が変わってきているなと感じました。印象的だったのはフェラガモ。ピタピタのボディスーツにジャージー素材のテーラードジャケットのスタイルは美しくて、着心地も良くて、まさに働く女性がいま求めているもの。そういう衣服の基本を大切にするのがミラノらしさなんですよね。もちろん、プラダは心の底から素敵でした!
塚本 ミウッチャ・プラダこそ新しい女らしさという今シーズンのトレンドの主役だと思います。ミュウミュウもそうでしたし。
飯田 結局、彼女が女の心を掴むんです。基本はクラシックでもハズし加減が絶妙で、可愛すぎないし古くさすぎない。着たいと思う服が必ずある。
森田 何より本人が素敵で、ずっと時代を牽引している。今回のファーストルックのドレスも50年代のマダム風でありながら、襟元や裾は切りっぱなしで、モダンな女らしさをちゃんと表現しています。
田代 私のベストは白の開襟シャツとレザーの膝丈スカートのルック。これ以上ないくらいオーセンティックなコーディネートなのに、シャツはしわしわで、レザーはなめす前のゴワゴワの質感で、奇をてらってないのに新しい。最高にクールだなと痺れました。
塚本 ミラノでも大興奮はあるじゃないですか(笑)。ミウッチャの話はきりがないから、トレンドに戻りましょう。3シーズン目のクロエにヴィクトリアンジャケットが登場したり、ディオールは『オーランドー』がテーマだったり、歴史からのインスピレーションも目立ったシーズンでした。
飯田 エリザベスカラーのような首元も気になりました。素材はともかくファーだらけ、レザーやレースも多かったです。
田代 100周年記念のフェンディのショーはゴージャスなファースタイルのオンパレード。今回はシルヴィア・フェンディがフェンディ家に伝わるクローゼットをインスピレーション源にしたコレクションで、フェンディはこうでなくっちゃと思わせるまさに周年にふさわしいもの。ファーもシアリングでフォックスやミンクのような風合いが表現されていて、その技術に感服でした。
塚本 フェンディがファーなのは納得ですが、普段はファーと無縁のようなブランドでも登場していたし、それも意外なアイテムに使われていて。私はシモーン・ロシャのファーのブラとブルマーに目が釘付けになりました。
飯田 私もシモーン・ロシャは大好きでした。本当に彼女は進化してますよね。ベースは同じように見えて、絶対にそのシーズンならではの新しさがある。ブルマーでなくても、クロエのしっぽやミュウミュウのストールのようなファーの小物が一点あれば、それだけで今シーズンらしい雰囲気が作れると思います。
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塚本 では続いて、同じように多かったレザーの着こなしについては森田さんからアドバイスをお願いします。
森田 たとえばジバンシィのレザーのシャツとパンツのルックなら、クチュールライクなフォルムやレザーの質感にトレンドっぽさがありつつ、さりげなく着られるのではないかと思います。トレンドとはまったくかけ離れてしまうけれど、個人的に心に残っているのは、ザ・ロウのタイツを肩から掛けた着こなし。どのルックも靴なしで、徹底的にタイツというあのセンスが好きでした。
飯田 これもトレンドとは離れてしまうかもしれませんが(笑)、若手デザイナーがおもしろいシーズンでした。オールイン、ジュリー・ケーゲル、メリル・ロッゲ、マリー・アダム=リーナエルト、ヴァケラはそれぞれにスタイルがあるし、何より楽しそうにやっているところがいいなあと。
オールイン - 2025年 秋冬コレクション
メリル・ロッゲ - 2025年 秋冬コレクション
森田 ジュリー・ケーゲルはデザイナー本人も可愛いし、ショーの演出もよく考えられていました。ヴォートレイトも初めてショーを見たけれど、きれいな服作りをしていると感じました。
ジュリー・ケーゲル - 2025年 秋冬コレクション
ヴォートレイト - 2025年 秋冬コレクション
塚本 もう若手とは言えなくなってきましたが、私はデュラン・ランティンクのパワーに圧倒されました。彼独特のフォルムにこれでもかというアニマル柄のミックスなのに、品があってシック。ジャンポール・ゴルチエの後継者に選ばれたということで、次の初コレクションは期待大です。
デュラン・ランティンク - 2025年 秋冬コレクション
田代 ミラノはルイーズ・トロッターのボッテガ・ヴェネタ。デムナのグッチもどうなるか、気になります。
飯田 パリはなんといってもマチュー・ブレイジーのシャネルが待ち遠しい。
塚本 まだ空席の(5月7日現在)バレンシアガやフェンディがどうなるか、来シーズンもトレンドよりデザイナー交代劇が主役になりそうですね。
*「フィガロジャポン」2025年7月号より抜粋
photography: Spotlight editing: Miyu Sugimori