—岳中さんが陶芸を始めたきっかけは?
岳中:ものづくりがしたいと入学した美大の短期大学部で、工芸デザインを専攻したのがきっかけです。授業で陶芸の知識をひと通り学んだのですが、そこから先の技術や表現方法は、自分からすすんで探っていかないとならない学科だったのが私には面白くて。陶芸を続けていきたいと思うようになりました。
—どうやって陶芸家として独り立ちしたのですか?
岳中:陶芸教室でアルバイトをしながら、教室のない時間帯にろくろや窯を使わせてもらって作品づくりをしていました。食べることが好きだったので、同じ時期に飲食店でもアルバイトをしていて。青山にあったイデーショップのカフェに勤めていたことがあるんです。その時に、当時の社長が作品をショップに置いていいよと言ってくださって。自分の作品をお客様に見てもらうようになって。その後、24歳の時に古い一軒家に引っ越して自分の窯を持ちました。
—当時の作風は?
岳中:当時から草花の線描でしたね。やがてそれを彫りで表現したり、象嵌を施すようになって、いまにつながっています。
—細かく描き込んだ線画とレリーフ、象嵌文様が混じり合う独特の世界観は、岳中さんならではです。
岳中:母がフリーランスのパタンナーで家で仕事をするのを見ていたせいか、こどもの頃からパッチワークが好きだったり、ずっと絵を描いていられたり。細かい作業に没頭する性格なんです。壺やマグカップの全面にレリーフ(彫り模様)を施すことや、筆で絵柄を描きこむ作業は、いつまでもやり続けていたいくらい。楽しくて仕方がないんです。
—平杯にある色絵の色合わせなんて、まさにパッチワークのよう!
岳中:母が仕事で使う布や見本帳がいつも身近にありました。幼心に見ていた布の文様や色の記憶に影響を受けていると思います。更紗や正倉院の宝物にある天平文様のようにエキゾチックなモチーフも好きですね。そうしたものが自分の中で自然と混じりあって文様が生まれていくんです。
—やさしい雰囲気の陶器とクリーンな印象の磁器、どちらも扱うのですね。
岳中:彫り模様は土の違いで仕上がりの渋さや柔らかさが変化するのが面白くて。陶土に彫るとレースのような雰囲気に仕上がりますが、磁土だとすっきりとして染付の絵柄と組み合わせても美しい。短大を卒業後、日本画を学ぶためもう一度美大に編入した以外は、ほぼ独学で、自分の表現したいことに必要な焼物の技法や技術を身につけてきました。産地や師弟関係などにとらわれず多様に制作することで、自分らしい表現ができているような気がします。
—岳中さんのうつわは、料理人の方に好評でお料理屋さんでもよく使われています。それも日本酒の美味しいお店が多いですね。
岳中:作品を使ってくださっているお店は、自分が把握しているだけで80軒くらい。私自身お酒が好きなので、親しくしていただいています。
—作品のなかでも、とくに平杯はお酒好きの方に大評判。料理屋の店主がその良さを力説するのを、お客として何度か聞いたことがあります。
岳中:日本酒のエキスパートでもあるお料理屋の方々から教えてもらったことを作品に生かします。平杯を使うのはおもに燗酒だと思いますが、お酒好きはたっぷり飲みたい。だからある程度容量がありつつ、温度が下がるにつれて変化する味も楽しめるようなサイズにしています。このサイズだとお酒以外に豆皿としても使えるから、すこしずつ買い足しても楽しいのではないかと。口はすこし反らせてお酒がすっと入っていくようにしています。
—どんなうつわを作りたいですか?
岳中:文様を描きこむことは得意ですが、料理を邪魔せず、料理の額縁になるようなところに絵柄を配置するように心がけています。うつわはあくまでも料理のためのものですから。同じ文様のものをたくさん作ることはあまりないのですが、その分かたちは揃えているので、リム皿、取り鉢、カップなどは、文様や柄違いで数枚揃えてもらうと、食卓が華やかになると思います。