17~19世紀、王侯貴族たちの田園のアール・ドゥ・ヴィーヴル。
Paris 2025.06.24
シャトーと名がつく建物がフランスにはなんと多いのだろう......こう思ったことはないだろうか。その中には王侯貴族が都会を離れて、自然に囲まれた中で静けさやフレッシュな空気を味わい、親しい人々と興じるための余暇のための館が含まれているのだ。これらは本拠地からそう遠くない風光明媚な土地が選ばれていた。リラックス&レジャーのための存在ゆえに、訪問・滞在ができるのは持ち主と招待されたごく限られた人だけだったという。
いまの時代、裕福なパリジャンたちが週末ごとに田舎のウィークエンドハウスに出かけるのと、その昔も変わりはなかったのだ。ルイ14世が余暇の家としたのは、ヴェルサイユ宮殿から7km離れた場所に1676年に建築させたマルリー城である。フランス革命以降、切り売りされその城はもう存在しないけれど、その敷地には美術館が設けられ、こうした建築物をテーマとした展覧会『ルイ14世からナポレオン3世までのパリ近郊の楽しみの建物』を開催中だ。会場で、王侯貴族やブルジョアたちの17〜19世紀のライフスタイルをのぞいて見よう。
ルイ14世からナポレオン3世までのパリ近郊のレジャーハウスをテーマにした展覧会。会場となる美術館はマルリー領地の入り口にあり、領地内の庭の散策も楽しめる。photography: 右 Mariko Omura
展示品は約100点。絵画、版画、デッサン、地図、装飾品......余暇のためのシャトー、ヴィラ、カントリーハウスといった建物の建築が17世紀にルイ14世の時から盛んになり、19世紀の工業化、鉄道の発達とともに社会が変遷するまでの3世紀を時代順にテーマを設けて展覧会は構成されている。いまは存在しないけれど、マルリー城は王室のこうした目的での居住の建物としての模範だった。ルイ14世にとってヴェルサイユ宮殿が仕事場でもあるなら、このマルリー城は楽しみの時間だけのための存在。このアール・ドゥ・ヴィーヴルを愛した王は、弟のためにサン・クルー城を設け、大臣だったコルベールにはソー城を贈っている。美術館の地上階には常設展示があり、ここでセーヌ河からの巨大な水揚げ装置の「マルリーの機械」について詳しく知ることができる。8kmの水道橋を伝って、河から154メートルの高さのマルリーの丘まで水が運ばれていったのだ。
マルリー城で使われていた陶器類はヴェルサイユ宮殿から運ばず、ここでの暮らしのために特別に製造。その中には身繕い用の水差しや洗面器、お丸なども含まれていた。photography: Mariko Omura
1715年ごろのマルリーのパビリオンをミニサイズの模型で再現。中央に2フロアからなる8角形のサロンが設けられていたのがわかる。上のバルコニーで音楽家が演奏し、人々は食事や舞踏を楽しんでいたのだ。photography: Mariko Omura
自然に囲まれた環境の中、彼らにとって狩猟がメインの余暇活動で、さらに散歩やビリヤード、パーティー......展示品からも当時の豪奢なアール・ドゥ・ヴィーヴルを察することができる。小さな映写室で流されるショワジー城とノアイユ館の映像もなかなか興味深い。ショワジー城はルイ15世がパーティーを楽しむ場所として1739年に購入し、劇場やオレンジ温室、水浴小屋などを追加建築。1754年には敷地内によりプライベートな集まりのための小さな城を建てさせ、そこに設けられたのが有名な"空飛ぶ食卓"だ。食卓中央の丸い部分が上下することで下のフロアの台所で食事がセットされ、また片付けられるといった様子を映像で見ることができ、そのアイデアに驚かされる。ルイ15~16世の治世下の18世紀には、ポンパドール夫人、デュ・バリー夫人など女性たちが田舎でのんびり寛ぐだけではなく、芸術も嗜む機会として積極的に余暇のための館の時間をエンジョイしていたことにもコーナーが設けられている。こうした建築物はいまの時代、一般公開されているもの、消失したものなどもあるが、高級ホテルにトランスフォームされているものも。機会があれば、そうしたホテルに宿泊し、当時の気分を味わってみるのも面白そう。
パリ近郊のサン・クルー城で小規模な狩猟を楽しむルイ14世の弟オルレアン公を描いたJacques Bertaux作『Partie de chasse du duc d'Orléans au château de Saint-Cloud』(1778年/Musée du Domaine départemental de Sceaux所蔵)。
左:室内装飾のコーナー。 右:3D復元の映像でサンジェルマン=アン=レのノアイユ邸、ショワジー城の1770年ごろの様子が紹介されている。Agence Aristeasによる復元で、ショワジー城の有名な"空飛ぶ食卓"(写真)がどう機能していたかを発見できる。photography: Mariko Omura
Eugène Atgetが1901年に撮影したルイ15世のかつての城Choisy-le-Roi。写真の所蔵はMusée du Domaine départemental de Sceaux。
家具、絵画、彫刻なども展示。右の写真の手前の引き出し家具はルイ14世の娘たちの居殿のために、その時代の有名な高級家具師フランソワ・モンドンが製作したものだ。photography: Mariko Omura
18世紀後半の水彩画で、ヴェルサイユのプロヴァンス伯爵夫人の音楽館をしのぶ。(Musée du Domaine départemental de Sceaux, Benoît Chain © MDDS)
マルリー領地へのパリからのアクセスはサン・ラザール駅から列車でLouvecienne あるいはMarly-le-Roiまで行き、そこからバスで。または、モンパルナス駅から列車でVersailles Chantiersまで行き、そこからバスLigne Express Versailles/Saint-Germain en Layeに乗りGrille Royaleで下車。展覧会だけでなく、広大な庭の散歩もいいだろう。なお美術館にはティールーム、ブティックが併設されている。
開催中~8月31日
Musée du Domaine royal de Marly
1 Grille royale - Parc de Marly
78160 Marly-le-Roi
開)14:00~18:00
休)月、火
料)7ユーロ
https://musee-domaine-marly.fr/
@museemarly
★Google Map
editing: Mariko Omura