文・写真/松本幸子(在バンコクコーディネーター)
「世界で最もおいしいストリートフードが食べられる都市」として米CNNテレビに選出されたことのある首都のバンコク。早朝から深夜までさまざまな屋台が現れ、都民の胃袋を支えている。朝の通勤ラッシュ時は、お粥や豆乳などの朝食を出したり、ランチ用にパックされたご飯とおかずのお弁当などが人気で、昼どきにはまた新しい屋台が出現する。ランチのピークが過ぎた15時ごろから片づけが始まり、今度は夜の屋台が準備を始める。バーミー麺やカオマンガイなどを終日営業で出す店や、フルーツやスイーツ、飲み物など専門の屋台も。一人前だとスーパーで買い物をして作るよりも安いので、私もよく利用する。
朝の屋台でよく見かける揚げパン屋。5個で20~30バーツ(約¥70~¥100)ほど。
昼から夜まで営業するおかず屋台。袋に入れて持ち帰ったり、その場で好きなおかずをご飯にかけて食べたりする。だいたいご飯に2品を添えて、50~60バーツ(約¥180~¥220)ほど。
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しかし、以前から問題視されている側面もある。たとえば、食材を持ち帰る際のビニール袋がその場で食べた後もゴミ箱に捨てられずに通りに散乱していたり、食べ残しを下水道に捨てる人がいるので、不衛生で暑いタイでは悪臭が漂うことも。屋台は汚いというイメージを払拭できない理由だ。また、そもそも公共の歩道での営業は違反にもかかわらず、みな堂々と営業していたのも問題だった。
2014年、規制が発令された直後のスクゥンビット地区のトンロー通りは、歩道から屋台が消えていた。
その屋台が、2014年の軍事クーデターで現政権に変わったあと、状況が一変。「社会を整理する」ことを掲げる政権が違法なものを排除していく方針を打ち出したことで、バンコク都は交通の妨げになるものや街の美化を理由に認可地区以外での屋台を撤退させる政策を実施。そして2017年4月から、スクゥンヴィット通りやシーロム通りといった目貫き通りでは屋台の撤去が始まった。それに伴って現れたのが、指定区域では屋台の出店、物販は禁止という標識。ほかに、出店可能な時間帯がある通りには屋台の絵とともに時間帯が記載された青い標識が出現。また、試験的に、期間限定かつある時間帯のみ出店できる地域には緑色の標識がたてられた。
日中は人通りが多いオフィス街では、会社の就業時間終了後の19時~深夜2時の時間帯であれば営業できるという標識を見かける。
屋台の出店状況を把握するために期間限定で出店を許可したケース。ラチャティビィ通りでは、5月17日から31日に限り10時~24時まで営業できる。
取り締まりも強化され、警官の姿を街のいたる所で目にすることになった。確かに歩道は歩きやすくなったが、それまでのタイのイメージとは異なり、カラフルなパラソルがなくなった街はなんとなく寂しい姿になってしまったものだ。
ところがこの厳しい規制に対しては屋台主や市民の反発も強く、外国人観光客が多いタイでは立派な観光資源でもあったため、店舗の軒先や路地裏、また目貫き通りでも警官たちは見て見ぬふりなのか、最近また屋台が出現するようになってきており、完全に撤去にはいたってない。
規制が厳しくなったあとはゴミも通りに捨てずに、きちんと自分たちで処理をする屋台も多くなってきた。
photos et texte:SACHIKO MATSUMOTO (CHICO DESIGN)