左岸のエスプリに包まれる、マンダリン オリエンタル ルテシア パリのイザベル・ユペール・スイート。

Paris

パリ左岸、7区のラスパイユ大通りとセーヴル通りのコーナーを占める見事な石造りのホテル、マンダリン オリエンタル ルテシア パリ。ラスパイユ大通りに面したメインエントランスからレセプションへと向かうと、空間に漂う淡い柑橘類の爽やかな香りにうっとりさせられる。ホテルのために地中海をイメージして創香された香りだという。チェックイン前から、このホテルで眠ることへの期待が膨らんでくる。

184室のホテル。外観はアールヌーボー・スタイルだ。
エントランスからレセプションへ。ホテルが建築されたのはアールヌーボー・スタイル時代だが、すでにアールデコ・スタイルも様式のムーヴメントとして芽生えていた。ホテル内装は主にアールデコ・スタイルでまとめられている。建築を見るおもしろさも秘めたホテルだ。photography: Mariko Omura

ボン・マルシェ側から眺めて、上部にライトで描かれたLUTETIAという文字にホテルの存在を意識した人も多いのではないだろうか。デパート前のブシコー公園で憩いながら、目をとめた人もいることだろう。屋根近くの装飾がブドウがモチーフなのが気になるのだが、ホテルができる前は葡萄畑がありワインの製造を行っていた大修道院だったということが由来だそうだ。パリ左岸で? と意外な歴史に驚かされる。

2万平米の敷地にホテルができたのは1910年。いまから1世紀以上も前のことだ。1852年に世界初のデパートとしてオープンしたのがボン・マルシェ。創業したのはアリスティッド&マルグリット・ブシコー夫妻で、そのデパートに海外や地方から買い物にくる裕福な顧客たちがパリで宿泊するのに理想の場所として、夫亡き後のデパートのオーナー、マルグリットがこのホテルを建てたのだという。ホスピタリティから生まれたホテルだけあり、2025年からマンダリン オリエンタル ルテシア パリと名前が代わってからもおもてなしの心で滞在客を迎えていることに変わりはない。

ボン・マルシェの創業者の名前がついたブシコー辻公園。ホテルとボンマルシェの間にあり、花、植物、鳥など自然があふれる都会のオアシスだ。photography: Mariko Omura

パリ市内の数あるゴージャスなホテルの中でも、ここは左岸で唯一無二のパラスホテル。50近いスイートルームがある中でさらにユニークなのは、女優イザベル・ユペールが監修した623号室「オートクチュール・スイート・バイ・イザベル・ユペール」の存在だ。パリ生まれの彼女は芸術的で文化的かつ知的な歴史をもつ左岸を愛し、ホテルとも長い信頼関係にある。建築家ジャン=ミッシェル・ヴィルモットを起用して4年がかりで大がかりなリニューアルを2018年に終えたホテルだが、さらに2021年に彼女が監修するスイートルームが誕生。まるで彼女が暮らすアパルトマンのように、室内のいたるところにパーソナルタッチがもたらされている。

自分を重ね合わせられる知的な左岸を愛するイザベル・ユペール。ホテルの前にて。photography: © Eric Guillemain hairstyle: © Coiffure Alex Lagardère, Forty-One Studio + Agency design: © Jonathan Huguet makeup: © Hugo Villard
左: 磨きをかけたユーカリの木が美しい壁が連なる廊下。 右: イザベル・ユペール。時々立ち寄るスイートルーム内のバーで。photography: (左)Mariko Omura、(右)© Eric Guillemain hairstyle © Coiffure Alex Lagardère, Forty-One Studio + Agency design © Jonathan Huguet makeup © Hugo Villard
オートクチュール・スイート・イザベル・ユペール。煌びやかではなく、落ち着きとクオリティという左岸らしいリュクスが空間に漂う。

たとえば棚に並ぶのは彼女が厳選し、時々入れ替えを行うという書籍や写真集だ。 シルヴァン・テッソン『シベリアの森のなかで』、シモーヌ・ド・ボーヴォワール『娘時代』、トーマス・ マン『魔の山』、カロン・ド・ボーマルシェ『セビリアの理髪師』……内省や社会をテーマにしたモダニズムおよび現代文学、フランスを代表する喜劇文学作品と幅広い。スイートに用意された20曲のプレイリストも彼女のセレクションでイヴ・モンタン、レナード・コーエン、デヴィッド・ボウイ、モーツァルトとこちらもバリエーション豊富だ。もちろん自身が愛する映画の要素もスイートルームにもたらしている。彼女のファミリーが経営する6区のクリスティーヌ通りにある名画座クリスティーヌ・シネマ・クラブで上演中の映画を、スイートのくつろぎ感満点のソファに座ってTVの大画面で鑑賞できるのだ。4月後半なら『シェルブールの雨傘』『スカーフェイス』『ペルソナ』『グランド・ブダペスト・ホテル』……。

本の題名を見ていると、イザベル・ユペールの頭の中に入り込むような気がしてくる。photography: Mariko Omura
左:このスイートルームでは映画にまつわる要素も大きい。それは彼女が選ぶ本にも反映されている。 右:廊下の掲げられたポスター。その奥のベッドルームにも、映画館内で撮影された赤い椅子に座る彼女の写真が。photography: Mariko Omura

ここは”オートクチュール”とカテゴライズされたスイートルーム。彼女とオートクチュールの関係を示すのは、ダブルリビングの中央に置かれた、彼女のためにクリエイトされたクチュール・ピース! この春からは、バレンシアガのデムナ・ヴァザリアが彼女のためにデザインし、昨年のカンヌ国際映画祭で彼女が着用したデニムのアンサンブルだ。アップサイクルされたデニムから仕立てられたロングスカートと構築的なジャケットの組み合わせで、そこにはイザベル・ユペールにふさわしい大胆さとエレガンスが秘められている。滞在中、何度も眺めてしまう魅力ある貴重な一着だ。

ウォルター・ノルの家具を並べたサロンに、バレンシアガのクチュールピースを配置。photography: Mariko Omura

このスイートルーム。扉を開くと、目の前に彼女のモノクロ写真が飾られ、右の壁には『ピアニスト』のシナリオがケースに納められて、そして奥のリビングルームに目を向けるとバレンシアガのドレス……とイザベルのアパルトマンにお邪魔したような印象を受ける。ところが、不思議なことに中で時間を過ごすうち、まるで自分のアパルトマンにいるような気がしてくるのだ。居住性の良さゆえだろうか。パラスホテルのスイートルームにありがちなゴールドが輝くインテリアではなく落ち着きのある色調、ずっしり重い装飾過多の家具の代わりにウォルター・ノルの家具とモダンだったり……まさに左岸らしさが香る空間。ラスパイユ大通りに面しているものの、車道の雑音はシャットアウトされてとても静か。リビングルームと反対側に位置するベッドルームはさらに防音が良いのだろうか。聞こえるはずはないけれど、”静けさ”が聞こえてくるよう。

左: エントランスからリビングルームを眺める。エントランスの向かいがドレッシングルーム、その左隣にバスルーム。右: テラスからの眺め。外から見上げるブドウの装飾が手に取れるよう。photography: Mariko Omura
大理石でまとめられた明るいバスルーム。左が有名な大理石のバスルーム。2018年の大改装時には全ての部屋のバスタブの重みが支えられるよう、ホテルの土台から工事が始められたそうだ。

15時のチェックインから12時のチェックアウトまで、おこもり滞在がこのスイートルームを満喫するのに理想だろう。その間に73平米の空間と20平米のテラスを存分に味わうのだ。ベッドの寝心地はよく、さらに枕は5種から選べる。バスルームでは、2018年の改装時に話題を呼んだ大理石の1ブロックをくり抜いて仕上げたバスタブでリラックスの時間を。このスイートルームのあるフロアには地下1階のスパへの直行エレベーターが備えられている。思い立ったらバスローブとスリッパで部屋から地下へとさっと向かえる気軽さはとても貴重では?  滞在するチャンスがない場合、フードとドリンクを求めて、1階のブラッスリーLutetia、オールデイダイニングLe Saint-Germain、バーJoséphineを利用してホテルが守る左岸のエスプリを味わってみよう。

地下のスパAkasha。トリートメントは予約制だが、プール、ジャクジー、ハマムなど7時から22時まで宿泊客は自由に利用できる。photography ©Mathieu Fiol
1910年の開業から常にこの場を占めているブラッスリーの「Lutetia」。通りに面しても入り口があるので入りやすい。2018年の大改装により、中2階が創業時代のように再び設けられた。ブラッスリーは朝食時間からオープンし、ランチタイムが始まったら閉店まで何時でも食事が取れる。もちろんティータイムの利用にも。
左:朝食から、ふわふわパンケーキ。右:ブラッスリーは魚介でも有名。海の幸の盛り合わせとワインというランチやディナーも楽しめる。photography: Mariko Omura
オールデイダイニングの「Le Saint-Germain」。ファブリス・イベールのカラフルなステンドグラスから差し込む光が美しい。アフタヌーンティーが人気。
バー「Joséphine Baker」。サンジェルマンとこのホテルにゆかりの深いジョゼフィン・ベーカーはスイートルームだけでなく、バーにも名前が付けられている。そして彼女の名前をつけたカクテルには彼女がスパイだったことに由来して、006という名前が。
左:2018年の大改装時、6層のペンキの下から姿を現し、1万8000時間をかけて修復したワイン製造をテーマにしたフレスコ画が見ものだ。右:パリのパラス・ホテルの中でも最大というバー。カクテルを味わいに寄ってみよう。photography: 左 Mariko Omura

Mandarin Oriental Lutetia, Paris

45 boulevard Raspail, Paris, 75006, France

https://www.mandarinoriental.com/ja/paris/lutetia

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  • editing:Mariko Omura