ソロだからこそ見えた自分自身を楽しみたい。
アルバート・ハモンド・ジュニア|ミュージシャン
先日開催されたフジロックフェスティバル23では、ヘッドライナーとして登場し、21世紀を代表するガレージロックバンドとして圧倒的な存在感を放った、ザ・ストロークス。そのギタリストであるアルバート・ハモンド・ジュニアは、バンドと並行してソロ活動にも力を注いでいる。最新作は、バンドサウンドと距離を置き、より自分らしい音楽を追求できたと語る。
「人生は、小さな変化がたくさん起こるからおもしろい。そして、変化を受け入れた途端、ほかのことがやりたくなる。これまでのソロ作はバンドのメンバーと一緒に制作していたけど、今回は自分だけで作りたいって思ったんだ。4枚のソロアルバムを作ってやっと、もうバンドの活動は十分かな? って思うようになって。しかも、ザ・ストロークスは最高のバンドだから、ほかで似たようなことをやっても、比較されるか敵わないかのどっちかになる。その結果を経験してみて、バンドとは違うやり方にしたほうが自分自身がもっとエンジョイできるんじゃないかって。だから今回は、バンドを解体してまったく違う方法で曲を作ってみたんだよ」
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ザ・ストロークスでデビューしてから20年以上、現在は40代を迎えたアルバート。その時間で積み上げてきた奥行きが歌声から滲む。
「自分は、人々を興奮させるようなクレイジーな歌声を持っているわけじゃない。しかも、ツアーで歌うとかなり声を消耗してしまう。だから、今回のアルバムでは、曲を書いている時点でキーが高すぎると思ったら意識的に下げるように努力をしたんだよ。そうしたら格段に歌いやすくなったし、その分ライブの演出に集中できて、深みを出すことができたと思う」
年齢や時代による変化を柔軟に取り入れながらも、彼が作る楽曲全体に響く軽やかなギターサウンドからは、デビュー当時と変わらない音楽に対するまっすぐな姿勢と、地元であるニューヨークの活気あふれる鼓動が伝わってくる。
「やっぱりエキサイティングな街だよね。何かを勝ち取るには最高の場所だと思う。あそこで人々を納得させることができれば、どこでも人々を惹きつけることできるから。そして、常に変化し、何かが起こっている反面で、昔から変わらぬ美しさもある。そこがニューヨークの魅力だと思う」
変化する時代の空気と不変の美学、そのふたつを大切にしながら、これからもありのままの自分や、音楽を表現したいと語る、アルバート。彼の足取りは、今後さらに軽やかになっていきそうだ。
1980年生まれ。ニューヨークを拠点に活動。2001年にバンド、ザ・ストロークスのギタリストとしてデビュー。06年にソロアルバム『Yours To Keep』をリリースし、来日ツアーも行った。これまで発表したソロ楽曲の再生数は2億に迫る勢い。
*「フィガロジャポン」2023年10月号より抜粋
photography: Scottie Cameron text: Takahisa Matsunaga