パリからアートのプチ・トリップ。廃材彫刻の先駆者『ルイーズ・ネヴェルソン展』へ。
Paris 2026.04.15
地方の美術館で面白そうな展覧会があっても、パリから乗った列車を下車し、そこからバスや地下鉄を乗り継いで、というようにアクセスが面倒なことが多い。でも、ポンピドゥ・センター・メッスなら、パリ東駅からTGVで1時間30分のMetz(メッス)駅で降りたら、徒歩5分の場所にあるのでとても行きやすい。白い屋根がうねる坂茂の建築で有名な建物で2010年に開館し、昨年15年を祝ったところだ。

ポンピドゥ・センター・メッスは板茂による建築。館内には外部の人も利用できる、日本人シェフによるレストランUméがある。photography: Mariko Omura
ポンピドゥ・センター・メッスでは8月31日まで『Louise Neveleson. Mrs.N's Palace(ルイーズ・ネヴェルソン。ミセスNの宮殿)』展が開催されている。ルイーズ・ネヴェルソン(1899~1988年)とは誰かというと、アメリカで活動したキエフ生まれの女性彫刻家である。1950年代終わり、まだインスタレーションという言葉が美術界で使われる前からインスタレーションを行なっていた彼女。アサンブラージュ作品を先駆的に手がけた彫刻家でもある。彼女は廃棄された家具などを街で集め、それらを解体して黒く塗って、一つの作品に仕上げていた。本人は自分の仕事について、"光と影の建築家"と称していたそうだ。彼女と活動時期がダブル女性彫刻家として同じ名前のルイーズ・ブルジョワが一般的には有名であるが、その才能ゆえにネヴェルソンはブルジョワからは敵対視されていたという。

展覧会のポスターのビジュアルは、作品Night-Focus-Dawn前で1969年ごろに撮影されたルイーズ・ネヴェルソン。Portrait de Louise Nevelson, vers 1969 devant *Night-Focus-Dawn* Copyright : © Estate of Louise Nevelson. Licensed by Artist Rights Society (ARS), NY/ADAGP, Paris / Photo : © Courtesy Jeanne Bucher Jaeger, Paris- Lisbonne/ Droits réservés
ファッショニスタなら、エディ・スリマンがセリーヌでアーティスティク・ディレクター時代に続けていたアーティストジュエリープログラムの中に彼女の彫刻のネックレスが含まれていることを覚えているだろう。さらにもっと前、目の周囲を黒で隈取り、口にタバコをくわえた彼女の迫力満点の顔のアップがコムデギャルソンのビジュアルマガジン『Six(シックス)』のカバーを飾ったことを覚えているだろう。

左:展示されている1946年作の自画像。 右:1976年、77歳のルイーズ。彼女の個性にも目を向けさせる展覧会だ。Description : Louise Nevelson, 1976 Copyright : Photo : © Archives of American Art, Smithsonian Institution / Lynn Gilbert
フランスで彼女の展覧会が開催されてから50年が経過。メッスのこの展覧会は、ヨーロッパでは初の大回顧展となる。彼女にオマージュを捧げるもので、このようにまとまって彼女の作品を見られる機会は世界でもそう滅多にないことなので、ぜひ! 開催は8月31日まで。
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この展覧会のタイトルにうたわれている『Mrs.N's Palace』(1964~77年)は、彼女自身によって1985年にニューヨークのメトロポリタン美術館に寄贈された作品である。あいにくこの作品を展示する館内のコンテンポラリー・セクションは現在工事中。しかもその期間を利用して作品も修復中とのことなので、たとえニューヨークに足を運んでも見ることができない。見られないものが見たくなってしまうという、困った展覧会だ。木と鏡を素材にした355.6×607.1×457.2 cmというサイズで、実際に人間が中に入れる大きさの作品だという。

バイオグラフィーのコーナーで『Mrs.N's Palace』を写真で見ることができる。photography: Mariko Omura
ネヴェルソンというと黒一色の作品を思い浮かべるものの、この展覧会はゴールドの作品『An American Tribute to the British People』(1960~1964年)で幕を開ける。この作品の制作まで、すでに10年近くニューヨークの街で集めた廃棄物をアートピースへと変容させる実験を続けていた彼女。その間ごく短期間ゴールドそして白の作品を制作した時期がある。ニューヨークの美術館で開催された能の衣装展を見たことが、ゴールドの作品をインスパイアしたそうだ。このパワーを放つ金箔の作品は1961年にニューヨークのギャラリーで発表され、1980年にはニューヨークのホイットニー美術館で開催された『Louise Nevelson: Atomospheres and Environments』で公開された。配置は構造全体を構成するためのグリッドパターンに従って構成されている。左右のバランスがとれ、祭壇のような印象を与える彫刻だ。

展覧会のプロローグの部屋は「The Royal Tides」。ゴールドの『An American Tribute to the British People』(1960〜64年)が来場者を迎える。photography: Mariko Omura
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ルイーズ・ネヴェルソンの名前に大勢がイメージする黒い廃材彫刻は、『Moon Garden + One』で見ることができる。1958年ニューヨークのギャラリーでこのタイトルで展覧会を開催した際、彼女は会場に照明がないことを希望したそうだ。最終的には青い光の照明という合意があり、今回もそれが再現されて科学者の夢と詩人の夢が出会う世界が広がる。展示作品は『Tropical Garden II』。ミステリアスな空間に置かれた、彫刻はその異様な存在感と神秘性を倍増。黒に限らず、単一色の作品はどれも、素材の質感の違いや光と影の遊びがみる者の目を捉える。プラス1というのは鑑賞者であり、また彼女自身だそうだ。なお彼女はこのインスタレーションを公開する前に、古代ケルト社会のドルイド教の踊りを自ら踊ったという。これに続くテーマ「Shadow and Reflectio」で展示されているのは『Silent Music』。これは友人の音楽家ジョン・ケイジへのオマージュとされる作品だ。

『Tropical Garden II』(1957年)。摩天楼が並ぶニューヨークの街を想起させる。photography: Mariko Omura

『Shadow and Reflection I』(1966年)。photography: Mariko Omura
このように黒い作品を並べた部屋が続いた後、突然世界が開かれたかのように、目の前に白い世界が広がる。ここは『Dawn's Wedding Feast(夜明けの婚礼の祝宴)』と命名され、白い彫刻でまとめられた部屋だ。白い彫刻としては、ニューヨークのセント・ピエール教会内に彼女の1970年代後半の『善良な羊飼いのチャペル』をいまも見ることができる。それを思い出させるように、この部屋のメインピース『夜明けの婚礼のチャペルII』もまた左右対称のグリッドに基づいた構成だ。パリのノートルダム大聖堂の壮大な塔を彷彿させるこの作品には、チャペルと同様の精神性と瞑想を喚起させる。1962年のヴェネチア・ビエンナーレ展では、この作品の要素を用いて、白い空間を彼女は再構築。1969年から1975年にかけて、このように彼女は過去の作品から構成を再構築し、複雑化した作品を生み出すことを行なっていた。

白の作品でまとめた『Dawn's wedding feast』。中央奥が『Dawn's Wedding Chapel II』(1959年)。photography: Mariko Omura
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プロローグの後、展覧会の展示はほぼ時代順に進む。最初のテーマ『Dancing Figure』では彩色したテラコッタの彫刻を展示。演劇と歌を学んだルイーズは、その後リズム体操に目覚め20年近く実践。体のあらゆる部分を意識するようになり、身体の内に秘めた感情の表現を促すリズム体操は、彼女の生命のエネルギーをクリエイションへと昇華させた。マーサ・グラハムのモダンダンスに魅せられていた彼女は、ダンスの身体の動きにインスパイアされた彫刻作品を制作したのだ。

左:マーサ・グラハムが踊る映像の下に並べられたテラコッタの彫刻。 右:『マジック・ガーデン』より。photography: Mariko Omura
再生木材を素材にした彫刻を展示する『マジック・ガーデン』がこれに続き、次の『ムーン・ラゲッジ』では彼女の存命中に公開されることがなかった『Artillery Landscape』(1985年)が会場の中央を占めている。彼女がフリーマーケットで見つけた武器を収めるための木箱が素材。無害な家庭用品にそれらを置き換えるクリエイションを彼女は行った。その周囲の壁には、彼女が50年代の前半から晩年まで続けたコラージュ作品を展示。彼女の没後100点近くが見つかったそうで、この展覧会では65点を見ることができる。展覧会の最後には、1960年代後半に手がけた透明なプレクシグラスのシリーズからの作品も展示。実に見応えのある回顧展である。

左:中央は『Artillery Landscape』(1985年)。 右:コラージュ。メタル、木材、レースなどコラージュには種々の素材が用いられた。photography: Mariko Omura

「ドリームハウス」と名付けられた部屋で展示されているルイーズの写真。このドリームハウスのひとつは、ニューヨークの街をこよなく愛する彼女がスプリング・ストリートに構えていたアトリエで彫刻された電話ボックス。Marvin W. Schwartz, Louise Nevelson avec une cabine téléphonique sculptée dans son atelier de Spring Street, Manhattan, New York, 1972 New York, Whitney Museum of American Art Copyright : © Estate of Louise Nevelson. Licensed by Artist Rights Society (ARS), NY/ADAGP, Paris / Photo : © Digital image Whitney Museum of American Art / Licensed by Scala

『Hommage to the Univers』(1968年)。この向かいでは、彼女についてのショートフィルムを上映。 photography: Mariko Omura

左:コラージュ作品。1974年、1985年の制作だ。 右:『Atmosphere and Environment』の部屋より。
開催中~8月31日
Centre Pompidou-Metz
1, parvis des Droits-de-l'Homme, Metz
開)10:00~19:00
休)火、5月1日
料)14ユーロ
https://www.centrepompidou-metz.fr/fr
@centrepompidoumetz_
★Google Map
editing: Mariko Omura





