「エロティックスリラーを女性視点で描く」ハリナ・ライン監督、『ベイビーガール』で目指した新境地とは。

インタビュー 2025.03.21

エロティックスリラーを、女性の視線で描きたかった。

ハリナ・ライン/映画監督、俳優

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HALIINA REIJN/ハリナ・ライン
1975年、オランダ生まれ。俳優として『ブラックブック』(2006年)や『ワルキューレ』(08年)などに出演する一方、『Instinct』(原題、19年)で監督デビュー。第2作『BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』(22年)で国際的評価を得た。

監督業へと進出し成功する女優が増えつつあるが、その中でもオランダ出身のハリナ・ラインは注目すべき新進監督のひとりといえるだろう。

監督デビュー作『Instinct』(原題、2019年)はロカルノ国際映画祭で注目を浴び、アカデミー賞オランダ代表に選出されるなど大成功を収めたが、A24製作の長編第3作『ベイビーガール』は第81回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で上映、ニコール・キッドマンが最優秀女優賞を受賞するなど高い評価を得た。キッドマン演じるCEOが若くてハンサムなインターンとの情事により自らの性を開放するという物語は、『ナインハーフ』(1985年)や『幸福の条件』(93年)といったエロティックスリラーの女性版ともいえる。

「若い頃、それらの映画における男女のパワープレイを観て、私の中に秘めていた欲望が肯定されたかのように思いました。ただ、男性監督によって描かれたそれらの作品で、最後には女性が罰せられたりするのはグロテスクで性差別的だとも感じていました。なので、そうした欲望を女性目線で描きたいと思ったのです。また、女性は強いとか優しいとかだけではなく、もっと複雑な生き物なのだということも本作を通じて描き直したかったテーマでもありますね」

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年齢差のあるCEOに対し不遜ともいえる態度で向き合う若きインターン、サミュエルの存在が作品の肝だ。犬を意のままに手懐ける彼は、同様にロミーにも"飼い主"かのように優位に振る舞う。

「サミュエルを実在しないファンタジー的な存在として感じる人もいるかもしれません。若くて、精神的にしっかりしていて、ロミーにオーガズムを与えることで彼女を支配できるし、癒やすこともできる。でも、過去を見れば、男性監督は妄想によってロリータやファムファタールといった女性キャラクターを作り上げてきた。私もそういった役を演じたことがあります。私がサミュエルという女性にとって神話的な役を作ったのはある種、報復でもあります」

とはいえ『ベイビーガール』の素晴らしさは、男性監督の作品に攻撃を仕掛けるものではない。むしろ、女性たちに自らの欲望と向き合うことを啓発するユーモアとアイロニーに満ちた寓話だ。

「女性......男性もそうですが、誰かに弱みや繊細な部分を見せたい、誰かにケアしてもらいたいという願望があると思うんです。逆に、育てたい、面倒をみたいという願望ももちろんある。そういうロマンティックでセクシュアルな関係をどのように表現するかと考えた時に"ベイビーガール"というタイトルが浮かびました」

"ミルク"のシーンはこだわりのシーンだという。お見逃しなく。

『ベイビーガール』
優しい夫と子どもたちと、誰もが憧れる暮らしを送っていたロミーは、彼女の欲望を見抜き挑発するインターンのサミュエルと出会う。駆け引きをやめさせようとするロミーだったが......。3月28日からTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国順次公開。

*「フィガロジャポン」2025年5月号より抜粋

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photography: Amrita Panday text: Atsuko Tatsuta

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