サニーヴィンテージ・馬渕陽子さん宅。極楽鳥花にかすみ草の個性を重ねて。【花々の飾り方 vol.2】

Lifestyle

花を飾るのは、誕生日やホームパーティの日だけではない。「特別な予定はないけれど、花を飾ろう」。そんな小さな選択が、いつもの景色を少しだけ違って見せてくれる。パリでの暮らしを経て感性を育んだフローリスト・岡本美穂さんが、アールドゥヴィーヴルのある人の家を訪ね、その住まいだからこそ映える花の飾り方を提案する。

第2回は、イギリスやフランスを中心に買い付けを行うヴィンテージショップ「sunny vintage(サニーヴィンテージ)」のオーナー、馬渕陽子さんの自宅を訪ねた。

現在の住まいで暮らし始めて約7年。置かれている家具のほとんどは、馬渕さんが少しずつ集めてきたヴィンテージだ。部屋を豊かに彩っているアート作品やテキスタイル、ラグも、海外での買い付けの際に選んだものだという。部屋には、ヨーロッパのものだけでなくアフリカの生地やタイの手織り布もアートピースのように飾られており、空間にやわらかさと個性を添えている。

「自然と古いものに目が向くんです。小さい頃に実家で見ていたものや、使っていた家具の記憶が残っているからかもしれません」と馬渕さん。

年代や国、テイストをひとつに揃えるのではなく、心を動かされたものを自分の感覚で重ねていく。そんな馬渕さんの住まいには、花をもっと自由に楽しむためのヒントがある。

セオリーを気にせず、意外性を楽しむ

馬渕さんのインテリアや装いを見て、岡本さんが惹かれたのは、異なる時代や文化、テイストを軽やかに重ねる感覚だった。古いヴィンテージの洋服に現代的なジュエリーをコーディネートするように、一見相反するものを合わせることで、思いがけない魅力が生まれる。

「今回は、馬渕さんから感じた“重ねることの楽しさ”を、花でも表現したいと思いました。異なる個性が出合ったときに生まれる、ハッとするような驚きを取り入れたかったんです」(岡本)

そこで岡本さんが思い出したのが、修行時代のパリで目にした花の楽しみ方だ。花の生け方にはもちろんセオリーがある。けれどパリの人々は、その中にきれいに収めることよりも、自分の感覚を頼りに花を選び、ときには予想外の取り合わせを楽しんでいた。岡本さんは、現地でそんな自由さに触れたという。

大胆な模様が印象的な、作家・阿部有希さんの花器に花を生けて

「整いすぎることなく、その人らしさを感じられてすごく魅力的なんです。自分がいいと思うものを、素直に組み合わせているんですよね。馬渕さんの装いやインテリアからも、飾らない感性を楽しんでいる雰囲気を感じました」(岡本)

たとえば、可憐な花に力強い花を合わせてみる。1本だけ思い切って高くしてみる。花器と花の色を揃えず、好きなもの同士を組み合わせてみる。いつもの自分なら選ばない組み合わせや、少しアンバランスに感じる生け方を試すことで、花を飾る楽しさはもっと広がっていく。

力強い花に、あえてフェミニンなかすみ草を

玄関から廊下を抜け、真っ先に目に飛び込んでくるダイニングテーブルが、部屋の印象を決めている馬渕さん宅。家の第一印象を左右するこの場所に選んだのは、伸びやかなモクマオウと鮮やかな極楽鳥花、そして、その間をふわりと漂うように生けた白いかすみ草だ。

極楽鳥花の力強くシャープな姿に対し、かすみ草は可憐でフェミニン。通常なら似た印象の花同士を合わせるところを、岡本さんはあえて正反対の個性を響き合わせた。

台湾の少数民族にインスピレーションを得て作られている、Kamaro’an(カマロアン)の壺に

「かすみ草は、昔から花屋でよく見かける定番の花。どこか懐かしい印象を抱く人もいるかもしれません。今回は、そんな少しレトロでフェミニンなかすみ草に、夏らしい生命力を感じさせる花を合わせ、これまでとは異なる表情を引き出しました」(岡本)

ヴィンテージ家具を中心とした落ち着きのある空間に、南国を思わせる極楽鳥花の色と、かすみ草のやわらかな白が加わる。馴染ませすぎないからこそ生まれる小さな違和感が、部屋の景色を新鮮に見せていた。


「個性派」同士で、予想外の調和をつくる

もうひとつのアレンジメントに使ったのは、紫の胡蝶蘭、黄色いハルシャギク、ピンク色の葉を持つカラジウム、食虫植物のサラセニア、そして艶やかなアンスリウム。素朴な野草からエキゾチックな食虫植物まで、ひとつひとつが存在感を放つ、まさに“個性派揃い”の取り合わせだ。

「まず、ベースに選んだのは胡蝶蘭。墨のような模様の器に、紫のインクがにじんだような色合いがとても似合うと思いました。あとは、遊び心とバランスを意識しながら調整しています」(岡本)

形も色も異なる植物をいくつも組み合わせているのに、不思議と散漫に見えない。個性を揃えるのではなく、異なるものを思い切って重ねることで、予想外の調和が生まれている。

花の高さにも意外性を。遊び心で気分が上がる寝室に

そのまま置いておいても絵になる、セラミックアーティスト・AYA COURVOISIERさんの花器

リビングで個性の異なる植物を大胆に重ねた一方、リラックスしたい寝室には、アナベルとオンシジウムを使った色数を抑えたアレンジメントを。岡本さんは、花瓶の口元ぎりぎりまで短く切ったものと、そこから大きく伸びるように長く残したものを組み合わせた。

「寝室はリラックスしたい場所なので、あまり要素を増やさず、落ち着ける色味にしました。ただ、同じ高さでこんもりとまとめるだけでは単調に見えてしまう。そこで、茎の長さを大胆に変えて、シンプルな中に動きをつけています」(岡本)

花を飾るとき、無意識のうちに茎を同じくらいの長さに揃えてしまうことも多い。慣れ親しんだ方法から少し離れ、長短の差を思い切ってつけてみる。バランスを少し崩すことで、落ち着いたアレンジメントにも遊び心が生まれるそうだ。

セオリーを唯一の正解とせず、見慣れた組み合わせやバランスから少し離れてみる。感性を頼りに選んだ花が生む意外性は、いつもの部屋から、まだ見たことのない表情を引き出してくれる。

Profile
岡本美穂/Miho Okamoto

フローリスト。独立後、パリで1年間生活。神宮前2丁目にアトリエを構えて来年で10年。花や植物が持つ独特の美しさ、個性を引き出す表現を得意とし、フラワーギフトの制作から展示会の装花、ディスプレイ、雑誌や広告撮影のスタイリングなどを手がける。
Instagram @mihoflowers


馬渕陽子/Yoko Mabuchi

ヴィンテージショップ「sunny vintage」オーナー。1960〜70年代を中心に、現代のワードローブにも取り入れやすい服を、自身の審美眼で買い付けている。当時ならではの素材や縫製、デザインに価値を見出し、時代を超えて受け継がれるヴィンテージの魅力を伝える。また、天然素材を用いたブランド「Bliss」を主宰し、草木染めなど日本の手仕事を取り入れた服づくりにも取り組んでいる。
Instagram @bliss_tokyo

  • photography: Mitsugu Uehara
  • Edit & Text: Megumi Saito