ドゥラモットとサロン、シャンパーニュの「美しき姉妹」の秘密の関係とは?
Gourmet 2025.03.12
シャンパーニュ愛好家の憧れで、時に"幻"と称される「サロン」と、"サロンの妹"と言われ、シャンパーニュ初心者にとっては"知っているとかっこいい"ブランドである「ドゥラモット」。いわゆる"姉妹ブランド"だが、もともとはどのような関係にあるのだろう? 両メゾンの代表取締役社長であるディディエ・ドゥポンが昨年末に来日、その美しき秘密を教えてくれた。

サロンは、単一年、単一村(コート・デ・ブラン地区ル・メニル・シュル・オジェ村)、単一品種(シャルドネ)で造られ、およそ10年熟成させて出荷される特別なシャンパーニュだ。その上、"極めて"作柄のよい年にしか造られず、1905年のファーストヴィンテージから現行の2013年ヴィンテージの間に造られたのは、わずか44ヴィンテージのみという希少性の高さを誇る。
20世紀初頭、毛皮商として成功したウジェーヌ=エメ・サロンが「友人や自分のための最高のシャンパーニュを」と、贅沢なプライベート・キュヴェとして誕生させたシャンパーニュ。「サロン」のおいしさは瞬く間に評判となり、当時の粋人たちの間に広まっていった。
愛好家の間では「サロンが造られない年、そのブドウはドゥラモットに使われる」という噂話は有名だ。こう書くとドゥラモットはサロンのセカンドラベル的存在かと思われがちだが、事実は全く違う。
ドゥラモットは、1760年にランス市参事会員のフランソワ・ドゥラモットによって創立された老舗メゾンだ。創業者の次男ニコラ・ルイはマルタ騎士団のシュヴァリエ(騎士)であり、1824年、復古王政のブルボン朝最後のフランス国王シャルル10世の即位式には商事裁判所長官として参列、後にレジオン・ドヌール勲章を受勲している。その歴史は260年以上という由緒正しきメゾンなのだ。

両社の代表取締役社長であるディディエ・ドゥポンはこう語る。
「サロンを造らない年、ブドウはドゥラモットに使われるというのは事実です。ですが、それは決してブドウの出来、不出来によるものではありません。サロンは極めて個性的なシャンパーニュで、私たちがブドウを選ぶ際に最も重要視するのは、"このブドウはサロンになり得る強靭な酸を持っているかどうか"。いずれにせよ、私たちの畑のブドウは全てが素晴らしい(笑)。サロンになれるかどうかを見極めているだけなのです。一方、ドゥラモットは透明感のある酸が魅惑的で、サロンのように長い熟成を待たず、いつ飲んでもおいしいという大きな魅力があります。それぞれに違う個性を、皆様にお伝えしたいと思っているのです」

サロンとドゥラモットが"姉妹ブランド"となったのは、1988年のこと。ローラン・ペリエの傘下に入ったことがきっかけだった。当時、ローラン・ペリエ社を率いていた故ベルナール・ドゥ・ノナンクールはシャンパーニュ地方で大きな尊敬を受ける人物で、本質を見極める目と先見の明の持ち主としても知られていた。その彼が、サロンとドゥラモットを率いるようにと社運を委ねたのがドゥポンだった。
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「当時、私はまだ30代で、その責務の重さに大きな緊張を覚えました。そして、まずはサロンとドゥラモットをテイスティングしたのです。個性は違っていましたが、両者とも素晴らしいブラン・ド・ブラン(シャルドネだけで造られるシャンパーニュ)で、酸の美しさ、味わいのピュアさが共通していました。そして、"最高のものだけを造り出す"という哲学も共通していた。私は、ふたつのメゾンが所有する畑のテロワールをきちんと把握し、それぞれの個性を厳格に生かせばおのずと違いは出てくると考えました。そしてまた、時にサロンのブドウをドゥラモットに使うなど、新たな試みを行うことで、さらなる魅力が引き出されると確信したのです」
当時を振り返ったドゥポンは、こんなことも話してくれた。
「ドゥラモットは"サロンの妹"と言われることが多いのですが、実は違います。ドゥラモットの歴史はサロンより長く、むしろ"姉"と言っていい。サロンより大らかで親しみやすく、どんな料理、シチュエーションにも寄り添ってくれるのは、姉ならではの懐の深さでしょう。そしてサロンは華やかな妹。この美しき姉妹は最強です(笑)」。


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text: Kimiko Anzai