【後編】映画ジャーナリスト・編集者が「10回は観直した」、至高の名作6選。
Culture 2026.03.23
2026年の映画界もすでに良作が目白押し、これから登場する話題作も次々に発表されている。一方で、フィルムやデータに残された表現を何度でも再生できるのが映画の醍醐味でもある。フィガロジャポンのインタビューや作品評でもお馴染みの映画ジャーナリスト、そして男性誌・女性誌ともにインタビュー連載担当を続けてきた編集者が「10回は観た」という思い出の作品を3本ずつ選んだ。映画のプロがハマる映画、ぜひ堪能して。
選者:久保玲子
『流れる』|1956年、成瀬巳喜男監督

隅田川の畔に建つ置き屋の女将に山田五十鈴、その娘に高峰秀子。売れっ子の岡田茉莉子と年増芸妓の杉村春子、そして成瀬巳喜男版「家政婦は見た」の目となる女中役に田中絹代と、超豪華なスター女優の競演に夢心地。
原作は実際に置き屋での女中経験を持つ幸田文。粋で鷹揚な山田五十鈴姐さんとブツブツ文句を並べつつ堅気を目指す高峰秀子をはじめ、置き屋という疑似家族の面々から脇役にいたるまでキャラ立ちも抜群、普段は覗けないバックヤードのドラマは細やかでスリリング。隅田川の流れと時代の趨勢を切なく映しとる名作に、日本映画黄金期の成熟と豊かさを教わった。
『エドワード・ヤンの恋愛時代』|1994年、エドワード・ヤン監督
近代的なビルと路地裏の伝統が入り混じる台北の街で生きる、学生時代をともにした男女4人。1994年の公開時、彼らの言いようのない不安と孤独にはリアルを感じた。しかし夜のプールサイドや暁のオフィスで肩を並べる女ふたりのシスターフッドが鮮明に浮かび上がり、本作の原題を『獨立時代』と名付け、ヒロインたちの自立に台湾史を重ね合わせた監督の想いに涙したのは大分後のことだった。
『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)や『ヤンヤン 夏の想い出』(2000年)も傑作だが、エドワード・ヤンが存命なら混沌を極めるいまにどんな映画で応えるのかと、近年この映画をたびたび思い返している。
●監督/エドワード・ヤン
●出演/チェン・シャンチー、ニー・シューチン、ワン・ウェイミン、ワン・ポーセン ほか
●129分、台湾映画
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『幸福なラザロ』|2018年、アリーチェ・ロルヴァケル監督
デビュー作『夏をゆく人々』(2014年)の寓話的な自伝物語に魅了されてはいたが、大きくジャンプアップした長編第2作『幸福なラザロ』には渓谷に隠された禁断の土地を映し出す冒頭から心奪われ、慄かされた。
20世紀末に貴族の末裔が村中の小作農を騙し、中世さながらの労働搾取を続けたという元ネタの詐欺事件に驚かされながら、聖ラザロと同じ名を持つ青年主人の透んだ瞳に試されるスリルも味わう。土地の記憶を操りながら、独自の文明論に聖書や神話を色鮮やかに織り込んでゆくロルヴァケル寓話。フェリーニの夢の興奮とパゾリーニの社会風刺、饗宴を味わうと、ラザロの瞳から逃れられない。
●監督/アリーチェ・ロルヴァケル
●出演/アドリアーノ・タルディオーロ、アルバ・ロルヴァケル、ニコレッタ・ブラスキ ほか
●127分、イタリア映画
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シネセゾン系列のロシア映画専門館でアレクサンドル・ソクーロフ、ユーリー・ノルシュテイン監督イベント、レトロスペクティブ企画等に従事。映画会社でケン・ローチ、エドワード・ヤン、ジャック・オディアールらの作品を配給宣伝。現在は映画ジャーナリストとして『フィガロジャポン』『T JAPAN:The New York Times Style Mazazine』等に映画評、インタビュー等を執筆。
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選者:金井洋介(madame FIGARO.jp)
『もののけ姫』|1997年、宮崎駿監督
幼少期から父親に歌舞伎、特に三代目市川猿之助の舞台に連れて行かれ、NHKで放送されたスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』の録画を繰り返し観ていた5歳児は『もののけ姫』にもどハマりし、30年ほど過ぎたいまでも、どちらもセリフを8割くらい覚えている。
描かれるのは"自然をコントロールできる"と驕る「人の業」。自然と人間、手を携えるにはどうしたらいいか。山犬の頭領・モロの君も「黙れ小僧」と言ったきり、答えを明示してはくれない。2026年7月、三代目猿之助の孫、市川團子がアシタカを演じるスーパー歌舞伎『もののけ姫』が始まる。答えのない問いを探しに、我々はまたシシガミの森に潜る。
●監督/宮崎駿
●声の出演/松田洋治、石田ゆり子、田中裕子 ほか
●133分、日本映画
『ゴッドファーザー PARTⅡ』|1975年、フランシス・フォード・コッポラ監督
描かれるのは1901年、孤児の移民としてシチリアからアメリカに渡ってきた父ヴィト・コルレオーネの成功譚と復讐劇、そして1958年、絶大な権力で家族(ファミリー)を守ろうとすればするほど孤立する息子マイケル・コルレオーネのふたりの物語。
原作と偉大な1作目がなければ続編は生まれなかったことを考えるし、パート1も10回以上観返している。が、パート2の過去編は撮影当時31歳のロバート・デ・ニーロの魅力であふれているのだ。ヴィトが纏うブルーのシャツに茶色の上着のスタイリングを真似して、今日も街を歩く。
●監督/フランシス・フォード・コッポラ
●出演/アル・パチーノ、ロバート・デュヴァル、ダイアン・キートン、ロバート・デ・ニーロ ほか
●200分、アメリカ映画
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『グレート・ビューティー 追憶のローマ』|2013年、パオロ・ソレンティーノ監督
文豪ジェップ・ガンバルデッラ(トニ・セルヴィッロ)は65歳の誕生日をセレブたちとともに盛大に祝っている。しかし彼は若き日の鮮烈なデビュー以降、なぜか小説の執筆を止めていた......。
美しく退廃した世界を描いた本作公開時、ソレンティーノは42歳。去年は『パルテノぺ ナポリの宝石』が日本公開、本国では最新作『ラ・グラツィア(原題)』が公開されたが、監督、今年で56歳。まだ全然ジェップの年齢になってない! 美しいものを追って「背伸び」し続けよう、と改めて心に決めた。
●監督/パオロ・ソレンティーノ
●出演/トニ・セルヴィッロ、カルロ・ヴェルドーネ、サブリナ・フェリッリ ほか
●142分、イタリア・フランス映画
フィガロJPカルチャー/グルメ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。在籍した「Pen」、現在は「フィガロジャポン」で来日した映画監督、俳優、アーティストなどのインタビューページを担当している。






