西島秀俊、熟慮して歩む主人公を、役でも見つめた齊藤工。
多くの俳優たちから憧れられている存在だと、西島秀俊に関して思う。若い時代は容貌の美しさからも人気を博し、年齢を重ねていくにしたがい、作品の中でなくてはならない存在感のある役柄を与えられている。演技力だけではない、なんとも形容しがたい深みのある佇まいが、「人間を描く」ことが使命でもある「映画」において強く奏功する。西島が演じる役柄が背負っているものが大きければ大きいほど、作品に重厚感が増す。

いくつもの原作が映画化されている小説家、塩田武士の『存在のすべてを』で西島秀俊は主人公の新聞記者・門田次郎を演じる。斎藤工は仲村トオル演じる中澤の後輩刑事、先崎隆明役。塩田武士の小説に登場するのは、過去に何かしらの後悔を残し、その思いと長い間向き合い続ける人物が多い。時を経て社会が変化し、登場人物たちの気持ちも熟成し、過去の思いに何かしらの焦点が合わさった時、物語が進み始める。社会派小説ではあってもとても繊細で、登場人物たちは互いの心を観察しながら、じっくりゆっくりと発進する。おそらく本作でもそのように物語は形成されていったに違いない。齊藤は、門田という役柄を観察し、俳優としての先輩である西島秀俊を観察していたのはないか?
「西島さんは、役を演じているというより、その人物が歩んできた時間ごと画面に存在しているように感じる俳優です。何度か作品をご一緒していて印象的なのは、その佇まいの自然さと、作品に対する真摯な姿勢。多くを語らずとも、沈黙の中に膨大な情報が宿っている。そして何処か神聖な存在。そんな稀有な先輩だと思います」(齊藤)

西島秀俊も齊藤工も、日本以外のアジアの作品などにもよく出演する。齊藤はプロデューサーとしての目線でも日本映画の存在感向上に対して積極的に貢献している。西島は俳優としての役割に徹底しながら、日本映画の質をより高みに上げる役割を担っている。静やかに、完璧なクラフトマンシップを抱いて作品をハイクオリティに導く人物だ。
「普段は映画の話をさせていただくことが多く、当時私がウェイン・ワン組(『Diary of A Mad Old Man』)に入っていたので、『女が眠る時』の現場での秘話などを気さくにして下さっていましたが、私がカメラを向けた瞬間に湿度が変わるような空気になりました。おそらくこの連載の仕上がりも意識して下さり、より良い作品を一緒に作ろうとして下さっているのだと、撮った写真から感じました。西島さんの存在に感謝します」(齊藤)
『存在のすべてを』は二児同時誘拐という犯罪を軸に、事件の奥にある空白の3年に何が起きていたのかを追うヒューマンミステリーだが、西島秀俊はコメディにも抜群の才能があることは記しておきたい。ちょうどいい脱力感が似合い、人間味のある焦燥感の表現が巧みだ。
本当に自然に、そして静かに、役になりきってしまう俳優だ。
『存在のすべてを』
●監督/瀬々敬久
●出演/西島秀俊、広瀬すず、志尊淳、仲村トオル、斎藤工、青柳翔、光石研、永島敏行、奥田瑛二ほか
●原作/塩田武士『存在のすべてを』(朝日出版社刊)
●配給/東映 ●2027年2月5日より全国にて公開
https://sonzai-movie.com/
Ⓒ2027「存在のすべてを」製作委員会 Ⓒ塩田武士/朝日新聞出版
西島秀俊/HIDETOSHI NISHIJIMA
1971年3月29日生まれ、東京都出身。大学在学中より俳優活動を始め、92年に本格デビュー。2021年公開の映画『ドライブ・マイ・カー』では第45回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、第56回全米映画批評家協会賞主演男優賞などを受賞。ドラマ「きのう何食べた?」シリーズや、映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』(25年)、『時には懺悔を』(26年)、配信ドラマ「サニー」(24年Apple TV)、「人間標本」(25年Prime Video)など、国内外の作品に出演。27年2月5日に主演映画『存在のすべてを』が公開。