人生に迷ったら思いきった方へ。【ワイナリー女将、池田華依さんのトスカーナ暮らし 前編】

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世界遺産・トスカーナのオルチア渓谷で、家族で営むワイナリーの女将として働きながら、4人の子どもを育てる池田華依さん。雄大な自然を舞台に、いつもパワフルで笑いの絶えない日常を発信する彼女のSNSは、始めてわずか一年半でフォロワー40万人を突破した。

飾らない言葉、底抜けの明るさ、そして家族とのにぎやかな毎日。その姿に元気をもらい、いつの間にか“華依さん沼”にハマる人も続出。

彼女の何がこれほど人を惹きつけるのか。人生を大きく変えたイタリア移住の決断から、国際結婚、ワイナリーでの仕事、そして大地とともに生きるトスカーナの日々まで、その素顔に迫った。

陽気なイタリアに恋して。

─ 池田さんが、イタリアに移住したきっかけを教えてください。

池田華依さん(以下、池田) 私は昔から、体育会系な人だったんです。食べるのも好きだし、体を動かすのも好き。その流れで、日本の大学ではスポーツ医学を専攻したんですが、これにはまったく興味が湧かず、勉強も全然しませんでした。結局、その分野でやりたい仕事を見つけられなかったんですよね。

そんなとき、「私、お母さんになるのが夢だったな」って思い出したんです。30歳までに子どもは二人欲しい。そのためには25歳までに住む場所を決めたい。日本じゃなく、海外に出たい!という思いが一気に重なって、25歳でイタリアに渡りました。

─ なぜイタリアを選んだのですか?

池田 大学在学中にバックパック旅をやっていましたし、海外には興味があったんです。英語を話せたので最初はアメリカも考えたんですが、 昔ヨーロッパを旅していた父に「行くならイタリアだろう」と勧められて。言われてみると私は、スパゲッティが何よりも好きだし、フランスワインよりイタリアワイン派。次第に興味が湧いてきて、イタリア映画を見漁り始めたら、その文化にどんどん惹かれていったんです。

─ 実際に住んで、イタリアと日本のギャップは感じましたか?

池田 来た時は、すべてがカルチャーショックで。街並みも生活の仕方も食生活も、すべてが驚きの毎日。そして、とにかく人が明るい。スーパーでフルーツを買っている隣の人とも話すし、エレベーターで居合わせた人とも話すし、気が合えば「じゃあコーヒー飲みに行こうか」っていう流れになったりもして、そういうのが普通なんです。それが自分の性格に合っていたのかもしれません。

イタリアはスリが多くて危ないから、とか、為替がよくないからとか、何か理由をつけてここに来ないという選択もあったかもしれませんが、“理由をつけずに全部やる”という生き方を選んできた感じです。

国際結婚、そしてワイナリーの女将に。

─ イタリア人の旦那さんとはどちらで出会ったのですか?

池田 私がこのワイナリー「サンタジュリア」に、お客さんとしてテイスティングに来たんです。それからお付き合いを経て27歳で結婚、出産。30歳までに子どもを、という夢を叶えました(笑)

よく「国際結婚ってどうですか?」と聞かれるんですが、私はあまり国籍は関係ないと思ってて。 夫婦関係は人と人、一対一。それは世界共通、みな同じなんじゃないですかね。

でもやっぱり、うちが個人経営だからというのもありますが、義理の両親の存在がすごく大きいというのは強く感じます。トスカーナの田舎では、おじいちゃん、おばあちゃんを入れた家族のあり方が一般的で、日曜日はみんなでご飯を食べるというのが定番。家族の絆がすごく強いんです。

─ 代々ワイナリーを経営している家族に嫁ぐ、プレッシャーはありませんでしたか?

池田 全然! というのも私は実家がお寺をやっていまして、父も母もそこで働き、お檀家さんがしょっちゅう出入りして、という環境で育ったのでとても似ていたんです。お出しするのがお茶じゃなくてワインになった、ぐらいの感覚(笑)

Bindi Michele(c)diritti riservati

いま私はテイスティングルーム・ホストを担当しているのですが、最初の数ヶ月は考えましたね。「海外から来るお客様にとって、せっかくイタリアのワイナリーまで来てるのに、日本人がもてなすのってどうなんだろう?」と。でも始めたら反応がとても良く、友達にまでなったりして、「あ、全然大丈夫だな」と気持ちが楽になりました。

Bindi Michele(c)diritti riservati

ちなみにワイナリー経営って、機械を揃えたり人を雇ったり、設備投資が本当にかかるので、ワインを売っても売ってもお金が留まらないっていうところは、ずっと疑問です(笑)貯金残高を見ては「え、これ大丈夫そ?」と思うこともあるけれど、まあ義父母もそうやってきたと言うので、そういうものかと自分を納得させる日々です。

─ リアルなワイナリー女将の話、面白いです。これだけ広大な自然の中で暮らすことは、ご自身に何か影響を与えましたか?

池田 私、もともと田舎に住みたかったんですよ。横浜の桜木町という都会で育ち、みなとみらいが遊び場でした。ところが中学生の時に一度、学校の授業で農業体験をしたんですね。それが、なんか生き返るような体験だったんです。

泥の中に入って裸足で田植えをすること、田畑で自分が採ったものを食べること、田舎に寝泊まりすること。たった3日間の体験が忘れられず、「私の生きるところは田舎だ!」 という決心が、ずっと胸の内にあったように思います。

トスカーナの暮らしから教わる、お金で解決できない価値。

─ いま実際に住まれている、トスカーナはどんなところですか?

池田 イタリアは北から南までどこに行ってもきれいだし、人も楽しい。食文化もワインの文化も豊かだし、歴史や美術の深さや規模に関しても桁違い。魅力が詰まりすぎていて全部を見きれない国なんですが、ここトスカーナは“特別”だと感じます。

まず、空気が格段に澄んでいます。私はオルチア渓谷という世界遺産の中に住んでいるんですが、丘陵地帯なので常に風が通っていて。この夏のような酷暑でも、日陰に入ると風がふわっと吹き抜けて気持ちいい。それだけで「私ってラッキー!」と思えるんです。

あと、トスカーナで一番高い千数百メートルの山があるんですけど、そこからきれいな水が流れてきていて。水道をひねって水を飲むたびにも「ラッキー!」って思うんですよね。

そして土壌にも恵まれていて、ぶどう畑や野菜畑が一面に広がっています。ここで育つ野菜はどれも味が濃く、トマトなんて世界で一番美味しい。それを自分たちが育てたオリーブから搾ったオリーブオイルと塩だけで、シンプルに味わえること。それが、私の人生の価値を高めているんです。

もちろん手間はかかるし、現代人から見たら面倒くさいことばかり。朝早く起きて畑仕事をしたり、お肉を食べるために豚の解体をしたり。汚れるしとても大変な作業なんですが、戦後の貧しさを経験している義理の両親たちは、「自分たちが食べるためにはそれをしなきゃいけない」という考えを持っているから、日々当たり前に続けているんですよね。彼らを見ていると、生きる強さを感じずにはいられません。

ここで暮らしていると、どうやって育ったのかを知っているものを食べることと、それが全くわからないままの買ってきたものを食べることの違いが、私にとってはとても大きくなっています。お金で解決できない価値を、私は一生かけて学ばせてもらっているのかもしれません。

>>【ワイナリー女将、池田華依さんのトスカーナ暮らし 後編】

池田華依
KAE IKEDA

イタリア・トスカーナ在住。ワイナリー女将兼経営者 。4人のマンマ。世界一美しい田舎と言われる地で、仕事、育児に日々奮闘しながら全力で田舎生活を楽しんでいる。2026年、初の著書『トスカーナのワイナリーに嫁いで学んだ マンマのイタリア料理レシピ』(KADOKAWA刊)を上梓。

『トスカーナのワイナリーに嫁いで学んだ マンマのイタリア料理レシピ』

池田 華依著 KADOKAWA刊 ¥2,035

義母・ミレッラさんから受け継いだイタリアの家族料理を、日本でも手に入りやすい食材で作れるレシピにして全46品掲載。トスカーナの食文化や食育、これまでの歩みを綴ったエッセイ、料理に合うワインの選び方などのコラムも収録した、読み応えのある一冊。

〈レシピ〉
パスタ、主菜とつけ合わせ、スープとリゾット、ワインに合う副菜、おやつ
〈コラム〉
・イタリア人の義母から学んだ食生活の大切さ
・マンマの味になる5つの魔法
・料理に合わせたワインの選び方 ほか