文/河内秀子(在ベルリンライター)
初代プロイセン王、フリードリヒ1世の妻であるゾフィ ・シャルロッテが、詩人や音楽家、画家たちを集めて過ごす夏の離宮として17世紀末に造らせたシャルロッテンブルク城。フランスをお手本にした豪華なバロック様式の庭園は、ベルリンでも随一のものと評判が高い。しかし総面積約55ヘクタールにも及ぶ敷地の管理には、大変な労力がかかる。その強力な助っ人として、2018年からこの宮廷の庭園で“働いている“のが、ゴットランドシープだ。

シャルロッテンブルク宮殿を歩く羊と羊飼い。ゴットランドシープは強く元気な羊の種類で、特に芝の手入れに適しているのだそうだ。photo: SPSG
シャルロッテンブルク城の庭園では、現在14人の庭師が働いている。「55ヘクタールといえば、サッカースタジアム90個分の広さです! 毎年約3万の球根を植えますし、庭園の中には5800本のオークやマロニエ、楓やブナといった木もあります。仕事は少なくありません」というのは、チーフガーデナーを務めるゲルハルト・クラインさんだ。彼は、庭園内に羊を放牧することで芝を手入れするというアイデアを思いつき、2018年から毎年、春から秋にかけ、近隣に住む羊飼いに依頼して40〜70頭ほどのゴットランドシープを呼んでいる。ゴットランドシープは強く元気な羊の種類で、特に芝の手入れに適しているのだそうだ。羊たちは11月まで庭園で暮らすが、その間、毎朝羊飼いが体調をチェックに訪れ、庭師と打ち合わせをして、必要ならば羊の数を増やしたり減らしたりすることもある。

シャルロッテンブルク宮殿の広大なバロック庭園。ヴェルサイユ宮殿の庭園などを手がけたフランスの宮廷庭師アンドレ・ル・ノートルの弟子が作った。photo: Jürgen Hohmuth / SPSG
「これまでは、わたしたち庭師が芝刈り機で芝を刈っていましたが、刈った芝がゴミになります。できる限りコンポストにして堆肥にリサイクルしていますが、量が多いので廃棄せざるを得ないことも多い。でも羊を放牧すれば、ゴミが出る代わりに、羊が育つ! 庭園に暮らす虫や鳥などへの環境への影響を考えても、芝刈り機より羊の方が圧倒的に利点があるのです」とクラインさんは言う。羊が来てからこの庭園を訪れる地元の人々も増えたとか。ゆったりと草を食む羊の姿に、ベルリン子たちも癒されているようだ。
texte:HIDEKO KAWACHI