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西畠清順がガイドする、ディオール バンブー パビリオンの日本庭園。

Culture

ディオールによる特別ワークショップの第2回が、5月25日(月)夜、抽選で選ばれたフィガロジャポンの読者を迎え代官山のディオール バンブー パビリオンにて開催された。この夜のゲストは、プラントハンターの西畠清順。メゾンが誇る日本庭園で、創り手本人が案内役を務める贅沢なガーデンツアーが実現した。

ディオール バンブー パビリオンのエントランスからブティックまでを結ぶ、日本庭園。

メゾンの創設者、ムッシュ ディオールを語る上で欠かせないのが「ガーデン」。幼少期を過ごしたノルマンディーの自邸で、母が丹精込めたバラ咲き乱れる庭から得たインスピレーションが、数々のフラワーモチーフのドレスへと結実した。このディオール バンブー パビリオンはその精神を受け継ぎ、洋と和、ディオールの歴史と日本の美意識が交差する空間として誕生。そして、その庭のガーデンディレクションを手がけたのが、世界各地で活躍する西畠だ。

プラントハンターの西畠清順により、ディオール バンブー パビリオンの庭園が設計された。

「生活の9割は旅で、毎日転々と移動しています」と、まずは西畠の自己紹介からイベントがスタート。今回のコラボレーションはディオールの担当者からのDMがきっかけだったとか。以前ともに手がけたプロジェクトで「いいものを作るために徹底的に議論したことを彼は覚えていてくれたんだと思います」と振り返る。約1800平米を超える壮大な庭の設計をほぼ一任された時は「かなりの無茶ぶりだと思った」と笑うが、「これまでで最もやりがいのある仕事になりました」と話す。

参加者たちを庭へ案内しながら、西畠はまず設計の考え方を語った。ディオールから与えられたテーマはただひとつ、「日本庭園」。「そのお題に沿って、ムッシュ ディオールが僕と一緒にここで庭を作るなら、日本でどんな庭にするだろうと妄想しながら設計しました」。参加者から設計の進め方を問われると、「デザインファーストにはしない。まず『ここはどうあるべきか、どう過ごしてほしいか』を考え、そこから方向性が決まり、デザインになり、最後に植物や石が決まる」と返答。「このテラスも、外に出てもらえるなら何がふさわしいかと考えたら枯山水が浮かんだ。地形の高低差も活かせると分かって、設計が固まっていきました」

参加者との質疑応答も交えながら、ガーデンツアーは行われた。

カフェ ディオールのテラス席に面する枯山水のエリアへ移ると、静謐な石と砂利だけで構成された景色が広がる。枯山水は花が咲くものを植えず、石と砂利と苔、そして常緑樹のみで構成される。「日本人のトキワ思想——永遠への憧れが根底にあります。石は変わらない。季節の色や誘惑を取り払った世界、と思ってもらっていい」。伝統的に見えて実はたった500年の歴史で、室町時代に生まれた背景には現実的な事情もある。「当時は争いが絶えず、大名もお金がなかった。水を引けないなら、砂利で水を表現する——それが枯山水の始まりです」。砂紋は流水を、一説には天の川を象徴し、庭師やお坊さんが瞑想に近い心持ちで定期的に描く。「心を統一するための行為で、その日の庭師の心がそのまま出る」

枯山水の砂紋(さもん)の引き直しを実践してみせる西畠。

「このお庭の植物は日本のものが中心ですか」という参加者からの問いには、「日本庭園はすべて日本の木にしています。同じ木でも、海外に渡ると国内の数倍、場所によっては十数倍の値がつくこともある。日本人よりも海外の人のほうが、日本の木をリスペクトしている。だからこそ、日本の良いものをここで伝えたいんです」と返した。蘇鉄は奄美大島から、石は奄美と新島(東京都)のものを揃え、「遠景には南の島の植物や石、近景には東京都の石」という配置にも意図がある。「枯山水の方向を向くと凛とした日本の世界が広がり、振り返るとカフェ内の花が見える設計にしました」と西畠。この風景を堪能した参加者は、「ディオールのインターナショナルなイメージの中に、ところどころ日本の技術や芸術が活かされていてとても新鮮だった」と感想を語っている。

蘇鉄は古くから日本の庭園で親しまれてきた植物だ。

夕刻の光の中、一行はメインの池泉回遊式庭園へ。「植木の世界では夕刻を『大禍時(おおまがとき)』と呼びます。植物がいちばん美しく見える時間。だから夕方に仕入れをしてはいけない。良く見えすぎて判断が狂うから」と西畠は笑う。池の設計で彼が大切にしたのは「心理線」だ。「目線より上に見どころを作るか、下の池に注目させることで、周りのビル群を忘れて非日常に来たと感じてもらえる。庭を作る時は、心理線なんです」。池畔に据えられた礎石は、何百年も寺の柱を支えてきた歴史の石。「縁起のいいものを次の場所で生かす。こういう歴史の素材を循環させることも、僕たちの仕事です」。エントランス脇の松は、淡路島の歴史的な屋敷に生えていた木で樹齢500年超。根回しに3年をかけて移植した、ディオール バンブー パビリオンを象徴する1本だ。「皆さんをお迎えするこの木が、このパビリオンで最も価値のある木です」。参加者たちはその言葉に、改めて足を止めて松を見上げる。

心理線について説明しながら、池泉回遊式庭園の味わい方を丁寧に伝える。
庭園に植えられた梅は、初夏を迎え実が黄色く熟していた。

ツアーの終盤には、剪定の実演も。「植物は花を咲かせた後、受粉・結実・種付けと次の世代の準備に体力を使う。古い枝ほど美しい花をつけるのに、植物は自分よりも次世代の枝を優先しようとする。だからプロは、木全体を元気にするために古い枝を整えていく。これが日本人が長年やってきた、植物との付き合い方です。そして庭に完成はない。生き物は変わり続けるし、来月来たらもう違う庭になっている。でも、そういうものなんです」。イベントの締めくくりにゲストたちにこの庭に対する思いを語った西畠。「日本庭園は建物があって初めて成り立つもの。このバンブー パビリオンがあるから、この庭が庭として存在できる。ムッシュ ディオールは、過ごす空間を作ることと、植物を育てることからスタートしたということを、感じていただけたらうれしいです」

ハサミを手に、ツツジの枝の剪定を実演。

庭づくりや植物の話を聞いているだけなのに「自分の感覚が少しずつ整っていくような、不思議で心地よい時間だった」、「普遍的な美しさと変化のある美しさ、その両面を愛でているブランドの姿勢が印象的だった」など、参加者たちの感想からも実り多い時間だったことが伝わってくる夜となった。

次回は、クリエイターのTAKT PROJECT代表・吉泉聡をゲストに迎え、コースターの草木染めワークショップの開催が予定されている。

ディオール バンブー パビリオン
東京都渋谷区猿楽町8-1
営)11:00〜19:00
03-6455-2286

  • photography: Aya Kawachi
  • text: Tomoko Kawakami