韓国映画の舞台を巡る、シネマティックなソウル散歩へ。

Travel 2026.04.10

ホン・サンス映画の舞台をはじめ、さまざまな表情を持つソウルは韓国映画のもうひとつの主役。韓国映画に精通し、酒場を愛する紀行作家のチョン・ウンスクに、映画の1シーンにもなったちょっとディープなソウルを案内してもらった。

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シネマティックソウル

文 チョン・ウンスク

ソウルの街は2010年頃から西洋的な洗練が進んだが、いい意味での猥雑さも残っていて、そこが映画的だと感じる日本人も少なくないようだ。ソウル駅を起点にシネマティック散歩を始めよう。

旧ソウル駅舎から忠武路へ。

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日本時代の京城駅(現・文化駅ソウル284)はその機能を南側の駅舎に譲って久しいが、今も昔のままの姿をとどめている。映画『暗殺』(2015年)ではチョン・ジヒョン扮する独立運動家がこの駅に降り立つシーンがあった。

駅舎の向かい側にある警察署前では、往年の名作『鯨とり コレサニャン』(1984年)で放浪者(アン・ソンギ)と大学生(キム・スチョル)が出逢うシーンが撮影された。

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駅舎の北側をまたがる高架路は2017年に遊歩道「ソウル路7017」に生まれ変わった。そこを東方向に進み、延長線上にある退渓路(トェゲロ)を南大門(ナンデムン)市場や明洞を左手に見ながら歩くと、かつては映画産業の拠点だった街、忠武路(チュンムロ)に到達する。24年秋、歴史ある大韓劇場が閉館し、映画街の匂いは消えてしまったが、『ソウル・バイブス』(22年)の再現映像でかつての様子を見ることができる。

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忠武路駅から北方向の鐘路(チョンノ)まで延びる年季の入った雑居ビル群、通称「世運商街」では『義兄弟SECRET REUNION』(10年)、『10人の泥棒たち』(12年)、『監視者たち』(13年)、『神の一手』(14年)、ドラマ「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」「ヴィンチェンツォ」「北極星」「シスターズ」などが撮影された。老朽化したビル群はソウル市長が代わるたびに「壊せ」「残せ」が議論される。ソウルの風景はいつも一期一会だ。

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ホン・サンス作品の舞台。

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世運商街脇の空中歩行路を1キロほど歩いた辺りを横切る清渓川(チョンゲチョン)以北が北村(プッチョン)だ。ソウルを舞台にしたホン・サンス監督作品の多くがこのエリア、特に鐘路区で撮られている。仁寺洞(インサドン)や慶雲洞(キョンウンドン)の路地では『カンウォンドのチカラ』(1998年)や『オー!スジョン』(2000年)が撮影された。

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当時、この辺りには個展を終えた作家が打ち上げをする風情ある酒場が点在していた。04年にサムジキルというショッピングモールができ明洞化が進んでしまったが、安国(アングク)駅の南側にある渋い酒場街がかろうじて往時の空気を伝えている。

また、安国駅北側のカフェ「イドゥラ」では、『草の葉』(18年)が撮影された。

鐘路区での撮影が多いといっても5号線鐘路3街駅付近の屋台街やソスンラギルのような観光客の手垢のついたところは出てこない。『次の朝は他人』(11年)、『自由が丘で』(14年)、『逃げた女』(20年)に登場する北村韓屋村(ハノクマウル)(桂洞ケドン)や三清洞(サンチョムドン)も、観光客でごった返しているような風景が捉えられることはない。市井の人々が暮らす街として淡々と描かれている。無機質といってもいい。登場人物の会話や人間模様を際立たせるのに夾雑物は不要なのだろう。モノクロ作品が多いのも同じ理由かもしれない。

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この辺りは朝鮮王朝時代から、両班(ヤンバン)(特権階級)たちが住んだ場所で、青瓦台(チョンワデ)(大統領の居所)も近い。とても毛並みのよいところなのだが、そのことはホン・サンス作品にとってあまり重要ではないだろう。

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ソウルという都市は北側が山がちで、日本の旅行者にもよく知られている通仁(トンイン)市場から西へ10分歩いただけで山が迫ってくる。

映画やドラマにそんなシーンがよく出てくるが、SPEC(ステイタスを得るための諸条件)磨きに疲れた人たちは週末、近くの山へパラムセロ(風に当たりに=気晴らしに)出かける。

最近日本で公開された『小川のほとりで』(24年)で、主人公(キム・ミニ)とその叔父(クォン・ヘヒョ)がウナギを食べた店やワインを飲んだ店は、そこからさらに北上した北漢(プカン)山の東側のふもとにある。

韓国人は緑豊かで水のきれいなところでウナギや鴨、豆腐料理などを食べながら一杯やるのを好む。似つかわしい酒は、『旅人の必需品』(24年)でイリス(イザベル・ユペール)がしきりに飲んでいたマッコリ。野趣のある酒だ。

山歩きで憂いを晴らし、酒で解放されると、好意や悪意の感情にブレーキが利かなくなり、人間関係が急展開したりする。

都会の刺激と自然の癒やし。緊張と緩和の落差の激しいソウルの街は人も風物も映画的なのだ。

紀行作家チョン・ウンスクが案内する、
ディープな韓国酒場案内。

Eun Sook Jung/チョン・ウンスク
紀行作家、コーディネーター。1967年江原道生まれ、ソウル育ち。90年代に日本留学を経験し、日韓両国で映画や酒場関連の執筆、コーディネーターなどを続ける。「月刊ホン・サンス」にコラム連載中。著書に『旅と酒とコリアシネマ』(A PEOPLE刊)、『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』(双葉社刊)などがある。https://x.com/Manchuria7

photography: Youngwoong Yim collaboration: JaKyung Jung 協賛:韓国観光公社(@kto.japan

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