BWAピッチコンテスト ファイナリスト発表会 「お直し」の思いをつなぎ、技術をつなぎ、社会をつなぐ。
Society & Business 2022.05.27
Professional Award#3
お直し技術を用いた「衣」のサステナブルの実現
発表者:大山愛美さん
大山愛美 / Aimi Ohyama
社会起業家×縫製職人 AIM株式会社代表取締役
幼少期より祖母の縫製をしている姿を日常生活で感じ、以来25年間縫製業界に従事。衣服の仕立て直し業Coatolieを経営。事業拡大、技術者の育成、海外支援、九州の地方創生の為、縫製業界の未来に貢献していきます。
instagram : @coatolie.de.aimi
facebook : @coatolie
大山愛美さんが提案するのは「縫製技術を用いた『衣』のサステナブルの実現」。幼い頃から日常の中で祖母が縫製をしている姿を見て過ごしてきたという大山さん。現在は『Sewing Society Together』をコンセプトに、衣服のお直し・リフォーム業を営んでいる。
「私が実現したいのは『思いをつなぎ、技術をつなぎ、社会をつなぐ』ことです。まず『思いをつなぐ』についてですが、お客様の衣服に込められた思いを形に残し、繋いでいくのが『お直し』の仕事です。体型や流行りに合わせるのではなく、その服にまつわる思い入れまで衣服の一部ととらえる。そして、デザインや機能性だけでは語れない、1つの衣の存在意義を次世代へ繋げていきたい。
次に『技術をつなぐ』。日本の縫製業界は技術者の方の高齢化や後継者不足により、技術の継承が難しくなっています。織物、染め、仕立て、お直し、さらには日々の営みのなかで脈々と受け継がれてきた技術は日本の伝統文化です。これらを習得することが日本のアイデンティティと考え、新しい技術者への教育を行なっていきます。
最後に『社会をつなぐ』。日本の暮らしで育まれた“お直しの心”と“技術”。これを、次の世代へ繋ぎ、伝統技術を通して、世界の環境問題や貧困問題の解決へ繋げていきます」(大山愛美さん、以下同)
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日本の伝統技術を海外へ伝え、貧困問題解決の糸口に。
この目的を実現するために、大山さんの事業は「店舗のDX化」「教育」「社会貢献」「海外支援」という4つの柱を掲げる。例えば、「教育」の事業は、Sewing Society Togetherというコンセプトにダイレクトにつながっている。
「お直しの項目ごとに動画を作成するなど、伝統的な専門技術をデジタル化し、eラーニングで学べる教育システムを構築しています。また、これらを活用して障がい者など社会的マイノリティへのリカレント教育を行い、技術取得による収入機会や就労機会の創出へと繋げます。2022年4月には、お直しの組合である“Japan Onaoshi Alliance”を創設する予定です(*その後、4月1日に設立)。それぞれが学んだ技術を円滑に守り、協力していくための組合で、具体的にはお直しを広めるための活動、資材や機材の共同購入、技術習得によるお直しのレベル向上などを考えています」
「社会貢献」の事業では、高齢過疎化が進む地域や障がいを持つ人に向けた「訪問お直しサービス」を展開。技術者を派遣して服の脱衣困難などに対する解決方法を提案し、インクルーシブファッションを実現する。また、衣類製造によって生じる残布や着物の切れ端などを、製品に作り直すアップサイクリング、介護福祉施設での物作りワークショップに活用する取り組みなども行なっている。
さらに「海外支援」事業では、貧困問題を抱える地域で教育福祉支援を行う国際NGOと連携。教育事業で培ったeラーニングの教育システムをベースに多言語化やVRを活用した育成プログラムに発展させ、熟練した縫製技術者が現地の人たちへ指導・アドバイスを行う。これにより、技術者の育成を目指すとともに、現地での新たな事業と雇用を創出し、貧困率の改善を目指している。
海外支援の様子。(大山さん提供)
「自分たちがいまいる環境は当たり前ではありません。だからこそ、将来の子どもたちに持続可能な社会や未来を残していきたい。そのために、縫製の技術を通して、世の中の一人ひとりが『自分にとってなにが大切か』ということに気付き、それを大切にして生きる人を増やしていきたいです。お直しは、SDGsという言葉が生まれる前から、日本の暮らしに根付いていました。その心と技術を持って、“衣と人”を次の世代へと繋げていきます」
<審査員のコメント>
ゼブラアンドカンパニー 阿座上陽平さん
自身がお直しを提供するだけでも、十分に意義のある取り組みです。それに加え、技術を繋ぐというところまで見据えて事業を設計されている。かつ、日本の伝統的な技術を繋ぐにもこだわっていて、本当に素敵なビジネス。SDGsにもある「つくる責任、つかう責任」にも繋がる事業だと思います。今後は熊本だけでなく、全国展開を目指しネットワークを形成されていくと思いますので、期待しています。
そして今後、国内の事業や海外支援、社会貢献の拡大をしていくにあたって、組織づくり、資金の調達が課題になるだろうと思います。その際に、大山さんのアクションがどんな社会的変化につながっていくかを図で表す「セオリー・オブ・チェンジ」という手法を使えば、業界を知らない人にも事業の必要性が伝わりやすくなると思います。ぜひ参考にしてみてください。
text : Noriyuki Enami (Yajirobe.Co.Ltd)