イーサン・ホーク主演『ブルームーン』はじめ、「生き方」を鮮やかに照らし出す新作映画4選。

Culture 2026.03.26

黄金コンビの終焉の夜を描く『ブルームーン』、時を貫くミステリアスな連環が紡がれる『落下音』、迷いの中から未来を切り拓く少女たちを追う『そして彼女たちは』、言葉の再獲得が世界を開く『私たちの話し方』。それぞれの主人公が、脆さと強さのあわいで手探りに前へ進もうとする姿をぜひ映画館で。


01.『ブルームーン』

文:ミヤケマイ 美術家

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ロジャース&ハートが黄金コンビ解消の危機を迎え、ニューヨークの名店で人生の黄昏に直面。作詞家ハートは、バーテンダーや相客らと語らって一夜を明かす。落ちぶれと自負心が年を重ねた色気となってイーサン・ホークの演技から匂い立つ。©2025 FUNNY VALENTINE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

時流に合わなくなっても、天才は天職に焦がれぬく。

羽のある人には手がなく、手のある人には羽がない。この言葉がいつも胸に突き刺さる。空を高く飛ぶ才能のある人間は、普段の生活に必要な手を持ち合わせていないことがある。服を着せ、ご飯を食べ、誰かを抱きしめる手がないのである。ロレンツ・ハートの名前を知らない人でも「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「ブルームーン」は知っているのではないか。今なおさまざまなアーティストにカバーされ続ける名曲たちは、彼の言うところシェイクスピア同様、彼が「死を欺く言葉」を刻める数少ない天才であることを紛れなく示す。

才能かそれとも、時代や人に好かれることに長けているか、この命題は常に芸術につきまとう。天才を天才たらしめる3原則が私はあると思う。

1. 天才は天才を見抜ける力を持っている。重力から解放される音を作れるロジャースは天才だとハートは見抜いていた。
2. 天職という赤い靴を履き続ける覚悟。
3. バーテンダー、ピアノ弾き、クロークの女、そういう多くの人が気にも留めない脇役の彼らに愛される。新聞のお墨付きを鵜呑みにしないリアルな批評家たちだ。天才の剥き出しの心と神経と、高い知性と優しい心がどれだけ本人の人生を生きづらくさせるか。才能が有り余っていても手に入らない、サイズの合わない服に憧れるという矛盾。

20年以上にわたり、ロレンツ・ハートの言葉と、リチャード・ロジャースの旋律は寄り添いながら、ブロードウェイを照らしてきた。時代との齟齬、自分のアルコール依存による相棒との亀裂、そして手に届かない中年の危機の恋。自分が時代や仲間に取り残されていく感覚、それは今、時代の転換期にいる多くの人が感じている危機感に似ているのではないか。

『ブルームーン』
●監督/リチャード・リンクレイター
●出演/イーサン・ホーク、 マーガレット・クアリー、ボビー・カナヴェイル、 アンドリュー・スコットほか
●2025年、アメリカ映画 ● 100分 
●配給/ロングライド
●TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開中
文:ミヤケマイ/Mai Miyake
美術家
日本美術の過去・現在・未来に独自の視点を折り入れ、現代美術やデザイン、工芸や文芸といった既存の枠を自在に往還。全国の美術館で展示多数。『反射』ほか5冊の作品集がある。
http://www.maimiyake.com/

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02.『落下音』

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©Fabian Gamper - Studio Zentral

別の時代を生きる女性の妖しく美しいシンクロ率。

1910年代の北ドイツの富裕な農家、7歳の娘アルマはかつて7歳で逝った、自分と生き写しの少女の気配に取り憑かれる。まずはそう要約できるが、大家族の姉や兄らが各々主役級の宿命と悲劇性を担う。しかもこれは並行して進行する4つの物語のひとつ。第2次大戦直後の40年代、東西冷戦下の80年代、そして現代と時代の暴力や死の影に呑まれつつサバイブし、友愛を育む女性たちを核にミステリアスなファミリーロマンスが気付けば織り上げられている。ドイツの新鋭女性監督の才能は鋭敏にしてスケールがでかい。時を貫く落下音に乗って、生死を超えた未知の分身がいつかどこかに控え、ヒロインを励ましているような戦慄感と悦ばしさがある。カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。

『落下音』
●監督・共同脚本/マーシャ・シリンスキ
●2025年、ドイツ映画 ●155分
●配給/NOROSHI ギャガ
●4月3日より、新宿ピカデリーほか全国にて順次公開
https://gaga.ne.jp/rakkaon_NOROSHI/

text: Takashi Goto

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03.『そして彼女たちは』

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©Les Films du Fleuve - Archipel 35 - The Reunion - France 2 Cinéma - Be Tv & Orange - Proximus - RTBF (Télévision belge) / Photoⓒ Christine Plenus

母になりたての少女が自ら踏み出す前途の実り。

現在進行形の負の境遇から抜け出し、どう育児に向かうか。ティーンエイジで出産した未婚のシングルマザーたちが、施設の支援を得てなお惑いの淵で選択を重ねる。そんな群像劇から5人の主人公の陰影と光彩が際立ってくる。逃げ腰のパートナーに失望し、先行きの予測のつかなさに卒倒してしまうぺルラ。捨てられた悲しみが長くわだかまっていたが、いまの我が身を省みて母と感情を分かち合うにいたるジェシカ。各自が岐路に立って手探りのまま前に踏み出す刹那、愛を巡る五者五様の不安と決意がたぎり立つよう。アポリネールの詩やモーツァルトのピアノ曲を生かした安らぎのエピローグはダルデンヌ兄弟の新境地だろう。カンヌ国際映画祭脚本賞&エキュメニカル審査員賞受賞。

『そして彼女たちは』
●監督・脚本/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
●2025年、ベルギー・フランス映画 ●104分
●配給/ビターズ・エンド
●3月27日より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国にて順次公開
https://www.bitters.co.jp/youngmothers/

text: Takashi Goto

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04.『私たちの話し方』

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© 2024 One Cool Film Production Limited, Lee Hysan Foundation. All Rights Reserved.

断絶しない香港インディーズ映画の快活な生気。

香港では十数年前まで、一般社会への適応を妨げると手話の学習や校内使用を禁じてきた。その模範生として難聴のソフィは口話を使いこなし、「人工内耳大使」として公共広告に起用される。だが、"普通"を装った特別扱いや企業・行政のイメージ戦略が社会人となったソフィを息苦しくする。日常レベルで社会の軋轢を痛感するタイミングに、「粗暴」な表現と思い込んできた手話を多感に繰り出すダイバーの青年と出会い、ソフィの世界が一新する清々しさ。優等生とガキ大将気質という真逆なふたりの青春映画の根底に、ソフィの人工内耳が故障がちで社内の会話や街の雑踏から孤立したり、潮騒だけのうら寂しい海辺に双方が肩を並べたり、無音がベースの豊かな音像空間が広がっている。

『私たちの話し方』
●監督・共同脚本/アダム・ウォン
●2024年、香港映画 ●132分
●配給/ミモザフィルムズ
●3月27日より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
https://mimosafilms.com/thewaywetalk/

text: Takashi Goto


*「フィガロジャポン」2026年5月号より抜粋

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