シーズン開幕ガラ。マチュー・ブレイジーによるシャネルの衣装でジェルマンとユーゴが踊った。

Paris

10月10日、パリ・オペラ座バレエ団のシーズン2026/27の開幕ガラが華やかに開催された。今シーズンを最後に5年間の予定で工事に入るガルニエ宮。この恒例のガラも、来シーズンからはオペラ・バスティーユで行われることになる。会場装飾を始めガラの様子は大きく変わることだろう。それは興味深くもあり、また150年以上の歴史ある建物であるガルニエ宮でレパートリー入りした1946年から続けられているパリ・オペラ座だけのユニークなデフィレに変化がもたらされる、という一抹の寂しさもあり……。

シーズン2026/27の開幕ガラ。太陽が輝くごとくパウダーピンク色の大輪の花がガルニエ宮を照らしていた。©︎Virgile Guinard

2023年からパリ・オペラ座のグラン・メセナを務め、またこれから始まるガルニエ宮とオペラ・バスティーユの大工事の特別メセナであるシャネルが開幕ガラのメセナとなったのは2018年。その9回目となった今シーズン、AROP(パリ・オペラ座支援団体)がオーガナイズしたこの開幕ガラではグラン・メセナのChanel(シャネル)、オペラ座の時計としてのパートナーのRolex(ロレックス)、そして名誉委員会のメンバーである企業・個人からの寄付により180万ユーロを集めることができたそうだ。前年より額は大きく、新シーズンは幸先良くスタートした。

大階段は来場者たちが見る場所であり、見られる場所であり、というシャルル・ガルニエの建築の意図はいまも健在。当日は花で色鮮やかに飾られ、ゲストやダンサーたちの撮影スポットとして賑わいを見せていた。photography:(左)©︎François Goizé、(右)©︎Virgile Guinard

この晩、定刻の19時30分に少し遅れて、恒例のデフィレでガラが開幕した。いつものようにステージ後方の仕切りを取り払い、ゴールドとシャンデリアが輝くフォワイエ・ドゥ・ラ・ダンスから学校の生徒、ジュニアカンパニー、バレエ団員の順でステージを優美に行進。今回はトマ・ドキールにとって初のエトワールとしてのデフィレである、また休業中のマチアス・エイマンが前回同様にデフィレには登場。とはいえ、なんと言ってもこの晩のスターは5日後にアデュー公演を控え、これが最後のデフィレというドロテ・ジルベールだ。歩みははいつも通りの速度のはずなのだが、彼女がこの時間を存分に味わっているからだろうか、なぜかまるでスローモーションで前進しているような不思議な時の流れが感じられた。10月16日に公演「Paysages intérieurs」の前にもう一度デフィレが行われるが、これは彼女の引退翌日である。そんな訳で、女性ダンサーの最後に登場した彼女に送られる拍手が鳴り止まず……一種のプレアデューといった感が会場を満たした。

伝統行事のデフィレ。オーケストラボックスでADOの若い奏者がベルリオーズの「トロイア人」の行進曲の演奏に参加した。©︎Maria Helena Buckley
マチアス・エイマン(左)とユーゴ・マルシャンに囲まれたドロテ・ジルベール。これが彼女にとって最後のデフィレとなった。photography: Mariko Omura

学校の生徒とカンパニーの団員の間に行進するのは、シャネルが創設メセナを務めるジュニア・バレエ団である。男女各12名。シーズン2025/26のジュニアバレエ団にとって2度目のガラから、女性たちはシャネルのメゾンダールのひとつであるルマリエによる羽根とカメリアの装飾が施された衣装での行進だ。カンパニーのダンサーについては、女性はエトワールになるとシャネルによる煌びやかな衣装とティアラで身を飾っての行進となる。シャネルがこのように衣装に関わるのは創造の自由を支援し、美的前衛性とバレエの分野における芸術的要求を促進するというメゾンの創業者であるガブリエル・シャネルの理念の体現にほかならないのだ。

なおデフィレの音楽は1946年以来変わらずヘクトール・ベルリロオーズのオペラ「トロイア人」からの行進曲。その演奏は今シーズンの新しい試みとして、ADO(ア・デ・オ/Apprentissage de l’Opéra)に任された。これはパリ・オペラ座のアカデミーによる活動のひとつである、16~25歳の見習い音楽家たちによるオーケストラだ。パリ・オペラ座があらゆる分野で大切にする、継承はオーケストラピットの中にも!

女性エトワールたちがガラで着けるティアラとコスチューム。各人、微妙に異なるそうだ。©︎Chanel

この晩のために芸術監督ジョゼ・マルティネスが用意したダンスのプログラムは、異なるスタイル、異なる世界のコンテンポラリー3作品だった。最初に披露されたのはガラのためにブラジル人振付家フリアーノ・ニュネスがジェルマン・ルーヴェとユーゴ・マルシャンに創作した静謐で美しい『Rings of Saturn(土星の環)』。合唱用に編曲されたメランコリックなサミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」に乗せて、ふたりの身体はひと繋がりとなり、4本の長い腕が絡まって無限大のループを描き……。シャネルのためにマチュー・ブレイジーがデザインしたコスチュームは黒いパンツに、上方が複数の色が層を成すストライプのしなやかなシャツだった。ふたりのストライプが繋がってひと続きの模様となると、作品の意図が視覚的に増幅するよう。振付け、音楽、コスチュームが三位一体をなす作品をパリ・オペラ座の最高峰のダンサー2名が踊った8分間。気品、静かなエネルギー、浮遊感……ガラのために創作された作品が再演される機会はあまりないけれど、これは踊り続けられるにふさわしい珠玉の作品だ。再び踊られることがあるとしたら、ユーゴ・マルシャンが主催するフランス国内のシャトーの前で開催するガラだろうか……。

『Rings of Saturn』より、ジェルマン ・ルーヴェ(右)とユーゴ・マルシャン。photography: Julien Benhamou/ OnP
作品中、繰り返し描かれる無限大のループ。photography: Julien Benhamou/ OnP
サミュエル・バーバーの「弦楽器のためのアダージョ」の合唱用編曲を聴きながら、写真の中の動きを見てみよう。photography: Julien Benhamou/ OnP
ジェルマンとユーゴはオペラ座バレエ学校時代からの仲良し。ほぼ同じリズムでオペラ座のピラミッドを上がり、ジェルマンは2016年12月28日に、ユーゴは2017年3月3日にエトワールに任命された。photography: (左)Jiulien Benhamou/OnP、(右)Mariko Omura
マチュー・ブレイジーがシャネルのためにデザインした『Rings of Saturn』のコスチューム。©︎Chanel

この後に踊られたのは翌11日が初日のミックスプログラム『Paysages intérieurs』から、レパートリー入りした2作品だった。ひとつ目は、ジャン=クリストフ・マイヨが1995年に創作した『Vers un pays sage』。振付師であり舞台装飾も手がけた父ジャンへ捧げた作品だ。目まぐるしく色を変えるカラフルなステージの中を、ジョン・アダムスの「フィアフル・シンメトリーズ」の陽気にせわしなく奏でられる音楽に合わせて白いコスチュームの12名のダンサーが次々とステージ狭しとステップを続ける。30分の作品中、いちばん若い女性エトワールのロクサーヌ・ストヤノフは、フロラン・メラックをパートナーに大柄な体躯を見事にコントロールして存在感ある踊りで舞台空間を満たしていた。

ジャン=クリストフ・マイヨの『Vers un pays sage』より。ロクサーヌ・ストヤノフとフロラン・メラック。ふたりは『アフター・ザ・レイン』で見せた優れた身体能力をここでも発揮した。photography: Julien Benhamou/ OnP
左は最も新しい男性エトワールのトマ・ドキール、右はマイカ・レヴィーヌ(コリフェ)。photography: Julien Benhamou/ OnP
配役は女性がロクサーヌ・ストヤノフ、マリーヌ・ガニオ、カン・ホユン、イネス・マッキントッシュ、レティティア・ガロニ、クレール・テセールの6名、男性はトマ・ドキール、パブロ・ルガザ、フロラン・メラック、マリウス・ルビオ、ニコラウス・チュドラン、マイカ・レヴィーヌの6名。photography: Julien Benhamou/ OnP

最後に踊られたのは『Busk』。カナダ人コレオグラファーのアスジュール・バートンが2009年に創作した作品で、これはホームレスから裕福な人まで彼女が路上で観察を重ねて発見した彼らが持つ共通の人間性にインスピレーションを得ている。ダンサーたちの身体能力が極限まで発揮されたスリリングな振り付け。暗闇に包まれたステージに劇場の高い天井を利用したシンプルな照明で印象的な幕開きに始まり、ソロありグループありアンサンブルありの複数のパートで構成された作品だ。パリ・オペラ座バレエ団のコンテンポラリー作品においていまや欠かせぬルー・マルコー=ドゥルアールがこの作品でも独特の“ルー節”で、観客を魅了した。

『Busk』の印象的なオープニング。photography: Julien Benhamou/ OnP
ルー・マルコー=ドゥルアール、フランチェスコ・ムーラなど18名が配役されている作品だ。photography: Julien Benhamou/ OnP
黒い衣装のダンサーたちが真っ黒い空間で蠢くように踊る。photography: Julien Benhamou/ OnP

公演終了後は、テーブルが並べられたグラン・フォワイエにてスーペの時間だ。シャンパンはTaittingerのブラン・ド・ブラン 2019年、ワインはシャネルのブドウ畑からCroix Canon 2019年が振る舞われた。料理はここ何年か続きで、ル・フーディングの共同設立者マリーヌ・ビドーが料理界の新星から選択したシェフによる饗宴だ。今年の前菜はパリ4区のレストランEmeのシェフNazareno Mayol Durti、メインの魚料理はアルルについでパリにレストランPrintを開いたAlexis Bijaoui、デザートはパリ郊外モントルイユのFadoliのパティシエFanny Payreに託された。若い世代による食材の組み合わせや味付けには新しさが感じられ、軽やかな3品がスーペ参加者を喜ばせた。

時計が0時を回る頃、ゲストたちはスーペのテーブルから地下のロトンド・デザボネでのアフターパーティへと。コール・ド・バレエからエトワールまで着飾ったダンサーたちは翌日は休みとあって、気分は開放的。ガルニエ宮でのガラの宵とのしばらくの別れを惜しむように仲間と集まり、踊って……。

ゲストを待つ食卓。photography: Virgile Guinard
左:今季はJulien Benhamouの写真を生かしたモノクロのインビテーション。 右:前菜。ズッキーニのグリル、花とカレーのソース。photography: Mariko Omura
左:メインはスケトウダラ。グリーンオリーブ、青梗菜、ハーブのマーマレード添え。 右:デザートはルバーブ、オレンジの花、ブルビのヨーグルトのムース、オート麦のビスキュイ。photography: Mariko Omura

大村 真理子

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター

東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。2006年から「フィガロジャポン」パリ支局長を務めた後、フリーエディター活動を再開。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。