パリジェンヌ・セシルが教える、アンティーク食器、テール・ド・フェール探しのポイント。

Paris

フランスのアンティーク食器「テール・ド・フェール」。その世界に魅せられたアトリエ「ブランシュ・パティーヌ」のオーナーでもあるセシルが陶磁器の魅力を徹底解説。ジアン、サルグミンヌなど日本でも知られた陶磁器窯の見極め方、蚤の市でのハンティング方法、テーブルコーディネートアイデアまでをご紹介。

第2回目は、「テール・ド・フェール」の食器の裏側に宿るお話や、老舗百貨店サマリテーヌにまつわる歴史的な物語、そして蚤の市での見つけ方まで紹介していく。

>>第1回目 パリジェンヌ・セシルが案内する、フランスのアンティーク食器、テール・ド・フェールの世界。


第2回
食器の裏側に宿る物語――エスタンピーユが語る歴史

アンティークの食器を手に取る時、多くの人はまず表のデザインに目を向けるだろう。だが、その食器をそっと裏返してみてほしい。そこには、小さくも奥深い、もうひとつの物語が刻まれている。テール・ド・フェールを見分けるうえで最も重要な手がかりが、食器の裏に押された「エスタンピーユ(証印)」である。エスタンピーユには製造所の名前、モデル名(装飾の名前)、時には製造年代のヒントとなる情報が含まれている。

左:バドンヴィリエールの美しいエンピールシリーズ。 右:食器の底のエスタンピールを見ると、バドンヴィリエール製造、モデル名はエンピール(EMPIRE)ということがわかる。FTは、この製造所の創業者Théophile Fénalのイニシャル。©︎maki kotabe

たとえば、ショワジー=ル=ロワの食器には、製造所名、モデル名、そして当時の経営者イポリット・ブーランジェの名前まで入っているものがある。イポリット・ブーランジェが経営を担ったのは1863年から1892年のことで、その後会社はイポリット・ブーランジェ・エ・コンパニーという名の株式会社へと移行した。つまりエスタンピーユにその社名が刻まれていれば、1892年以降、およそ1920年頃までの製造だということが読み取れる。

左:ショワジー=ル=ロワの滑らかな艶と繊細な装飾が魅力のプレート。 右:ショワジー=ル=ロワ製造、イポリット・ブーランジェ・エ・コンパニーとあり、テール・ド・フェールとも記されてある。DERBYとROYANはそれぞれのモデル名。
©︎maki kotabe

このように、エスタンピーユは食器の「身分証明書」ともいえる存在だ。ただし「テール・ド・フェール」という言葉が明記されているとは限らず、製造所名だけの場合も、モデル名だけの場合もある。各製造所のエスタンピーユはそれぞれ異なり、同じ製造所でも時代や経営者によって変化した。当時から大きな製造所であったジアンなどは経営者が替わるたびに印が変わり、何十種類ものエスタンピーユが存在するという。多くの記録が戦争で焼失してしまったため、正確な年代の特定が難しいケースも少なくない。「今では裏返さなくても、見ただけでわかります。でも最初は、エスタンピーユが一番の手がかりです」とセシルは言う。目が慣れてくれば、素地の色やデザインだけでおおよその製造所の見当がつくようになる。それもまた、テール・ド・フェールを探す醍醐味のひとつだ。


そんなエスタンピーユをめぐる物語の中でも、とりわけ印象的なのが、パリの老舗百貨店サマリテーヌにまつわるエピソードだ。19世紀末、製造所のひとつであるジュール・ヴィエイヤールは、サマリテーヌのために独占的に食器を製作していた。今でいう、いわば限定コラボである。「コリブリ(Colibri=ハチドリ)」や「ネニュファール(Nénuphar=スイレン)」と名付けられたモデルは、ジュール・ヴィエイヤールだけが生産し、サマリテーヌで販売されていた。当時、百貨店向けの食器には製造所のエスタンピーユの代わりに販売店のエスタンピーユが押される慣習があったため、「サマリテーヌ」の名が刻まれた食器が存在する。また「E.C.」というイニシャルは、サマリテーヌの創業者エルネスト・コニャックへのオマージュだ。セシルはこの事実を長年の調査の末に突き止めた。「最初は、サランの装飾家の作品だと思っていたんです。でも調べていくうちに、すべてがつながっていった。こういう発見の瞬間が、この仕事の醍醐味です」

左:この貝型のラヴィエール(オードブル皿)は、ジュール・ヴィエイヤールがサマリテーヌのために製造したもの。 右:コリブリというモデル名、テール・ド・フェールということも記されている。©︎maki kotabe

そして130年以上の時を経た現在、セシルはサマリテーヌと同じ建物の中にあるシュヴァル・ブランホテルの三つ星レストラン・プレニチュードのテーブルコーディネートにも携わっている。かつてその場所で生まれた「コリブリ」と「ネニュファール」のモデルが、再びその食卓に並ぶようになったのだ。「始まった場所に、130年後に戻ってきた。これを知った時、本当に胸が震えました」。歴史の糸が静かに、しかし確かにつながった瞬間である。


プレニチュードのチーズコーナー。中央に置かれているのがコンブリ。©︎Richard Haughton

そうした歴史の積み重ねを知ったうえで、実際に蚤の市へ足を運んでみたい。セシルが教えてくれた、テール・ド・フェールを見つけるためのポイントをご紹介しよう。まず素地の色。多くはアイボリーがかった色合いで、年月を経てほんのり黄みを帯びているものもある。次にデザイン。植物をモチーフにしたものが多く、金彩はほとんど使われていない。磁器のような華美さはなく、素朴で自然体なのが特徴だ。手に取った時の軽さと、エナメルが無傷の状態であれば絹のような滑らかな触感も、ひとつの目安になる。そして必ず裏のエスタンピーユを確認すること。製造所名や経営者名が読み取れれば、おおよその製造年代も見えてくる。

左:テール・ド・フェールはなんといっても温かみのある色合いと洗練されたデザイン、滑らかな手触りが魅力だ。 右:いまはもう製造されていないテール・ド・フェールをセシルはとても大切に扱っている。壊れたものは自ら金継ぎを施して新たな価値を与えている。©︎maki kotabe

セシルが特に強調するのは、状態の見極めの大切さだ。「テール・ド・フェールだから、アンティークだからといって、何でも良いわけではありません。私が扱うのは、最も繊細で希少な作品だけ。蚤の市では同じテール・ド・フェールでも、質も希少性もまったく異なるものが同じ値段で並んでいることがある。だからこそ、少しずつ目を養うことが大切なんです」エナメルの状態、素地の質、装飾の精度――それらを見極める目が育った時、蚤の市はまた違う顔を見せてくれるはずだ。

左:アミアンのブロカントにて。自分の好みがわかってくると、大きなブロカントでも欲しいものがあるお店を見つけやすい。 右:パリのブロカントにて。同じモデルをシリーズで売っていることも多いが、一枚からでも購入できる場合もあるので、ぜひお店の人に聞いてみよう。©︎maki kotabe

次回、セシル流、テール・ド・フェールを使ったテーブルコーディネートを指南。

©︎maki kotabe

ブランシュ・パティーヌのオーナー、セシル。美術史を学び、アートギャラリーやオークションハウスで働いた後、2015年に「ブランシュ・パティーヌ」をオープン。テール・ド・フェールを学び探求し、その魅力に再び価値を与えている。過去から未来へとその歴史を紡ぐ専門家。著書『TERRE DE FER Collections de céramique française』は2024年に出版。@blanchepatine

※ブランシュ・パティーヌ オーナーによる著書はフランス国立図書館(BNF)にも収蔵。現在はフランス語版のみ。

Blanche Patine
29 Rue des Vinaigriers, 75010 Paris
https://www.blanchepatine.com/
アトリエへの訪問は要予約。
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  • editor & photography: Maki Kotabe