それは盗難! ホテル備品のお持ち帰りから見えるお国柄とは?
Lifestyle 2022.01.29
文/シュピッツナーゲル典子
ワイングラスや食器類を持ち帰る宿泊客も多いそうだ。©Tim Reckmann / pixelio.de
ホテルの備品アメニティやタオルを持ち帰ることは、多くの客にとって些細なことかもしれない。だがそれだけにとどまらず、テレビやピアノ、あるいは洗面台をまるごと持ち帰る強者もいるという。また宿泊ホテルの星の数が多いほど、高価な品が消え失せる現象も。
ウェルネスホテルガイド「ウェルネス・ヘブン」は、最も頻繁に盗まれる、いわゆる宿泊者のお持ち帰り品は何かをホテル経営者や従業員1157人を対象に調査した。4ツ星ホテルと5ツ星ホテル宿泊客のお目当て品や価値観が異なること、そして宿泊者の出身国によってお気に入りの盗難品が違うという、分化した姿が浮かび上がった。
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1位はタオルにバスローブ。
この調査によると、盗難品の1位はタオルとバスローブ。自宅で使うため?それとも次の旅先で使うためかは不明で、続く2位は、ハンガー、ペン、スプーンやフォークなど。だがこうした「普通」の品物だけでなく、どうやって運んだの?と首を傾げてしまう大胆な逃走劇も多く、旺盛な盗難への想像力がうかがえる。
奇妙なお持ち帰り品7点。
1) バスルーム備品一式
ベルリンのあるホテルの報告によると、レインシャワーのヘッド、ハイドロマッサージシャワー、便座、排水管、あるいは洗面台をまるごと持ち帰った客が記憶に残っているという。高度な職人技がなせるお持ち帰り品にホテル側も笑うに笑えない。
2) ピアノ
イタリアのホテルマンは「ある時、ロビーを歩いていたら、何かが足りないことに気がつきました。そこで同僚に聞いてみると、作業服らしきオーバーオールを着た見知らぬ3人組が大きなピアノを持ち去ったというではありませんか。修理だったのかな?と思いましたが、それっきり。盗難者とピアノは消え去り、戻ってきませんでした」と振り返る。
3) ステレオ音響器具
ドイツのホテルオーナーはある朝、ウェルネスエリアのステレオ音響器具がすべて消えてしまったことに気がつき、目を疑った。お持ち帰り客はひと晩で音響機器をすべて解体し、自分へのプレゼントとして車に積み込んで立ち去ったようだ。
4) 部屋番号
イギリスのあるホテルで、宿泊客がホテルの部屋のドアに貼ってあった数字を無造作に剥がし持ち帰った。「次の客が部屋を見つけられなくなって初めて気づいたんです」とホテルの支配人は言う。これを読んだ時は「そんなバカな!」と大笑いしてしまった私だが、ホテル側にとってはいい迷惑。
5) 剥製
フランスではイノシシ頭部の剥製を盗もうとした宿泊客が報告されている。あわや盗難を阻止したが、盗難未遂で警察沙汰に。その後、友人達がホテルからその剥製を買い取り、結婚祝いにプレゼントしたという落ちも。新郎は、ウィットに富んだ友達の贈り物にどう反応したのだろうか。
6) ディナー用食器類一式
ある高級ホテルの常連客は、レストランから皿、グラス、カトラリー(食用ナイフやフォーク、スプーン)など、ディナー用食器類を繰り返し盗んでいた。しかも数カ月にわたって定期的に。
常連客ならそれなりにお金の余裕があるのではと思う。だったらホテルに交渉して有料で譲り分けてもらう方法もあったはずなのにと考えるのは、私だけだろうか。
盗難よりも自宅に持ち帰るスリリングな気分にはまったのかもしれない。あるいは自宅でホテルのレストランにいるような気分で食事をしたいのか。確かに皿が素敵だと料理も一層美味しそうに映えるが、自宅ではだれが料理するの?と、どうでもいいことを案じてしまう。それとも食器棚に収め、ニンマリと眺めているのかも。
7) 生花
モルディブのリゾートホテル経営者によると、デコレーション用の生花が頻繁に消え失せるそうだ。そのため毎週数回、生花を注文する羽目に。モルディブといえば、新婚カップルや恋人たちの憧れの旅行先。花嫁へのプレゼントに、あるいは現地でプロポーズをする恋人たちに人気の盗品が花という訳だ。
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国別に見た盗難品の違いとは。
こうして各国のホテル関係者からの報告を見ると、国籍別により分化した姿が浮かび上がってくる。
たとえば、ドイツのホテル客は、かなり退屈な窃盗行動をしていることが判明した。タオルやバスローブのほかに、主にアメニティと他国と比べて控えめ?だ。
オーストリア人は、ドイツ人に比べてもっと快楽主義的。食器類やコーヒーメーカーが盗難のトップにあがっている。コーヒーセットや食器類が何セットあっても満足しないらしい。
イタリア人はホテルのお土産?にワイングラスを好み、スイス人はドライヤーを好む。一方、フランス人はもっと派手なものを盗む。テレビとリモコンを持ち帰る回数が圧倒的に多い。
オランダのホテルの宿泊客は、お持ち帰り品を主に実用的な用途で見ている。なかでも電球とトイレットペーパーがお気に入り。コロナ禍以前からオランダ人の多くは、キャンピングカーで頻繁に旅行に出かけていた。宿泊費用を抑えて、その代わりに何度も旅に出る人が多いことから、日用品をお持ち帰りするようだ。
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5ツ星ホテル宿泊者は高級品がお好き!
この調査では、宿泊客の富裕度による窃盗行動も探った。特に5ツ星ホテルの富裕層の間では、高品質の一品を、率直に言えば「強欲は善」をモットーに掲げ、お持ち帰り品を選んでいるらしい。
たとえば、5ツ星ホテルは4ツ星ホテルに比べて高品質のテレビを盗まれる確率が9倍も高い。同様に、美術品も5ツ星ホテルでは垂涎の的だ(4ツ星ホテル盗難比5.5倍)。
また、タブレットPCやマットレスの盗難も目立つ。高価格帯の客室に置かれていることが多いタブレットPCは、4ツ星ホテルに比べて8.2倍も盗難に遭いやすいといい、高級志向の旅行者の間で人気のお土産?となっている。
さらに高価な高級マットレス(その多くは数千ユーロの相当額)は運搬できないだろうと思うなかれ、盗難リスクは、4ツ星ホテル比で8.1倍にもなる。また羽毛布団を手に入れて、自宅でホテルの思い出に浸る睡眠体験をしたいと考える客もいるようだ。
しかし、どうやってかさばる荷物を気づかれないようにホテルの外に運び出すかは謎のままだ。「おそらく、地下駐車場に直結するエレベーターで夜中にこっそり運搬するのだろう」とホテルマン。
近年人気急上昇中のカプセル式コーヒーメーカーも、4ツ星ホテル比で、盗難率は5倍以上も高い。
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4ツ星ホテル宿泊者は、持ち運びに便利な品を選ぶ。
これに対して4ツ星ホテルの宿泊者が好んで持ち帰るのは、往々にして持ち運び安いもので、タオルやハンガーが人気。5ツ星ホテルの3倍から5倍の盗難率だそう。トイレットペーパーの盗難に関する個々のホテル経営者からの報告では、もっぱら4ツ星ホテルで頻繁に持ち帰られる品だという。
「ウェルネス・ヘブン」は、2006年に開始したウェルネスホテルガイド。ドイツ、オーストリア、イタリア、モルディブのホテルを中心にヨーロッパとアジアのウェルネスホテルの格付けを行っている。
この調査はコロナ禍前の2019年9月から10月にかけて実施されたもの。4ツ星セグメントでは634人、5ツ星セグメントでは523人のホテルマンにインタビュー。調査方法は選択回答がランダムに提示され、複数回答を選択できるアンケート方式で集計した。
いずれにせよ、コロナ禍により人々の価値観が大きく変わった。次回のホテル滞在では自宅では得られない非日常な空間を楽しみ、現地でしか体感できない思い出を持ち帰りたいものだ。
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko
text: Noriko Spitznagel