マリア・グラツィア・キウリが故郷ローマに捧げた、ディオールの2026年クルーズ コレクション。
Fashion 2025.05.30

去る5月27日、ディオールは2026年クルーズ コレクションのランウェイショーをマリア・グラツィア・キウリの故郷ローマにあるヴィラ アルバーニ トルロニアにて発表。キウリによる本コレクションは、彼女のある時代の自伝的な集大成とも言える。彼女自身の体験や感情が深く反映され、想像力が広がる束の間の場所ーー。それは脚本家のエンニオ・フライアーノがフェデリコ・フェリーニ監督の映画『8 1/2』のために提案したタイトル "Bella Confusione(美しき混乱)"を彷彿とさせる、そんな空間だ。

キウリにとってこのコレクションの始まりとなったのが、20世紀にローマ、パリ、ニューヨークの社交・芸術界で活躍したカリスマ性あふれる人物、ミミ・ペッチ=ブラント伯爵夫人との出会いだった。ミミの世界に没入し、彼女がかつて主宰していた舞踏会のひとつである"Bal de l'Imagination(想像の舞踏会)"を通じてその世界を蘇らせることをキウリは決意し、あらゆる芸術様式の視覚的融合が生まれた。
そこに登場するのは、ルールを破り、自分自身から解放するための変装。実際の意味でも、比喩的な意味でも、生きている人物と幽霊との間の曖昧な境界線を越えること("幽霊"については、ぜひコレクションの動画を観てほしい)。コレクションは、隠喩的な作品で構成され、ファッションとコスチュームの歴史から引用した洋服の要素が、コンテンポラリーな表現方法と融合している。クルーズ コレクションの中でオートクチュールとプレタポルテの作品が組み合わされているのも新しい。


クリエイティブなビジョンは、カシミアなど比較的厚手のものからシアーなレースの軽いものまで、さまざまな素材で表現されるホワイトを中心に展開。




フェミニンなフリルやレースといったディテールとともに、肩を尖らせたドラマティックなトレンチコートや海軍の制服を連想させるジャケットなど、ミリタリーの要素を取り入れたルックも登場。いずれにしても、ロマンティックなロングスカートやドレスとスタイリングし、コントラストを際立たせている。


永遠の都であり、キウリの故郷でもあるローマ。本コレクションではローマへの愛と、ところどころにそれを表現するための遊び心が宝石のように光る。例えば、コンクラーベのニュースが記憶に新しいが、枢機卿の衣装を思わせるミニドレス、フェリーニの映画『甘い生活』でヒロインのドレスをデザインしたフォンタナ姉妹へオマージュを捧げたベルベットのドレス、歴史的な建築物のレリーフや庭園の草花をスケッチしたようなプリント......。キウリは彼女ならではのユニークな方法で、ローマの人物、風景、芸術、物語、そして神話を再構築したのだ。





すべての道はローマに通ず。ショーのために世界中のセレブリティが集合。ドレスコードは、やっぱり「ホワイト」!




















text: Natsuko Kadokura