俳優の中島歩が表現する、大人のロマンス。
新しい服との出会いは、恋の始まりにどこか似ている。一目惚れ、やきもきする焦燥感、初めて触れた時のときめき。頰をかすめる涼しい風が秋の訪れを告げる街を舞台に、俳優の中島歩とモデルのエリスカが綴る、大人のロマンス。

ロマンティック、あるいはロマンスという言葉から僕がまず思い浮かべるのは、かつてのフランス映画だ。たとえばクロード・ルルーシュ監督の『男と女』。あの「ダバダバダ…」という印象的な旋律は、若い頃に耳にして以来、いまも心の奥で静かに響き続けている。
僕にとってロマンティックとは、過ぎ去った時間の中に存在するものなのかもしれない。そう感じるようになった背景には、多感な時期を過ごした時代の空気がある。地球環境への不安が広がり、世界では紛争が続き、社会の不完全さが次々と露わになっていく。そんな時代に青春を過ごしたからこそ、ロマンティックはいつしか「古きよき時代」へのノスタルジーとして、自分の中に根づいていった。けれど、「ここにはない何か」を求め続ける気持ちがあるからこそ、人はロマンティックに思いを馳せるのだと思う。
ロマンスという言葉には、憧れという意味も含まれている。そう考えると、僕は昔から古いものへの憧れが強い。愛車も年代物だし、いつか家を建てたいという夢の先に思い描くのは、昭和のモダニズム建築や、20世紀ブラジルの建築家セルジオ・ロドリゲスが手がけた家具が似合う空間だ。クラフトマンシップが遠ざかりつつある現代だからこそ、「ひたすらに美しく、良いものを作る」という精神が宿ったヴィンテージの品々に、僕は強く惹かれる。
人として憧れる存在を挙げるなら、アメリカのロックミュージシャン、デヴィッド・バーンや映画監督のデヴィッド・リンチ。知性と奇妙さ、そしてユーモアを併せ持つ人たちだ。生き方や佇まい、装いにいたるまで、僕にとってのお手本である。
そして、現実の世界でロマンスを感じる瞬間といえば、やはり恋愛だろう。もちろん、相手に彼らのような「奇妙さ」を求めるわけではないけれど(笑)、周囲の視線に縛られず、自分自身の感性で生きている女性は素敵だと思う。
誌面で演じたラブストーリーは、どこか距離を感じさせる男と女の物語だ。実際の恋愛においても、ふたりの間には少しの距離が必要だと思う。相手を愛していても、相手は自分とは異なる存在であり、完全にひとつになることはできない。その違いを抱えたまま、相手を想い、時にすれ違い、時に寄り添う。その間に生まれる揺らぎや余白こそがロマンスと呼ばれるものなのかもしれない。
―― 中島 歩
中島 歩/Ayumu Nakajima
俳優。舞台『黒蜥蜴』でデビュー後、映画、ドラマ、舞台と幅広く出演。近年は映画『箱の中の羊』、『男ともだち』(11月6日公開)、Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」「ガス人間」、TBS系金曜ドラマ「Tシャツが乾くまで」など話題作に出演。

シャネルの新作を纏って、昼下がりの街を歩く。オーセンティックなツイードジャケットの中に、スカートと同じメッシュ素材のベストを重ねたトリッキーなスタイルがテンションを上げてくれる。ヴィンテージカーの車窓の向こうで、ハンドルを握るのは誰?

ロングテイルが目を引くモヘアのジャケットにパッチワークされているのは、ウクライナのアーティスト、ナザール・ストレリャエフ=ナザルコが描いた羊。「スーパーネイチャー」をキーワードに掲げたルイ・ヴィトンのセットアップで、大都会にそびえる高層ビルを見上げる朝。

なめらかなレザーのトレンチコートに身を包む女。タフなボンバーブルゾンを鎧のごとく着る男。ハードボイルドないで立ちのふたりは絶妙な距離感で、互いの気持ちを読む心理戦を繰り広げる。秋のアウターでガッチリとガードした心を先に開かせるのはどっちだ。

袖口と裾のペプラムがドラマティックなジャケットに、スカラップヘムのチュールが重なるスカート。トレーンをひいて、ポルカドットのパンプスが小気味よい足音を鳴らす。18世紀のフランス貴族になった気分で、コンクリートジャングルをそぞろ歩き。

ムートンジャケットの鮮やかなイエローが、ガラスに反射する蛍光灯の光とリンクする。ボディを優しくもピッタリと包むタートルニットとニットパンツが心も身体もアクティブにしてくれるから、隠れんぼだってお手のものだ。

1966年、イヴ・サンローランが女性のために仕立てたタキシードを「ル・スモーキング」と名付けてから60年。メゾンのアイデンティティはいま、性差を超えて新たなエレガンスを提示する。歴史によって磨き上げられたアイコンを素肌に身に着けて、互いの情熱をぶつけ合う。

ボディフィットなトップに、脚の根元のあたりまで深く入ったスリット。シアーなブラックタイツに、ポインテッドトウのハイヒール。センシュアルなドレス姿のファムファタールが、シャッターチャンスを狙う瞬間。レンズの向こう側に愛しい人を捉えて。

トレンチコートに、ストームフラップと同じ長さのケープを重ねる。コートの袖口からはアンバランスなほどに長いシャツのカフがのぞいている。窓の向こうは雨。部屋に閉じ込められたなら、思考を促すプラダの服とともにロマンスの行方に想いを馳せる。

かたやトレンチコートにはラッフルの大きな襟、一方のレザーブルゾンにはボリューミーなシアリングファー。ファイユ素材は静かに艶めき、レザーは力強い光沢を放つ。似ているような、でも決定的に異なっている、背中合わせのランデヴー。

指で作ったフレーム越しに映し出されるホワイトドレス。構築的でありながら柔らかく、贅沢にたっぷりと使ったシルクジャージーが彫刻のようなドレープを描く。布に包まれた部分と大胆に露出する肌とのコントラストが、幸せな高揚感を運んでくる。

優しく差し込む陽光の中で、なんでもない時間が過ぎる。日常に寄り添うノンシャランだけどエモーショナルな服は、マイケル・ライダーが手がけるセリーヌの真骨頂。ミントグリーンに淡いカーキ、ボルドー、鮮やかな赤。まるでエリック・ロメールの映画の中に迷い込んだようなワンシーン。

「光と影の間にある緊張の探究」。相反する二つが生み出す物語にフォーカスしたバレンシアガ。フードをあしらったレザージャケットの中には、白いシャツに黒いタイを結んで。静かな光に照らされて、対照的なエレメントがドラマティックに昇華される。
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- photography: Hiroko Matsubara
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- editing: Kayori Morita
- edit: フィガロジャポン編集部