止まらない「変身願望」の先に待つものとは? Netflix「ダウンタイム」が描く美容整形というサスペンス。
Netflixシリーズ「ダウンタイム」あらすじ
●優秀な形成外科医・沼田文(松岡茉優)は親の借金、担当したインフルエンサーの患者とのトラブルなどをきっかけに、大学病院から転職。その先は業界最大手の遠山美容外科クリニック。院長の遠山凜(仲里依紗)は、文の類いまれな技術を見抜いていた。
●凜にはいくつかの秘密があった。世襲制に導かれるままのクリニック経営に対するプレッシャー、手術ミスにより失明させてしまった患者、そしてイップス。
●凜が日々、奮闘する側で文はクリニックの悪事を世間へ暴露しようとするが、すべて不発に終わる。同時にさまざまな患者の機微、凛の経営に対する強い意志に触れて、美容整形の意義についても考えるようになり、凛と父の新(渡部篤郎)の親子関係にある違和感にも気付く。
●同居する家族には遠山クリニックに勤務していることを隠していた文。特に母は美容整形に異様な嫌悪感を示しているのだが、その背景にある真相を文は少しずつ知っていく。
美容整形はなかなか怖いサスペンスだ。
おもしろいドラマを観ると、高確率でドラマラヴァーの嗅球が覚醒する。Netflixシリーズ「ダウンタイム」の視聴後には、これはきっと話題作になる匂いが漂ってきた。

本作は美容整形医療をテーマにした全8話のサスペンスだ。注目度も高まり、距離感も縮まっている美容整形をテーマにした作品は、これまでにもいくつかリリースされている。映画『ヘルタースケルター』(2012年)、ドラマ「FACE MAKER」(2010年、読売テレビ・日本テレビ系)など、いずれも最近の整形ブーム以前の作品でクライアント側が物語の骨子になっている。Netflixシリーズ「マスクガール」(2023年)など、多くの整形に関する作品を制作している韓国とは違って、日本はこれまで整形関連の作品にはそんなに積極的ではなかった。その背景には高額料金のため、セレブリティーが嗜むものという因果があったはずだ。
ところが最近はスマホで理想の容姿を探して、短時間で自分のコンプレックスを潰していく身近な変身材料となり、10代にもこの情報は浸透している。劇中でも渋谷のスクランブル交差点に映し出されるCMで、凛がこう言っていた。
「新しい自分はここから始まる。理想から本物へ生まれ変わることができる。神の手があなたを変える」
8エピソードには声優オーディションを勝ち抜きたい女性、整形の虜になってしまった接客業、バズりたい小学生、人生の最期に美しくなりたいと願う老婆と、さまざまなクライアントが手術費用を用意していた。美容整形が身近になったとはいえ、手術費用も大幅に下がったわけではない。でも変身願望の止まらない(主に)女性たちは、どこかで費用を捻出してくる。これがいちばん怖いと私は思う。
医者たちの闇に入ったメス。
そして関わる医者たちは口を揃えてこう言う。保健診療ではないので「儲かる」と。これは文が美容整形に対して感じていた不信感だ。おそらく医療従事者であれば、同じ思いを頭によぎらせているのではないか。本来であれば人命を救い、生活を守るための医師免許を営利目的を最優先にして利用しているのは、闇以外の何者でもない。

その闇を表現していたのが、遠山美容外科クリニックの副院長・小宮ルイ(間宮祥太朗)だった。瞳にはカラコン、唇は妙に明るく口角が上がっていて、メッシュ入りの毛先が遊んでいるヘアスタイル。原宿の行列店を彷彿させるアクセサリーをつけて、動画配信でライブをする様子はまさに新宿のホスト! 先日、所用があって数年ぶりに歌舞伎町に立ち寄ったけれど、ルイのようなビジュアルの男性が看板にあふれていた。
「美容外科は客を満足させてナンボなんだから」
ルイは自分の仕事をこう評する。とにかく、胡散臭い。ほかにも凛はVIP顧客限定のパーティで最高級ボトックス注射を大量に用意して好きなだけ打たせたり、文の歓迎会だとして提携先のホストクラブでクリニックのスタッフがシャンパンを開けまくるシーンも。崩壊も噂される美容整形外科に、映像を通してズブズブとメスを入れていたのは本作の見どころだ。ほかにも「うるせえんだよ!」など言動の荒い文を演じた、松岡茉優の粋な演技。彼女以外に考えられないほど、ヴィジュアルも含めて凛に適役だった仲里依紗。相変わらず、何もかも捨てるように凛がブチ切れるシーンの演技は最高だった。
美はバズらず、育てるもの。
視聴後、改めて美容整形についてどう思うかを、物語の流れに少し揺れながら考えてみた。整形に関して、手術で生活や自尊心を取り戻せる人もいるのだから、私は否定も肯定もしない。

でも自分がフェイスライン作り、シワやシミ取りなど若返りのために受けることはないと思う。もちろん費用面の問題もあるけれど、美容整形の「スピーディーさ」に心身を破壊されていった女性を何度か見ているので、単純に恐怖心があるからだ。美はバズらず、時間をかけて育てるポジションに鎮座していてほしい。
「ダウンタイム」は果たして観た人にとって、反面教師になるのかそれともクライアントたちへの共感材料になるのか。