ポンピドゥー・センター、抽象を選んだ女性芸術家【ヒロインたちの展覧会】
Paris 2021.06.16
「この絵はあまりにも上手く描けているので、女性の手によるものとは思えない」。え‼と声をあげたくなる一文から、ポンピドゥー・センターで8月23日まで開催中の『彼女たちはアブストラクトを手がける』展は幕を開ける。これは自分の生徒であるアメリカ女性のリー・クラスナーの作品についてドイツの抽象画家ハンス・ホフマンが語ったことばだ。中世でもなく、18世紀でもなく、1937年に……。
左:展覧会のポスター。1969年にロード・アイランドの大学からオーダーされたプロジェクトを実現中のアメリカ人アーティスト、Lynda Benglis(リンダ・ベングリス)。Henry Groskinskyが撮影したこの写真は、1970年に「The Life」誌に掲載されたものだ。 左から2番目:1963年、イギリスのセント・アイヴスのPalais de Danseで「Oval Form(Trezion)」のプロトタイプを製作中のBarbara Hepworth(バーバラ・ヘップワース)。©Bowness, photographie: Val Wilmer 右から2番目:Lygia Clark(リギア・クラーク)。1950年代、リオ・デ・ジャネイロのスタジオにて。Courtesy of “The World of Lygia Clark” 《Cultural Association》 右:Howardena Pindell(ホワルデナ・ピンデル)。ニューヨークの28thストリートのアトリエにて、1973年ごろ。Courtesy the artist, Garth Gretna Gallery, and Victoria Miro. Photo DR.
20世紀の抽象における世界の女性アーティストたちの貢献の歴史を語る展覧会で、106名の女性アーティストによる500作品を43の小部屋に分けて展示。時代は1890年代から1980年まで。部屋は時代や地域をテーマに、あるいはひとりのアーティストに絞って、と分けられている。会場図がついた小さなパンフレットを入り口で入手して会場を歩くも、思いのまま自由に周遊するも自由。展示は時代順で、絵画、彫刻、写真、装飾芸術、ダンス……と取り上げる分野はかなり広げられている。発見の多いこの意欲的な展覧会の最後を端折ってしまうことのないよう、時間をたっぷりとって出かけよう。
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各部屋の内容を以下に簡単に。これによって、どんな展覧会なのか少しイメージが掴めるのでは? ドキュメンタリー・フォーカスの部屋では、アーティスト以外も紹介されている。
1.「聖なる象徴主義:ジョージアナ・ホートン、エッシントン・ネルソン、アフ・クリント、フレーベ=カプタイン」
導入部的役割の部屋で19世紀の作品が並ぶ。ホートンの「The Eye of God」(1862年)が展覧会中で最も古い作品だろう。photo:Mariko Omura
2.「ブラヴァツキー、ホートン、アフ・クリント、フレーベ =カプタイン、クンツ、ペルトンを巡るアートとスピリチュアリズム(ドキュメンタリー・フォーカス)」
3.「ダンスと抽象、身体の幾何学化:ロイ・フラー、サン・ポイント、パリュッカ、センシ」
会場ではロイ・フラーの有名な“蛇のダンス”の映像を流している。波のように揺らしながら取る身体のポジションには彼女の幾何学的な仕事が見られるが、その後、身体を鉛筆代わりに空間にデッサンを描くように踊る仕事を試すダンサーたちが出現。そんな中には、“アエロフューチャリスト”と称されたイタリア人ダンサー、Gianni Censi(ジアンニ・センシ/写真)もいた。photo:Mariko Omura
4.「ソニア・ドロネー=テルク」
5.「ヴァネッサ・ベル」
ヴァージニア・ウルフの姉と枕詞付きで紹介されることが多い、Vanessa Bell(ヴァネッサ・ベル)。アーツ&クラフト運動をイギリスの田舎チャールストンで、アーティスト仲間たちと実践した。会場では、彼女がパートナーのダンカン・グラントとともに装飾した家や家具、陶器などもスライドで紹介。ヴァネッサは書籍のカバーデザイン、テキスタイルデザインも手がけている。 左は1914年のアブストラクトペインティング。中の下は所属していたオメガ・ワークショップのためのテキスタイル用デザインだ(1913年)。photos:Mariko Omura
6.「ヘレン・サンダース」
7.「ロシア女性の前衛 : ロザノヴァ、ゴンチャローヴァ、エクスター、ポポーワ、ステヴァノヴァ」
このテーマは紹介アーティストも多く、かなり広めにスペースが取られている。左は『Le Cocu magnifique』(1922/1967年)のために、リュボーフィ・ポポーワがデザインした舞台装置の模型。photos:Mariko Omura
8.「ゾフィー・トイバー=アルプ」
Sophie Taeuber-Arp『Composition Data』(1920年)。会場では彼女が手がけたダンスのコスチューム、家具が展示されている。またバーのインテリアの仕事は写真で見ることができる。©Centre Pompidou, MHAM-CCI/Georges Meguerditchiant/Dist.RMN-GP
9.「バウハウスにて:シュテルツル、アルベルス、アルント、コッホ=オッテ、ティーマン」
映画『バウハウスの女性たち』によって広く名を知られるようになったバウハウスの女性アーティストたち。織物工房で活躍したグンタ・シュテルツル、アニー・アルバースの作品が展示されている。アニー・アルバースは今秋、夫のジョゼフ・アルバースとふたりにフォーカスした展覧会がパリで開催される予定だ。photos:Mariko Omura
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10.「抽象的創造の周辺:コブロ、アンリ」
11.「リアルを抽象化、ジェオメトリックライン:デュラック、アンリ、ティエマン、クルル」
12.「リアルを抽象化、オーガニックライン:デュラック、アンリ、ティエマン、クルル」
バウハウスで学んだElsa Thiemann(エルザ・ティエマン)の壁紙のプロジェクトと写真。
13.「バーバラ・ヘップワース」
Barbara Hepworth (バーバラ・ヘップワース)の「Sculpture with Colour and Strings」(1939/1961年)。想像力を自由に駆使できるからアブストラクションが好き、と語る彼女の映像も流されている。photo:Mariko Omura
14.「ヴァレナ・ローヴェンスベルグとマーロウ・モス」
15.「テキサス・バウハウス:コープロン、ランスキー、メープルス」
16.「メアリー・エレン・ビュート」
(注:彼女はテキサス・バウハウスで学んだアーティスト。抽象アニメーションのパイオニアと評されている。会場でも彼女のオシロスコープ作品を鑑賞できる)
17.「表現主義抽象:ソーベル、クラスナー、デ・クーニング、ミッチェル、ジャッフ、フランケンタレール」
Elaine de Kooning(エレーヌ・デ・クーニング)の『Black Mountain #16』(1948年)。ブラック・マウンテン・カレッジで、彼女はジョセフ・アルベールによる絵画の色彩のセオリーのクラスで学んだ。
18.「アメリカにおける抽象の普及に貢献した3名の女性(ドキュメンタリーフォーカス):ドライアー、ルベイ、グッゲンハイム」
19.「ウック・ギョンイク・チョイと田中敦子」
20.「1950年代の彫刻と空間の遊び:パン、アサワ、ファルケンスタイン、ペナルバ、キュリー」
左:Marta Pan(マルタ・パン)は1956年にテック材を用いて、屈曲する彫刻『Le Teck』を製作。モーリス・ベジャールはマルセイユのル・コルビュジエ建築であるユニテ・ダビタシオンの屋上で、この彫刻をとりこんだバレエ『Le Teck』を創作した。会場では約11分のこの作品を鑑賞できる。 右:パリの景色を背景に展示されているRuth Asawa(ルース・アサワ)の作品。photos:Mariko Omura
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21.「マリア・ヘレナ・ヴィエイラ・ダ・シルヴァとヴェラ・パガヴァ」
22.「サロン・デ・レアイリテ・ヌーヴェルの周辺:シューケア、ヘレラ、ゼイド」
左:Fahrelnissa Zeidの『The Arena of the Sun』(1954年)。©Raad Zeid Al-Hussein ©Istanbul Museum of Modern Art Photo:Reha Arcan 右:Saloua Raouda Choucairの『Fractional Module』(1947〜51年)。©Saloua Raouda Choudair Foudation photo:©DR
23.「カッソロ、カーン、ヌムール」
24.「ブラジルのネオ・コンクレティスム:クラークとパペ」
25.「科学と写真:アボット、ホープフナー」
マン・レイに師事を仰いだBerenice Abbott(ベレニス・アボット)の『Periodic Straight Waves』(1960年頃)。科学を視覚化し、教育材料としての写真に彼女は興味を持っていた。photo:Mariko Omura
26.「ブラック&ホワイト、オプ&ポップ:ボト、ダダマイノ、コラロヴァ、ネヴェルソン、リレイ」
左:Louise Neveloson『Tropical Garden II』(1957年)。彼女はハンス・ホフマンのもとでキュビズムを学んでいる。このボックスのシリーズは廃材のアッサンブラージュから発展していったものだ。6区のGalerie Kamel Mennourでも7月24日まで彼女の作品を展示中。 右:Demant Dadamaino(デマント・ダダマイノ)の『Oggetto ottico dinamico』(1962~71年)。photos:Mariko Omura
27.「1960年代:アカルディ、ハフィフ、ケセル、ジャレイ」
Tess Jaray『St. Stephen’s Green』(1964年)。©Centre Pompidou, MNAM-CCI/Audrey Laurans/ Dist. RMN-GP ©Adgp, Paris 2021
28.「テキスタイルと抽象:アバカノヴィッツ、ビュイック、ヒックス、タウニー」
フレスコ画のように壁一面を覆うSheila Hicks (シェイラ・ヒックス)の『Textile Fresco』(1977年)。プレ・コロンビアンの織物のメソッドとインカのカウント用結目の組み合わせ。アートとアーティザナルの境を越え、彼女はテキスタイルの彫刻を製作。photo:Mariko Omura
29.「エキセントリック・アブストラクション:ブルジョワ、ヘッセ、カストロ」
Louise Bourgeois(ルイーズ・ブルジョワ)の『Avenzo Revisited II』(1968-69年)。©The Eaton Foundation/Adagp, Paris 2021 Photo:Christopher Burke
30.「クリティカル・アブストラクション:ベングス、シカゴ、メンケン」
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31.「ラインのサインの元に:ラザリ、レイグル、シン」
32.「ミニマルアートとの境界線で:ジェゴ、チャイルド、マルタン、モハメディ」
ロンドンのセント・マーチンズ・スクール・オブ・アートで学んだNasreen Mohamediの『無題』。(1970/ 2003年)
33.「レバノンのモダニティ:アドナン、カール」
34.「ヴァージニア・ジャマミロ、アルマ・ウッドセイ・トマス」
35.「コンピュータが生む抽象:モルナール、シュワルツ」
36.「モニール・ファルマンファルマイアン、ニューヨークのイラク女性」
テヘランのヘプタゴン・スターにあるアトリエで作業中のMonir Farmanfarmaian(モニール・ファーマンファーマイアン)。1973年。photo:D.R. ,Estate of Monir Shahroudy Farmanfarmaian
37.「プロセスベースの抽象 : マウラー、ロックブリュンヌ」
38.「フェミニストと抽象(ドキュメンタリー・フォーカス):シカゴ、フェール、ハモンド、リパール、ノックリン、パーカー、ポロック」
39.「アメリカの1970年代:ヘイルマン、カステン、マレー」
Barbara Kasten『Metaphase 3』(1986年)©Barbara Kasten
40.「政治的抽象?:ハモンド、ピンデル」
41.「抽象の有形性:ブラウン、カランド、サンシェーズ」
レバノン出身のHuguette Caland(ユゲット・カランド)の『Bribes de corps』(1973年)。Courtesy of the family Photo:Elson Schoenholz, courtesy of the Caland family
42.「宇宙的抽象 : APYアートセンターコレクティブ、チュー」
43.「タニア・ムーロー」
会期:開催中〜8/23
Centre Pompidou
Place Georges-Pompidou, 75004 Paris
開)11時〜21時
休)火
料)14ユーロ
www.centrepompidou.fr
editing : MARIKO OMURA