現代パリジェンヌのヴィンテージスタイルは「上書き」がルールらしい。【森春菜の「令和じたばたパリジェンヌ月報」#1】
パリに来て6ヶ月。ガスは止まる、Wi-Fiは届かない、煙突は壊れる。東京でジュエリーブランド“ANNA DIAMOND”を立ち上げ、パリに引っ越してきた私、森春菜の毎日は、いまだトラブル対応の連続だ。でも気づいたことがある。こんなふうにもがいているのは、私だけじゃない。
パリに生き、街で見かける優雅なパリジェンヌたちだって、水面下ではみんなじたばたしている。この連載では、そんな現代のパリジェンヌがパリジェンヌたる理由を探っていく。

第1回は、パリジェンヌに欠かせないと言っても過言ではない、ヴィンテージファッション編。主役は、モンマルトルの屋根裏に暮らすモデル、Chiara(23歳)。梱包紐すらファッションに変えてしまう彼女のヴィンテージスタイルのルールを聞いた。
Chiaraの着こなし、拝見
ヴィンテージジュエリー×カシミア、そして梱包紐!

お母さんの上司からのお下がりだというカシミアのカーディガンに、首には友人からのギフトに付いてきた梱包用の紐を巻く。ジュエリーはヴィンテージとANNA DIAMONDをミックス。
上品なカシミアと素朴な梱包紐のミックス&マッチ。通常は出合わないであろう組み合わせが、彼女の手にかかると不思議と調和する。指先にも現代とヴィンテージのジュエリー、新旧の時代を合わせて調和させる。ジュエリーデザイナーの私からすると、正直「なぜ紐を?」だったが、見れば見るほど、素材の「格」なんて関係ないことに気が付く。選ぶ人の意志が宿れば、何だって美しくなる。
ジュンヤ ワタナベ×ヴィンテージデニム

ヴィンテージショップで出会ったジュンヤ ワタナベのデニムジャケットに、また別の機会に別の店で見つけたジーンズをセットアップのようにコーディネート。偶然にも完璧なカラーマッチング。デザイナーズブランドのヴィンテージと、無名のヴィンテージ。出自もブランドも関係なく、自分の目だけで選んで組み合わせる自由さが、なんとも魅力的。
新品をほとんど買わない暮らし

この大胆なスタイリング力は、どこで培うのかと気になって彼女の部屋を見渡すと、納得した。60年代のポスターの横に中世美術の画集、モロッコのラグの上にミッドセンチュリーの椅子、華やかな柄のカウボーイブーツが部屋の真ん中に鎮座。暮らしごと、あらゆる時代のミックスだった。
クローゼットに目を向けると、洋服が収まりきらず、キッチン上部の本来お皿用の棚まで服で埋め尽くされている。(私のアパルトマンも収納が足りないけれど、こういう解決策があったか!)そしてその中身は、ほぼヴィンテージ。

「いまの新品の服って、品質に納得できることがほとんどなくて。レザーやカシミアは、断然昔のものが良いわ」
アンティークジュエリーも同じだ。昔の細工には、かの時代に、匠の技術と手作業で作り上げたものがたくさんある。でも、彼女がヴィンテージを選ぶ理由は品質だけではなかった。
「ヴィンテージを着ると、より強い自分になれる気がするの」
お気に入りのデニムは、前の持ち主がChiaraの丈にぴったりにお直ししていたという。見ず知らずの誰かの裾上げが、時間を超えて届く。そういう豊かな偶然性は、新品にはないものだ。

なぜ彼女はここまで冒険できるのか
ヴィンテージを「それっぽく」着ること自体は、そこまで難しくない。古着屋で良いものを選んで、定番のスタイリングに合わせれば、それなりにサマになる。
でも、Chiaraが実践しているのはそれだけではない、自分のルールでさらに上書きさせたオリジナルスタイルだ。梱包紐をカシミアに合わせる。別々の店で別々の時期に買ったデニムをまるで対のように組み合わせる。ヴィンテージミックスを「自分だけのもの」に変えてしまう、その感性はインテリアを含めた普段の生活から培っているのだ。その大胆な感性はそもそもどこから来たのだろう?

「お父さんが若い頃ニューヨークに住んでいて、その頃のシャツやネクタイが家にたくさんあって。子供の頃、それを体に巻き始めた。シャツをドレスにしたり、ネクタイをネックレスにしたり。そんな私を見て、父がマネキンを買ってくれてね」
「やめなさい」ではなく、マネキンを買ってくれるお父さん。想像力溢れる人間を育てるのは、才能ではなく環境なのかもしれない。そこから先も、実験は続いた。ゴスファッションの時期が2年、全身ピンクが2年、カウボーイ期もあったという。

迷走を続けていた頃を振り返ると、黒歴史と笑い飛ばしそうなものだけど、彼女はそのどれも否定しない。「常に自分のパーソナリティを探してたんだよね」と、むしろ誇らしげ。
つまり、あの大胆さの正体は、膨大な量の試行錯誤だった。
Chiaraに学ぶ、ヴィンテージショッピングの買い方3つのルール

1.「買わない月」なんて、当たり前
クリスマスシーズンは集中的に買い込み、その後は月に1回、時には2ヶ月何も買わないこともあるという。無理に探すのではなく、感覚が冴えている時に一気に動く。私もジュエリーの素材を仕入れる時、似たようなリズムがある。「いまだ」という波が来た時に動くのが、結局いちばん良い買い物になる。
2.最後に見るのは「品質」
気になるものを見つけたら、まず色、次に質感、そして形。試着して本当に気に入ったら、最後に品質をチェック。「大好きな服が傷んじゃうと心が痛いから」。ちなみにヴィンテージの靴はヒールが割れると修理に買値の2倍かかることもあるらしい。私もアンティークジュエリーの修理費で何度か泣いた。古いものを愛するって、お財布との戦いでもある。
3.アプリより、自分の手で探す
Vinted(日本でいうメルカリ)のようなフリマアプリはほとんど使わないという。「情報が多すぎて圧倒されちゃう。実際にお店で手に触れて探す、あの感覚が好きなの」。
パリ内のおすすめのヴィンテージ店を聞くと、nuovoparis、turnparis、souagforeverの3店舗と、ヴァンヴの蚤の市。実は、ヴァンヴの蚤の市は私も大のお気に入り。2週に1回は足を運んでいる。

取材を終えて帰り道、歩きながら考えていた。
Chiaraを見ていて気づいたのは、「自分らしさ」は完成するものではないということ。ゴスの時期も全身ピンクの時期もあった。でも「自分で選ぶ」という芯だけは変わっていない。
大事なのはスタイルが変わらないことではなく、変わっても自分で選び続けること。
去年、東京を離れてパリに来た私も、まだまだじたばたするだろう。でもそれでいいのだと、23歳のパリジェンヌに教えてもらった。
Chiara
モデル/23歳/モンマルトル在住
アルプス・クールシュヴェル出身。17歳でパリに移り、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。スタイルのキーワードは「Playful・Sophisticated・Referential」。

森春菜
大学卒業後、コピーライターとしてキャリアを始動。「形あるもの」に憧れるようになり、4年前にジュエリーブランドANNA DIAMONDを設立。2025年2月、代官山に直営店ANNA DIAMOND Galleryをオープン。’25年10月にパリに移住。ブランドも欧州への展開を予定している。
森春菜 Instagram: @haruna_mori__
ANNA DIAMOND Instagram :@annadiamond_jp
ANNA DIAMOND 公式サイト:https://annadiamond.shop/