ジョナサン・アンダーソンがディオール、全コレクションのクリエイティブ ディレクターに就任。
Fashion 2025.06.02
LVMHグループの中でロエベを最も成功したブランドのひとつに育て上げたアイルランド人デザイナー、ジョナサン・アンダーソンが、マドリード発のメゾンを離れ、ディオールのウィメンズおよびメンズコレクションの新クリエイティブ・ディレクターに就任することが正式に発表された。

数ヶ月前からささやかれていた噂が、ついに現実に。2025年のファッション界を揺るがす最重要ニュースのひとつとなった。
4月17日には、アンダーソンがキム・ジョーンズの後任としてディオールのメンズコレクションを指揮することが発表され、さらに5月2日には、マリア・グラツィア・キウリの後任としてウィメンズ部門も担当することが明かされた。これにより、ジョナサン・ウィリアム・アンダーソンはディオール全体のクリエイティブを統括する、初のデザイナーとなる。
モード界の神童、ディオールへ
シャネルにマチュー・ブレイジーが就任したのに続き、ディオールにはジョナサン・アンダーソンが加わる。いずれも40歳の同世代であり、今やフランスを代表するラグジュアリーブランドのトップに立つ存在だ。
アンダーソンは2008年にロンドンで自身のブランド「JWアンダーソン」を立ち上げて以降、独創性と遊び心、知性が融合したクリエーションで注目され続けてきた。2013年からはロエベのクリエイティブ・ディレクターに就任し、クラフツマンシップと革新的デザインを両立させたコレクションでブランドを再定義。LVMH内でも次なる柱として、その手腕が常に注目されてきた。
天才少年の軌跡
1984年、北アイルランドの小都市マグラフェルトに生まれた彼は、母は英語教師、父のウィリー・アンダーソンはラグビー・アイルランド代表の元キャプテンだ。
18歳の頃はデザイナーではなく俳優を志し、ワシントンのアクターズ・スタジオへ進学。しかしそこで衣装に魅了され、ファッションに自己表現の可能性を見出す。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでメンズウェアを専攻し、憧れのミウッチャ・プラダのもとで働くチャンスも掴む。スタイリストのマヌエラ・パヴェージに見出され、イタリアのウィンドウディスプレイの仕事を通じてファッションの現場を学んだ。
わずか24歳で自身のブランドを立ち上げ、固定観念を覆すメンズコレクションで一気に注目の的となった。
ロエベを新時代へ導く
2013年、LVMHがJWアンダーソンの株式を取得。同時に、アンダーソンはロエベのクリエイティブ・ディレクターに就任する。スペインを代表するレザーブランドであるロエベは、上質なナッパレザーを駆使したものづくりで知られる。
就任後初のショーはユネスコの日本庭園で開催され、コラージュ風のドレスやポップなバッグ、彫刻的なシルエットで構成されたコレクションは大きな話題を呼んだ。「レザーブランドに軽やかさをもたらしたかった」と、彼は後に語っている。
クラフトとカルチャーの融合
その手腕のもと、ロエベは、職人技と現代的な感性が融合した、強い個性を持つブランドへと進化。スタジオジブリとのカプセルコレクションなど、アートやカルチャーとの大胆なコラボも話題を集めた。PuzzleやSqueezeなど、彼が手がけたバッグは一躍アイコン的存在に。ジェイミー・ドーナンやテイラー・ラッセル、マギー・スミス、ジョシュ・オコナー、グレタ・リー、ダニエル・クレイグなど、多彩な人物を起用したキャンペーンも、彼のユニークな美意識を象徴している。
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世界を魅了した"ハトのバッグ"

JWアンダーソンのアイテムの中でも、2022年に発表されたハト型のクラッチバッグは、世界中の話題をさらった逸品。ドラマ『And Just Like That...』(『セックス・アンド・ザ・シティ』の続編)でキャリー・ブラッドショーが持つ姿も登場し、ユーモアとアート性が融合したアイコンとして注目された。このバッグは現在、ルーヴル美術館の展覧会「Louvre Couture」にも展示されている。
控えめなカリスマ
アンダーソンは、卓越した才能と同時に謙虚な人柄でも知られている。ショーの最後にはポケットに手を入れたまま控えめに登場し、歓声に応える姿が印象的だ。華やかな表舞台よりも、常にチームとともに裏方にいることを好む。
「デザイナー」「クリエイティブ・ディレクター」と呼ばれるよりも、自らを「チームのマネージャー」と称するその姿勢も、多くの業界人を魅了している。
国際的な評価と受賞歴
アンダーソンの才能は世界中で高く評価されている。2012年から2020年まで、イギリスのブリティッシュ・ファッション・アワードで複数回受賞。2023年11月には、アメリカのCFDAから「インターナショナル・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を授与された。
さらに2023年・2024年には、ファッション・アワードにて2年連続で「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に選出。2024年7月には、UCAから名誉博士号も授与されている。
アートから映画衣装まで、多彩な才能
彼の関心はファッションにとどまらず、アートや舞台芸術にも及んでいる。ショーでは現代アーティストとのコラボレーションを取り入れ、ミラノ・サローネでもインスタレーションを発表するなど、表現の幅を広げてきた。
2016年にはロエベ財団とともに「ロエベ・クラフト・プライズ」を創設し、現代クラフトの革新と卓越性を称える取り組みも展開。2024年には映画衣装にも挑戦。親友ルカ・グァダニーノ監督の新作で、ダニエル・クレイグ(『Queer』)やゼンデイヤ(『チャレンジャーズ』)の衣装を手がけ、スタイリッシュなビジュアルを生み出した。彼はこの挑戦を「夢が叶った瞬間」と語っている。
そして今、彼は新たな舞台、ディオールでさらなる飛躍を遂げようとしている。
From madameFIGARO.fr