第79回カンヌ国際映画祭開幕!世界の映画界の潮流に注目。

Culture

第79回カンヌ国際映画祭が5月12日、南仏カンヌで開幕した。コンペティション部門には22作品が選ばれ、韓国のパク・チャヌク監督を審査委員長とする審査員団が、最高賞パルムドールをはじめとする各賞を決定する。

今年のカンヌ映画祭イメージ。©️cannes film festival

今年のコンペティションのラインナップの特徴は、まず、カンヌと縁の深い監督たちの新作と、初めてコンペに加わる作家たちが混在していることだ。是枝裕和、クリスティアン・ムンジウというパルムドール受賞監督をはじめ、ペドロ・アルモドバル、アスガー・ファルハディ、パヴェウ・パヴリコフスキ、アンドレイ・ズビャギンツェフ、ラースロー・ネメシュ、ジェームズ・グレイら、国際映画祭で実績を重ねてきた作家が並ぶ。一方で、ジャンヌ・エリー、レア・ミシウス、シャルリーヌ・ブルジョワ=タケ、エマニュエル・マール、そしてスペインのハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボといった、コンペ初参加の監督たちも興味深く、新しい才能を積極的に世界に発信する映画祭の意義も意識したセレクションと言えるだろう。

カンヌ映画祭メイン会場、レッドカーペット前。©️Momoko Suzuki

なかでも注目したいのは、日本とスペインの存在感である。日本からは是枝裕和監督の『箱の中の羊』、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』、深田晃司監督の『ナギダイアリー』の3作品がコンペ入りした。いずれも、すでにカンヌで足跡を残してきた監督だ。

『ナギダイアリー』の公式上映後、拍手喝采。©️Momoko Suzuki
記者会見に登場した松たか子。©️Atsuko Tatsuta

記者会見に登場した石橋静河。©️Atsuko Tatsuta


是枝監督は『DISTANCE/ディスタンス』(2001年)以降、『誰も知らない』(2004年、柳楽優弥が男優賞)、『空気人形』(2009年)、『そして父になる』(2013年、審査員賞)、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)などがカンヌに選出され、2018年には『万引き家族』でパルムドールを受賞。近年も韓国で撮った『ベイビー・ブローカー』(2022年、ソン・ガンホが男優賞)、『怪物』(2023年、脚本賞)とカンヌにおいてキャリアを更新してきた。
濱口監督は『寝ても覚めても』(2018年)で初めてコンペティションに選ばれ、『ドライブ・マイ・カー』(2021年)では脚本賞を受賞した他、さらに国際批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞なども獲得し、米国のアカデミー賞国際長編映画賞受賞へと繋がる国際的評価を決定づけた。
深田監督は『淵に立つ』(2016年)で「ある視点」部門審査員賞を受賞し、2025年には『恋愛裁判』がカンヌ・プレミアに選出。今年は『ナギダイアリー』で初めてコンペティション部門に入った。世代も作風も異なる3人が同じ年のコンペに揃ったことは、日本映画の多層性を示すものとして興味深い。

『ナギダイアリー』の公式上映に登場した是枝監督。©️Momoko Suzuki

スペイン勢も3作品と充実している。ペドロ・アルモドバル監督の『Bitter Christmas』、ロドリゴ・ソロゴイェン監督の『The Beloved』、ハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボ監督の『The Black Ball』である。アルモドバルは言うまでもなく、スペイン映画を世界に押し上げてきた巨匠。一方、ソロゴイェンは社会の不穏さや人間関係の緊張を鋭く描く監督として国際的な注目を集めてきた。アンブロッシ&カルボは、スペインのポップカルチャーとも接続する新しい世代の作り手であり、ここにも世代の幅が見える。

国別に見ると、開催国フランスの“比重”は依然として大きい。ジャンヌ・エリーの『Another Day』、レア・ミシウスの『The Birthday Party』、アルチュール・アラリの『The Unknown』、シャルリーヌ・ブルジョワ=タケの『A Woman’s Life』など、フランス語圏の作品が複数並ぶ。加えて、ファルハディ監督の『Parallel Tales』、ズビャギンツェフ監督の『Minotaur』など、フランスが製作国として関わる国際共同製作も多く、カンヌが世界の映画製作ネットワークにおいて重要な役割を果たしていることが可視化されている。世界的にプレゼンスを高める韓国からはナ・ホンジン監督『Hope』がコンペ入り。パク・チャヌクが審査委員長を務める年だけに、受賞の行方も気になる。

今年の審査員団もまた、多様な映画経験を持つ“豪華な”顔ぶれが揃った。審査委員長のパク・チャヌクは、『オールド・ボーイ』で2004年にグランプリを受賞し、『渇き』で2009年審査員賞、『別れる決心』で2022年監督賞を受賞した、カンヌと極めて関係の深い監督である。暴力、欲望、復讐、官能を、精緻な映像美とブラックユーモアのなかに織り込むその作風は、韓国映画の革新性を世界に知らしめてきた。韓国の映画人がコンペティション部門の審査委員長を務めるのは今回が初めてであり、そのこと自体も今年の大きなトピックである。

審査員団には、アメリカの俳優・プロデューサーのデミ・ムーア、アイルランドとエチオピアにルーツを持つ俳優ルース・ネッガ、ベルギーの監督ローラ・ワンデル、中国出身の監督クロエ・ジャオ、チリの監督ディエゴ・セスペデス、コートジボワール出身の俳優イザック・ド・バンコレ、ケン・ローチ作品の脚本家として知られるポール・ラヴァティ、スウェーデンの俳優ステラン・スカルスガルドが名を連ねる。俳優、監督、脚本家がそれぞれの視点から22本をどう受け止めるのか。賞の行方とともに、その審査の基準にも注目したい。

今年の審査員団。©️cannes film festival

近年、国際映画祭における映画人の発言は、作品そのものと同様に瞬時に世界へ拡散され、ときに文脈を切り離されたまま消費される。2月のベルリン国際映画祭では、ヴィム・ヴェンダースの発言をめぐって誤読による炎上も起きた。そうした時代状況のなかで、今年のカンヌが何を評価し、どのような作品にパルムドールを与えるのか、つまり作品をどう読み解くのか、大きな注目が集まる。

  • text: Atsuko Tatsuta
  • editing: Momoko Suzuki