リニューアルしたセゾン現代美術館を訪問。一度は訪れるべき軽井沢のアート聖地。

Lifestyle

いまや数多くの美術館が点在し、アートを巡ることも旅の目的となった軽井沢。その文化的な風景に、いち早く現代美術という新風を吹き込んだのが、1981年に開館したセゾン現代美術館だ。リニューアルのため約2年間の休館を経て、今年6月に再始動。その新たな姿をエディターがレポートする。

五感を取り戻すように歩く森。

軽井沢駅から車で約20分。次第に濃くなる緑を窓の外に感じながら、浅間山の裾野へと向かう。賑やかな観光エリアから離れていくにつれ、あたりはひんやりとした静けさに包まれていく。

建物へ続く遊歩道を歩いていくと、小川に架かる鉄橋や、ふかふかの苔に覆われた丘、生命力を湛えた植生が現れる。この巨大庭園は、1981年に彫刻家・若林奮によって手がけられた、いわばひとつの環境作品なのだ。45年の月日を経たいまも、時間や季節を取り込みながら、生きた作品として存在し続けていることに感動する。

やがて木々の向こうから、数寄屋建築を思わせる低層の館が姿を現した。背後にそびえる浅間山や周囲の森と調和しながらも、凜とした風格をたたえている。

写真:瀧本幹也

設計者は、黒川紀章らとともに建築運動「メタボリズム」を牽引した建築家、菊竹清訓。水平に広がる端正な構成や、自然と建築を切り離さない思想は、いま見ても古びることがなく、時代を超越した美しさを放っている。この建築の価値を受け継ぎながら、館内はどのように生まれ変わったのか。その変化を確かめるべく、館内へと足を進めた。

過去を塗り替えず、未来へ。

まずエントランスに入って印象的だったのは、リニューアルを主張する新しさが、前面に押し出されていないことだ。菊竹建築による直線的で明快な空間構成はできる限り残され、そのうえで、敷地に広がるランドスケープを建築内部へと連続させ、外と中の境界を緩やかに溶かしている。

今回、エントランス、カフェ、ミュージアムショップ、回廊の改修設計を担当したのは、建築家・工藤桃子率いるMMA Inc.。目指したのは、古い建築を新しいデザインで塗り替えることではない。建築、庭園、そして館が受け継いできたコレクションを改めて読み解き、それぞれの魅力を次の時代へ手渡せる環境を整えることだったという。かつて光源が直接見えていたエントランスの照明は、光がやさしく回り込むような間接照明へと変化した。

さまざまな芸術表現の舞台となってきたアートフォーラムでは壁の一部を取り払い、隣接する部屋やその先に広がる庭園とのつながりを強めた。スケルトンにして現れた柱に描かれた“通り芯”の文字に経年を感じる。一方で「ART FORUM」の文字が刻まれた天井の梁は、いまもデザインの一部として残されている。

またミュージアムショップでは、既存の石や木といった自然素材の質感は生かしながら、壁には土を用いた左官仕上げを採用。空間の隅では、三角のモチーフの台座がモダンな個性をもたらしていた。

館内を歩いていると、新しくなったはずなのに、以前からそうであったような心地よさも感じた。この場所を一過性の文化遺産としてではなく、新しい表現や対話が生まれる場として育てていく。改修の本質は、そんなところにあるようだ。

余韻まで味わう、新しいカフェ。

鑑賞した後は、リニューアルされた館内のカフェへ。大きな窓の外には、深い緑に染まった庭園の眺めが広がる。反射を抑えた落ち着きのある内装と、泡入りアクリルを通して光が落ちる照明がやわらかい空気感を醸す空間は、お茶をしながら鑑賞の余韻を深めるのにぴったりだ。

写真:加藤健

ここで味わえる有機茶の中井侍銘茶と干菓子も印象的。菓子を載せるのは、「お重」を思わせるガラスの器。ガラス作家、ピーター・アイビーが美術館のために制作した工芸作品で、厚みのあるガラスに宿る、淡く透明な色彩が美しい。光を受けるたびに表情を変え、器そのものにも思わず見入ってしまう。

軽井沢の奥行きに触れて。

軽井沢には、ショッピングやグルメ、ホテル、温泉など、旅の目的になり得る場所が点在する。しかし、この土地の魅力を、洗練された避暑地というイメージだけで捉えるなら、本当の魅力を見落としてしまうような気もする。

浅間山の裾野に広がる自然と呼応する、ゆるやかな傾斜の回廊。長い時間をかけて育った森。この地に集った多くの表現者たち。セゾン現代美術館を歩くことは、軽井沢に積み重なった時間と文化をたどることでもある。美術の知識がなくても、時間の流れを緩めにくるだけでも、ぜひここに一度訪れてみてほしい。外へ出る頃には、自然と呼応する軽井沢の風土を少し身近に感じるはずだから。

セゾン現代美術館
住所:長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ケ沢2140
0267-46-2020
https://smma.or.jp/

セゾン現代美術館コレクション展「ソコからみたキセキ」
2026年8月23日(日)まで開催中

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
ファッション誌・旅行誌・ライフスタイル誌の編集職に携わったのち、現在はフィガロのエディターに。学生時代、フランス・オスゴールとビアリッツでサーフィンと美食、おしゃれにどっぷり浸った日々が忘れられず、「老後にもう一度!」と甘い夢を抱きながら、今日も都会の荒波に翻弄される。