やりがいを求めて転職するも、元の仕事に戻る人たち。

Society & Business 2022.09.02

自分が社会に役立っているという実感を求めて転職したものの、元の職場に戻った人たち。幻滅を味わった後、結局、それまでの生活や収入、快適さの方を取った——フランスのマダム・フィガロが、彼らの証言を集めた。

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まったく違う職種に転職したものの、これまでの生活や快適さを取り戻したくなって引き返す人もいる。photography : Getty Images

2年前、39歳のジェレミーは、家具職人になるために大手企業セールスエンジニアの職を手放した。それまで「一日中パソコンの前に座っていた」彼は、オフィス生活から手仕事に転向するという考えに心を引かれたのだ。「自分の労働の成果が目の前で形になっていくのを見るという満足感。たとえば、カップルのために階段を作ったり、レストランのために家具を作ったり……。そうしたすべてのことに惹かれていた」と彼は言う。

研修を終え、彼はフランス中部で仕事を見つけた。「何もかも素晴らしいハネムーン」のようだったという最初の数カ月が過ぎ、彼は幻想から覚める。仕事量が多すぎる、余暇のための時間がない、そして収入の減少。今年5月、彼はビジネス街デファンス地区に舞い戻った。「いまは、何ごとにおいても意味が求められる。余暇も、仕事も、何もかも。でも結局、充実した生活が社会から押し付けられたものになってしまったら、元も子もないのでは? 夢中になれる仕事ではないけれど、ややこしいことを考える必要がなくて、バカンスを楽しんだり、子どもたちと過ごす時間も持てる。その方が幸せになれるなら、なぜ罪悪感を感じる必要がある?」と彼は問う。

ジェレミーのケースは特殊ではない。ファッションジャーナリストがパティシエに転向し大成功を収めた、バーンアウト寸前のコンピュータ技術者が養蜂家として生き返る……。近年、おとぎ話のように誇張された夢のような転職話が巷に溢れている。調査会社BVAの最新の調査によると、フランスでは社会人の半数近く(48%)が、実行に移してはいないながらも、異業種転職を検討したことがあると回答している。変化を求める気運はコロナ禍によってさらに高まった。パンデミック以後、社会人の5人に1人(18%)がワークプランの見直しを考えるようになったと答えている。

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意義、それは新しい成功のスタンダード

転職を検討したことがあると回答した社会人のうち58%が、意義のある仕事をしたいという理由を主な動機として挙げている。意義は成功の新しいスタンダートと見なされているのだ。『転職を成功させる』(1)の著書がある、チェンジマネジメント認定コーチのフローランス・メイエールによれば、これは一見いい考えのようだが、そうではないという。「仕事に求める“意義”の捉え方を間違えることがあります。いま、好条件の手当を受給して退職し、自分の好きなことを仕事にしようという上級管理職がたくさんいます。往往にして、彼らはそれでは生活していけない、あるいは、特に時間の面で、非常に高いつけを払わなければならないと気づきます」と彼女は話す。

そんなわけで、転職したものの、思い直して引き返す人もいる。ならば、正しい転職理由とは一体どんなものなのだろう?「それは“価値感の対立”です」とコーチは言う。「つまり、自分が勤めている会社の価値観にズレを感じること。これは、仕事が退屈だとか、自分が正当に評価されていないという不満よりも深刻です」。彼女はまた、異業種転職のような大転換をする前に、同じ業種で会社を変えることから始める方がいいとアドバイスする。最初の一歩は無理のない範囲で、というわけだ。

37歳のエロディも、こんなアドバイスをもらいたかったと言うかもしれない。彼女は広報担当から小学校教師に転職した後、広報PR責任者に再転職した。「2020年の最初のロックダウンのときに一時休業を命じられ、自分の仕事は世の中に役立つものではないのだ、と動揺しました。社会にインパクトを与える仕事をしたいと思いました。人の役に立ちたかったのです」と彼女は語る。

彼女は小学校の臨時採用教員に応募した。フランスの臨時採用教員は教員免許を取得していなくても学校で働くことができる(正規教員ではなく、ポストに空きが出たときや、休職中の教職員の代替として任用される)。最初の年はオー=ドゥ=セーヌ県の代用教員として採用された。ある日は小学2年生のクラスを担当し、その翌日は幼稚園。研修もなく、「よくて穴埋めか、悪くいえば前線に送られた捨て駒になったよう」な気分だった。

2年目は4年生を受け持った。前年よりは落ち着いた環境だったが、大変さに変わりなかった。「学校の仕事に忙殺されて、自分を見失ってしまいました。週に75時間働いていました。休み時間の監督や会議もあります。休憩を取る時間さえなかった。何度も膀胱炎にかかりました。時間がなくて友達にも会えなかった」と彼女は振り返る。そしてこう結論する。「教師は神聖な仕事です。エゴイストかもしれないけれど、私が望んでいるのは生活の質です。昼も夜も仕事のことを考えているのはいや。精神的に解放される時間が欲しい。仕事にすべてを捧げるという生き方は望んでいません」

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収入不足と将来への不安

転職支援ポータルサイト「ヌーヴェル・ヴィ・プロフェッショネル」の2019年の調査によれば、異業種転職をした社会人のうち2%が、エロディと同じく、期待したような成功を得られなかったと回答している。彼らが挙げる理由の第1位は収入不足で、全体の38%を占める。2位以下は、不安定さ(将来への不安が29%)、仕事とプライベートのバランスの悪さ(13%)、新しい仕事のペースがあまりにきつい(6%)と続く。「自省しない限り、問題はついて回ります。仕事の虫は、どんな仕事を選んでも自分を酷使し続けるでしょう」とメイエールは注意を促す。

転職して自分を再発見したエネルギッシュな管理職のふたりは、幻滅して打ちのめされるどころか、後悔はしていないようだ。彼らはただ単に悪い夢を追っていたことに気づいたのだ。「教訓が得られれば、決して失敗ではありません。やってみる価値はあります。返済に何年もかかる借金を抱えない限りは」とメイエールは言う。

それに、こうして実際に行動に移さなければ、「もし」という思いがいつまでもつきまとっていただろう。いまエロディはクルーズ会社のPR部門責任者を務めている。「人の役に立ちたい」と思った彼女は、バカンスの一部をボランティア休暇に充てて社会活動に参加している。ジェレミーは再びスーツを着てラ・デファンスに通っているが、彼も郊外に一軒家を購入した。本人が「廃墟」というその家を、彼は自分の手でリノベーションしている。

(1)Florence Meyer著『Je réussis ma transition professionnelle』Trédaniel出版刊。

text : Caroline Lumet (madame.lefigaro.fr)

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